ロシアが戦争に負けない理由。日本人が思うほどウクライナ問題で世界は反ロシアではない

世界が混乱している。ロシアとウクライナの戦争は長期化し、イスラエルとイランの問題も過熱してきた。

ロシアとウクライナの戦争は、欧米諸国の対露制裁により、ロシアの勝利が困難になると当初は思われた。しかし、今日もまだ戦争は続き、ロシアの側の優勢が報じられている。

どうして、これほど長引くのか。どうしてロシアに、欧米各国の制裁が効かないのか。その背景には、日本人が思うほど、世界中が団結してロシアに制裁を加えているわけではないからだと専門家は指摘する。

image

一昨年3月、国連総会で、ウクライナ侵攻を非難する決議が採択された際の国の賛否の様子。青色が、非難決議の賛成国。

そこで今回は、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、ロシアとの各国の距離感についてあらためて整理してもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。

今日、ウクライナを巡る戦況は圧倒的にロシア優勢にある。ゼレンスキー大統領は、米国からの支援がなくなればわれわれは戦争に負けると繰り返し述べている。

ウクライナにロシアが侵攻した際、日本は、米国や欧州などと足並みをそろえる形でロシアを批判し、ロシアへの制裁を強化した。

その制裁によって日露関係は急激に冷え込んだ。その影響で例えば、日本から欧州に渡航する際、ロシア領空を飛べなくなった。

以前は、ロシア上空を通過して12時間くらいでロンドンやパリに行けたが現在は、14~15時間もかかってしまう。その状況はまだまだ続くだろう。

戦争が始まった段階で、西側諸国の大規模な経済制裁や武器支援により、ロシアは追い詰められている印象があった。しかし現在、状況は逆転している。

対露制裁に加わっていない国が半数以上

どうして、ロシアは負けないのか。

日本国内に居るとロシアが悪いという認識が自然に先行する。しかし実は、われわれが想像するほど反ロシア的な国の数は多くない。

例えば、一昨年3月、国連総会では、ウクライナ侵攻を非難するロシア非難決議が採択された。非難決議で賛成に回った国は欧米や日本など141カ国だった。

一方、ロシアとベラルーシ、エリトリアと北朝鮮、シリアが非難決議に反対し、中国など35カ国が棄権した。

ベラルーシはもともと、ロシアと良好な関係にある。シリアのアサド政権はロシアから軍事支援を受けている。そういった国々が反対に回っても不思議ではない。

問題は、賛成に回った141カ国である。それらの国々は、ロシアへの姿勢が各国によって大きく異なる。

決議では賛成に回ったものの、それ以上踏み込んだ行動はせず、日本や欧米が実施する対露制裁に加わっていない国が半数以上を占める。

ウクライナ侵攻を非難する決議では賛成に回ったものの、それ以上踏み込んだ行動はしない国が半数以上を占める

例えば、ASEAN(東南アジア諸国連合)でも、ロシアを非難して制裁を行っている国はシンガポールのみだ。

インドネシア、マレーシア、ベトナム、タイなど親日的な国々は日本や欧米と一線を引いている。

タイのリゾート地には、ロシア人観光客の姿が多く見られる。中国やインドも、ウクライナ侵攻そのものを肯定していないが、ロシアとの関係を維持している。

ロシアの原油輸出量・歳入は前年比で増加している

ロシアは2023年(令和5年)1月、2022年(令和4年)のロシアの原油輸出量が前年比で7%増加し、歳入として28%増加、液化天然ガスの輸出量も8%増加したと発表した。

2022年(令和4年)は、ウクライナにロシアが侵攻した年だ。欧米や日本などが経済制裁をする一方、中国やインド、その他の国々は、安価になったロシア産エネルギーへのアクセスを強化した。

言い換えると各国は、自らの国益を考えて外交を展開しているのだ。

プーチン大統領が強気の姿勢を今でも維持している背景にはこうした動きがある。

欧米や日本から制裁を強化されても、中国やインド、イランなど、他の国々との関係を維持・強化すれば欧米は怖くないという認識がある。

今後、世界では欧米の影響力の衰退が避けられない。ロシアの強気の姿勢は続くだろう。

[文/和田大樹]

和田大樹 和田大樹

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415