「肝臓がん」から身を守るために受けるべき肝炎検査 手遅れになる前に“知ること”が命を救う

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「知らぬ間にかかっていた」が圧倒的多数(写真/PIXTA)

“沈黙の臓器”と呼ばれる肝臓は、炎症やがんがあっても初期には自覚症状がほとんどないのが特徴だ。リスクを高める要因について、秋津医院院長の秋津壽男さんはこう話す。

「国立がん研究センターが発表しているレポートで、“確実に肝臓がんのリスクがある”としているのが、たばこ、酒、肥満です。アルコールはアルコール性肝障害からアルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変になり、そこから肝臓がんへと進行してしまう。また、お酒を飲まなくても、肥満によって脂肪肝になり、肝臓がんへのルートをたどる人もいます」

 生活習慣ががんリスクに直結する肝臓がんだが、実は主な原因としてあげられるのがB型肝炎やC型肝炎などの「肝炎ウイルス」だ。

「血液や体液から感染するので、不衛生な性交渉によって感染するケースもあります。ですが、母子感染や“針刺し事故”による感染が圧倒的に多いと考えられます」(秋津さん・以下同)

肝炎ウイルスは、“国内最大級の感染症”

 かつて、集団予防接種などで注射器の使い回しがされていた時代にB型肝炎ウイルスの感染が広がったことはすでに社会問題として顕在化している。1988年以降は感染予防対策が取られたため、こうした針刺し事故による感染例はほとんどなくなったが、それ以前に集団予防接種を受けた世代の人たちは、感染リスクの可能性がある。

 また、以前は輸血によるC型肝炎の感染も問題になった。これも1989年にC型肝炎ウイルス抗体検査が導入されたため、輸血による感染はほとんどなくなったが、過去に輸血を受けた経験のある人は要注意だ。

 一方、近年の新規感染者は若い世代が多く、覚醒剤注射の打ち回しや入れ墨、ピアスなどの針の使い回しなどによるものと推測されている。

 秋津さんが指摘する。

「集団予防接種にしても、輸血にしても、本人が知らないうちに感染してしまっているケースは非常に多い。特に年齢層の高い人ほどリスクがあります」

 肝炎ウイルスは“国内最大級の感染症”といわれ、感染者は国内でも300万人以上とされる。芸能界でも演歌歌手の伍代夏子や、歌手の石川ひとみなどが肝炎キャリアであることを明かしている。

 しかし、このうち医療機関で何らかの治療を受けているのはわずか約50万人。急性肝炎であれば、全身の倦怠感や黄疸、発熱、食欲不振などの症状が出るが、炎症が持続して起こる慢性肝炎ではそうした自覚症状がない。そのため気づかないままに放置した結果、肝硬変、さらには肝臓がんへと進行してしまうケースが多いのだ。

肝臓がんの再発率は約70〜80%

「肝臓がんが進行してくると全身の倦怠感や腹水、黄疸、肝性脳症、消化管出血など、急性肝炎や肝硬変のときと同じような症状が現れますが、初期ではほとんど自覚症状がありません。

 肝臓がんの生存率が低いのは、発見されたときにはすでに有効な治療ができない状態になっているケースが多いことも大きな要因です。

 治療で最も効果的なのは外科手術ですが、手術でがん細胞を切除したとしても、残った肝臓からがんが再発することも少なくありません」

肝臓がんは、がんの中でも生存率が低いとされる

肝臓がんは、がんの中でも生存率が低いとされる

 実際に肝臓がんの再発率はほかのがんに比べて非常に高く、5年間の再発率は約70〜80%といわれる。手術が成功しても、残った肝臓の慢性肝炎や肝硬変などが改善されない限り、再発の可能性があるとの指摘もある。

「だからこそ」と秋津さんが言葉に力をこめる。

「肝炎が重症化したり、がんに移行してしまう前に、自分が肝炎ウイルスに感染しているかどうかを知っておくことが、何よりも大切なのです」

 20年ほど前までは、肝炎を患っていることがわかっても、これといった有効な治療法がなかった。たんぱく質の一種で、ウイルスを排除する働きのあるインターフェロンを注射する治療法が行われていたが、治癒率はわずか5%程度にすぎなかった。

 しかし、ウイルスを排除する力を増強する内服薬が登場し、インターフェロンとの併用で治癒率は約50%にまで上昇。さらに約10年前には経口抗ウイルス剤が登場し、インターフェロンの注射を打たずにのみ薬だけで治療することが可能になるなど、治療方法の進歩によって治癒率はさらに上昇している。

「B型肝炎もC型肝炎も、根治は難しいものの、治療によってほぼウイルスを抑え込めるようになっています。感染を早期に発見し、治療する。それがいちばんの肝臓がん予防になると考えてください。

 そのために、まずは感染しているかどうか検査をすること。検査はもちろん病院で受けられますが、いまは全国の多くの自治体が肝炎ウイルス検査を無料で実施しているので、それを利用するといいでしょう」

 無料で受けられるのは一度だけだが、母子感染や子供の頃の集団予防接種などで不安がある人は、とりあえず検査を受けておけば安心だ。

「あるいは献血をすると、肝機能と肝炎の検査結果を教えてくれます。どんな方法でもいいので、まずは自分が肝炎にかかっているかどうかを確認すること。肝炎ウイルスが見つかれば、適切な治療をすることができます」

日頃のチェックでがん罹患リスクが低下

 もし検査で感染がわかった場合は、国から医療費助成を受けることができ、自己負担額は所得に応じて月額1万〜2万円ですむ。

 肝臓がんの罹患リスクを低下させるには、飲酒や食事などの生活習慣を改めることはもちろん大切。しかし、自らの努力だけでは避けられない病もある。気づかぬうちに、そのリスクを保有している可能性があるからこそ、定期的な検診で肝臓の状態をチェックすることは欠かせない。

“がんで死なない”時代にあっても、治すことが難しい肝臓がん。肝炎ウイルス検査を受けて、未然にリスクを減らすことを心したい。

※女性セブン2023年8月10日号