「善玉」か「悪玉」か コレステロール値と脳梗塞・心筋梗塞の深い関係

毎年4月になると学校や会社で行われる健康診断。しばらくして戻ってきた健診結果を見ると、血圧や血糖値の欄に基準外(異常)を示す「*」マークが付いていてガッカリという中高年も多いだろう。だが、それらの項目の中には健診を受けた人の実に3分の2に「*」が付くようなものがあるのを知っているだろうか。逆に「ALT」や「AST」のように耳慣れないけれど、健診結果に注目したほうがいい項目もある。

長浜バイオ大学・永田宏教授の新刊『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』(講談社+α新書)から、あまり知られていない健診の真実をお届けする。                     

『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』(講談社+α新書)

HDLは「善玉」、LDLは「悪玉」

HDLコレステロール(HDL-C)とLDLコレステ ロール(LDL-C)は、職場健診・特定健診などの必須項目に入っています。

これら2つと中性脂肪が高いと「脂質異常症」と言われます。脂質異常症だとしても、すぐに何かの危険が迫っているというわけではありません。

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しかし動脈硬化が進みやすくなるため、徐々に脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上昇します。

HDLコレステロールは「善玉」、LDLコレステロールは「悪玉」、そう憶えているひとも多いことでしょう。もちろんそれでいいのです。悪玉コレステロールは低いほうがよい、善玉コレステロールは高いほうがよい。そこさえ押さえておけば、健康管理のうえで、とくに問題ありません。

同じコレステロール分子で、比重が異なるだけ

しかしせっかくなので、もう少し詳しい話をしていきます。

実はコレステロールという物質は化学的には1種類です。HDLやLDLといった区別はありません。善玉も悪玉もなく、すべて同じコレステロール分子なのです。

中性脂肪はタンパク質などと結合してリポプロテイン(LP)と呼ばれる粒子を形成しているのですが、この粒子は複雑な構造をしています。中性脂肪などの塊を核とし、そのまわりをリン脂質(細胞膜などの主要材料)とコレステロールの層が囲い、さらに外側をアポリポプロテインというタンパク質が覆うという、3層構造をしています。

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ただし大きさや重さが統一されているわけではなく、さまざまなサイズや重さのものが血液中に浮いています。とくに重要なのが比重です。

LP粒子の比重は、コレステロールの含有量によって異なっているのです。含有量が少ないと高比重、多いと低比重になります。

そして高比重のものをHDL(High Density Lipoprotein)、低比重のものをLDL(Low Density Lipoprotein)と呼んでいます。

LDLの比重は水の約1.02〜1.06倍、HDLのほうは約1.06〜1.20倍で、遠心分離機によって分けることができます。そしてLDL粒子に使われているコレステロールをLDLコレステロール、HDL粒子に使われているものをHDLコレステロールと呼んでいるという、それだけのことなのです。

繰り返しになりますが、LDLコレステロールもHDLコレステロールも、まったく同じコレステロールです。

HDLとLDLのバランスが崩れると脳梗塞のリスクが

コレステロールはリン脂質とともに、細胞膜の材料として使われます。また各種ホルモンやビタミンDの原料になったり、脂肪の消化吸収を助ける胆汁酸に使われたりしており、人体になくてはならない物質です。しかしHDLとLDLのバランス(LH比)が崩れると、健康上の問題が生じてきます。とくに脳梗塞や心筋梗塞が問題です。

「脳卒中」という言葉がありますが、これは「脳出血」「脳梗塞」「クモ膜下出血」の3つの病気の総称です。

このうち脳出血と脳梗塞が、コレステロールと深く関係しています。コレステロールが不足すると、血管が弱く、破れやすくなります。つまり脳出血を起こしやすくなるのです。

LDLが過剰でHDLが少ないと動脈硬化を興しやすい

戦前から戦後にかけて、日本は食料事情がたいへん悪く、脂肪分の乏しい食事を摂っていたため、脳出血が非常に多かったことが知られています。

しかし食料事情が改善されて、脂肪分を豊富に摂れるようになると、日本人の血管も少しずつ丈夫になってきて、脳出血は急速に減りました。

代わりに増えてきたのが脳梗塞です。コレステロールが過剰になると、血管が動脈硬化を起こして詰まりやすくなるからです。

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ついに1990年代に至って脳出血と脳梗塞が逆転し、いまや脳卒中の代表格と言えば脳梗塞という時代になっています。この血管の丈夫さや動脈硬化と、LDL・HDLコレステロールが深く関わっています。

とくにLDLコレステロールが過剰でHDLが少ないと、動脈硬化を起こしやすくなり、それが脳梗塞の主な原因であることが明らかになってきました。

【後編に続く】健診で、コレステロール値が高いと指摘されたひとが注目すべきはLDL・HDLコレステロール単体の数値よりも「LH比」だった!

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