「異次元緩和」の反動はこれからが本番…1ドル=200円の衝撃に備えよ!「ヤバすぎる円安」が止まらない「残念な理由」

日銀がマイナス金利を解除すれば、円高に振れる。昨年来、盛んに吹聴された専門家の予測は、見事に裏切られた。異次元の金融緩和の反動はこれからが本番。日本国民を未曽有の物価高が襲う―。

前編記事『日経平均が4万円になっても、生活が苦しくなっていく…それはなぜ?「ヤバい 円安」が庶民の暮らしを直撃する「納得の理由』より、日本経済の実情とそのカラクリを引き続き紹介する。

「円の流出」がこれからも続く

これまでと違って、企業が海外で稼いだカネが日本に戻ってこないことも円安の要因となる。東京財団政策研究所研究主幹の小黒一正氏が言う。

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「海外で現地生産している企業は、ドルで稼いだ収益を円に替えて日本に戻すようなことはせずに、そのままドルで再投資していると見られます。また、証券投資でも配当金や債権の利子を円に戻さず、再投資している可能性が高い。

つまり、海外に投資された資金は日本に戻ることなく、ドルとして再投資されている。この構造の変化が円の流出、つまり円売りドル買いを増やしている可能性があります。このような動きも円安の流れを決定づけていることに留意する必要があると思います」

輸出で潤う企業が円安の恩恵を受け、海外から輸入して国内で売る小売業は苦境が続く。もちろん、そういった小売業からモノを買わざるを得ない庶民の生活はますます苦しくなっていく。

「一般的に、円安は株価にプラスの要因とされます。しかし、円安でメリットを受ける業種で働く人と、デメリットを被る業種の人の数を比較すると、デメリットを被る業種に携わる人のほうが多いと考えられます。具体的には小売業です。輸入物価の上昇によって、仕入れ価格も影響を受けやすく、それを小売価格に転嫁しづらいからです。

また、リタイアした高齢者にとって、賃金の増加は基本的に関係ないので、物価上昇の影響を強く受けることになります。インバウンドの恩恵もなく、海外へ旅行に行くことも相当難しくなる。高齢者にとっては、円安が続くことはデメリットが大きいと考えられます」(金融システムに詳しい名古屋商科大学大学院教授の大槻奈那氏)

日本の実質金利は「圧倒的に低い」

そもそも、総務省が発表する消費者物価指数(CPI)は前年比2~3%の上昇と言われているが、私たちの生活実感からしたらそんな程度では収まらない。

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為替に詳しい東短リサーチ社長の加藤出氏が解説する。

「現在の日本のインフレ率は2%台後半ですが、これは政府による電気・ガス料金を抑制するための補助金があるためで、それを除くと3%台前半。ガソリン代の補助を除けば、それ以上に跳ね上がります。これが実際のインフレ率と言っていいでしょう。

しかも、3年前の水準と比べると、消費者物価全体で7%も上昇しています。食品に限れば16%、エネルギー価格も18%上昇しています。3年前と比べた物価上昇率は、生活実感としてそれらに近いでしょう。

本来、このインフレに対応して、日銀は金利を上げないといけないはずです。とくに最近は欧米も日本もインフレ率は同程度ですが、欧米は政策金利が4~5%台なのに、日本はマイナス金利が解除されたといっても、ほぼ0%。金利からインフレ率を引いた実質金利で、日本は世界で圧倒的に低い状態にある。今のままの金利では、円安も止まりません」

しかし、日銀が迅速に金利を上げることはなさそうだ。

日銀が保有する「国債」が問題に

そこには、日本特有の問題がある。加藤氏が続ける。

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「日本の国債発行額は、経済規模から考えると、先進国で突出して多い水準です。しかも、その半分以上を日銀が保有しています。この状態で金利を急上昇させれば、まず、国としての利払い負担が増します。また、住宅ローン金利も上がるため、国民生活にも影響が出る。日銀はこの影響を最小限に抑えたいから、ゆっくりとした利上げしかできないのでしょう。現時点で、次の利上げは9月か10月になるという見方が市場では多い。

一方で、米国もこれまで年3回利下げするという見通しでしたが、インフレが期待ほどには収まっていないとなると、利下げが2回以下になる可能性も高まる。米国の利下げが2回以下となり、日銀の利上げは年内1回と仮定すると、1ドル=155円の円安もあり得るかもしれません」

米国のインフレが再燃し、再び利上げしないといけない状況になれば、米国の株式市場が暴落に見舞われる可能性もある。そのときは日本の株式市場も無傷では済まないと加藤氏は警告する。

「さらに中長期で見れば、1ドル=160円を超える円安の可能性も十分にあります。米国が今回、数回の小幅の利下げで乗り切れたとして、景気が再上昇を始めると、再び金利を上げる局面がやってきます。そのとき、日銀が金利を十分に上げられていなければ、日米の金利差が再び拡大して、円安が進むことになる。そうなると、1ドル=200円の円安になる可能性も高くなるでしょう」

「異次元金融緩和」のツケ

結局のところ、安倍晋三政権下で始まった日銀の黒田東彦前総裁による「異次元の金融緩和」が円安の要因だ。

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「アベノミクスと黒田異次元緩和は、日本経済停滞の原因はデフレにあるとしました。思い切った金融緩和で為替を円安にして物価を上げれば、景気がよくなり、日本経済は復活するというのがその理論でした。

しかし、それは間違っていた。デフレは原因ではなく、結果です。景気が悪いから、物価が上がらなかった。ではなぜ、景気が悪いのかといえば、日本企業の生産性が上がっていないからです。それを放置したまま、為替だけを円安にしても、景気がよくなるはずがない。むしろ国民の生活は苦しくなるだけです。11年に及ぶ壮大な社会実験の結果、得たことといえば、金融政策だけでは経済をよくすることはできないという教訓だけでした」(加藤氏)

今回、植田和男総裁は金融政策を転換したが、まだ困難が待ち受ける。

「『マイナス金利』という看板をおろしただけで、超緩和的な状況はあまり変わっていません。日銀はジレンマに直面しています。金利を急に引き上げていくと、国内で問題が起きる。

しかし、金利の安定を重視すると円安が進んで、インフレで国民は苦しみます。インフレで預金の実質価値が目減りしていることに気づく人が増えたら、外貨建て金融商品へのシフトが加速して円安はさらに進みやすくなる。『異次元緩和策』と呼ばれた、壮大な社会実験のツケを今後長年にわたり、日本人は払い続けることになるでしょう」(加藤氏)

物価高はこれからが本番という厳しい現実が庶民を待ち受けている。

「週刊現代」2024年4月6・13日合併号より