訪問介護の基本報酬減額は「問題だらけ」 上野千鶴子さん「国が言わない引き下げの狙い」指摘


上野千鶴子(うえの・ちづこ)/社会学者で、認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」理事長。介護保険「改悪」についての発信を続ける。女性学のパイオニア

 訪問介護の基本報酬が、今年4月から引き下げられた。「驚天動地でした」と語るのは東京大学名誉教授の上野千鶴子さんだ。マイナス改定は「問題だらけ」だと指摘する。AERA 2024年4月22日号より。

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 介護保険制度の24年間は、「改悪に次ぐ改悪の黒歴史」です。3年ごとに改定される介護保険は、第1回の改定から「給付の抑制と利用者の負担増」の連続でした。3年前には24年度に向けた介護保険改定案で、利用者自己負担率を1割から2割に上げるとか、ケアプランの有料化などが出されました。改悪が我慢の限界を超えたので、私たちは「史上最悪の介護保険改定が始まる」と声を上げ、抗議のアクションを起こし、ほとんどを「先送り」にすることができました。

 胸を撫で下ろしていたところ、今年になって示されたのが、24年度からの訪問介護の基本報酬引き下げです。驚天動地でした。零細事業所の撤退が進み、介護を受けられない人が増え、訪問介護が崩壊します。

 引き下げの狙いについて、国ははっきりと言いません。しかし恐らく、二本立てにしている訪問介護のうち、排泄や入浴介助などの「身体介護」を残して、掃除や洗濯などの「生活援助」を切り離したいと考えているのでしょう。そして生活援助は、介護保険外のボランティアや家事サービス代行業などに頼みなさい、と。介護保険は自治体の監督下にあり、監査が入って質のチェックがされます。ところが、保険外となると野放しで事故や高齢者の虐待が起きるでしょう。問題だらけです。

imageAERA 2024年4月22日号より

介護保険は制度設計上、様々な問題や欠陥を抱えていますが、日本が誇るべき財産です。それまで老人介護は「嫁」による「無償の介護」でした。それが、介護保険がスタートしたことで、介護を社会全体で支える「介護の社会化」の第一歩となりました。到底不可能だった「在宅ひとり死」もできるようになりました。24年間の介護保険の経験の蓄積と現場の進化は、世界に誇ってよいと思います。

 若い人に伝えたいのは、「今の社会保障は高齢者に手厚い」という世代間対立を煽る言説に乗っからないでください、ということ。親をひとりで安心して置いておけるのも、あなたが親と離れて安心して生活できるのも、介護保険があるおかげです。

 権利と制度は歩いて向こうからやってきません。手に入れたと思ったものも、知らないうちに奪われます。監視し、参加し、行動して、大切な介護保険制度を守ってください。

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年4月22日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。