放置すると人工透析も…健診結果に記された「HbA1c」の意味を知っているか


永田 宏
長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授・学科長

毎年4月になると学校や会社で行われる健康診断。しばらくして戻ってきた健診結果を見ると、血圧や血糖値の欄に基準外(異常)を示す「*」マークが付いていてガッカリという中高年も多いだろう。だが、それらの項目の中には健診を受けた人の実に3分の2に「*」が付くようなものがあるのを知っているだろうか。逆に「ALT」や「AST」のように耳慣れないけれど、健診結果に注目したほうがいい項目もある。

長浜バイオ大学・永田宏教授の新刊『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』(講談社+α新書)から、あまり知られていない健診の真実をお届けする。   

『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』(講談社+α新書)

謎の項目「エイチ・ビー・エー・ワン・シー」

空腹時血糖値は知っていても、「HbA1c」を知らない人は多いと思います。これも糖尿病関連の項目です。

読み方は「エイチ・ビー・エー・ワン・シー」が一般的です。

糖尿病関連の検査項目は、血糖値とこのHbA1cで、 職場健診では、そのどちらかを入れることが法律で義務付けられています。しかし大半の会社が、両方を入れています。

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HbA1cは「糖化ヘモグロビン」とも呼ばれています。ヘモグロビンは、赤血球のなかに大量に含まれる、酸素運搬用のタンパク質です。これに血糖(血液中のブドウ糖)が結合したものが、糖化ヘモグロビンです。

赤血球は骨髄で作られますが、このときすでに、その内部にヘモグロビンが格納されています。この段階では、まだヘモグロビンは糖化されていません。しかし赤血球が血管に出てくると、ヘモグロビンが血液中のブドウ糖に晒されて、徐々に糖化が進みます。

ヘモグロビンの何パーセントが「糖化」しているかを表す

もちろん血糖値が高いほど、糖化のスピードが上がります。そこでHbA1cの量を測れば、逆に血糖の濃度がどのくらいか推定できるわけです。赤血球の寿命は約4ヵ月。糖化ヘモグロビンもろとも、脾臓(ひぞう)で破壊され、新しい赤血球が骨髄から供給されてきます。

そのため糖化ヘモグロビンの寿命は、赤血球の寿命と同じ約4ヵ月と考えられますが、医学的にはもっと短い「過去1〜2ヵ月」の血糖値の平均を反映しているとされています。 健診結果に出てくる数字は「全ヘモグロビンに対する糖化ヘモグロビンの割合(パーセンテージ)」です。HbA 1cが5.2としたら、全ヘモグロビンの5.2パーセントが糖化していることを意味します。

6.5を超えたら糖尿病の疑い

日本人間ドック学会の基準値は次のようになっています。

また日本糖尿病学会は、HbA1cが6.5以上で糖尿病の疑いが強いとしています。ただし診断には、病院でのより詳しい検査が必要になります。

表15に、令和2年度(2020年度)の東京都の特定健診の結果を載せました。

平均値を見ると、男性では50代前半から、女性でも50 代後半から、要注意レベルに達しています。

さらに男性では40代前半で、6.5以上、つまり糖尿病疑い以上の割合が3パーセント近くに達しており、年齢が上がるにつれて増えていきます。

70代前半で15パーセント以上(6〜 7人に1人)が糖尿病疑い以上に入ってお り、基準値以下は4割に過ぎません。

女性は男性よりもかなりマシですが、それでも70代に入ると1割近くが糖尿病疑い以上になっています。

予備軍を含めて1000万人以上が高めの血糖値を放置している

しかし糖尿病患者はもっといると考えられています。「令和元年(2019年)国民健康・栄養調査結果の概要」(厚生労働省)によれば「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性19.7%、女性 10.8%となっています。

これを人数に直すと、男性が約1200万人、女性が約700万人、合計で約1900万人となります。また国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター(2019年)によれば、糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)1000万人、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)1000万人、あわせて2000万人です。糖尿病の潜在患者数は、予備群も含めて推定2000万人前後ということです。

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ただし「令和2年(2020年)患者調査」(厚生労働省)によると、全国の推定患者数は367万8000人に過ぎません。この数字は、定期的に医者にかかっている人数です。

糖尿病の疑いがどんなに強くても、病院に行かない限りは患者としてカウントされません。逆に言えば、予備群も含めて一千数百万人が、高めの血糖値を放置していることになります。

失明のリスク、痛みを感じなくなる……

糖尿病が進行すると、三大合併症が怖いと言われています。糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害の3つです。

糖尿病網膜症を放っておくと、失明するリスクが上がりますし、腎症は慢性腎不全から人工透析につながっていきます。また神経障害が起こると痛みを感じにくくなり、ひとによっては急性心筋梗塞ですら気づかないこともあるそうです。

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また足の爪や指などにちょっとした傷ができても気づかず、放っておいたら腐ってきた、ということもよくあります。 HbA1cを7.0以下に保っておけば、合併症のリスクがだいぶ減ると言われていますから、高めのひとはぜひ内科に行って、治療を始めたほうがいいでしょう。

健診前日に食事を我慢しても無意味

なお血糖値は食事によって大きく変化しますが、HbA 1cは1回や2回の食事ではほとんど変化しませんし、食後すぐに測定しても影響は出ません。健診の前日に、少しでも数字を良くしようとして、食事を我慢するひとがいますが、HbA1cに限れば無駄な抵抗です。せめて1ヵ月前から頑張る必要があります。

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