クロチアゼパム、エチゾラム…16種類のクスリの影響で「ほとんど寝たきり」になった男性を襲う「恐ろしい副作用」

副作用からの悪循環

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総合診療医学が専門で、群星沖縄臨床研修センター長を務める徳田安春氏は、クスリが病気を引き起こした症例をこれまでたくさん診てきたという。

「そうした事例は、特に高齢の方に多いといえます。クスリは体内で効果を発揮したあと、腎臓で代謝されて尿に排出されたり、肝臓で代謝されて胆汁に排出されます。年をとると代謝機能が低下するため、副作用が出やすくなる。その副作用で出た症状を治すためにクスリが出されるようになると、あっという間にポリファーマシーに陥ってしまいます」

たとえば、ある高血圧の男性(70代)は降圧剤としてサイアザイド系利尿薬を飲んでいたのだが、しばらくすると尿酸値が高くなり、痛風の症状が現れるようになった。

「実は、サイアザイド系利尿薬には尿酸値を上げる作用があるのです。この男性は尿酸を下げるアロプリノールというクスリを追加で処方されていたので、典型的な処方カスケードの事例でした」(徳田氏)

サイアザイド系利尿薬にはフルイトランべハイドナトリックスなどがある。また、作用が似ているループ利尿薬にも尿酸値を上げる働きがあるので、注意しておきたい。ループ利尿薬でよく処方されるのはラシックスダイアートだ。

また、第1章では降圧剤や鎮痛薬でむくみに苦しめられた男性の事例を紹介したが、糖尿病薬でもむくみの副作用が起きることがある。

「ある男性が糖尿病でピオグリタゾン(商品名アクトス)を処方されていたのですが、このクスリはむくみやすいと言われていて、この方もむくみで悩んでいました。

問題は、多くの医師がむくみと聞くと反射的に体の水分を排出するために利尿薬を出してしまうことです。この男性もフロセミドを出されていたのですが、ピオグリタゾンをやめればむくみは治るのですから、本来は必要のないクスリを処方されていたわけです」(徳田氏)

糖尿病薬と利尿薬をどちらも使っているという人は、注意したほうがいいだろう。

寝たきりになった男性

恐ろしいのは、クスリによって認知機能に悪い影響が出てしまうケースである。たとえば徳田氏が以前診た85歳の男性は、抗不安薬のクロチアゼパム、睡眠薬のエチゾラム、抗精神病薬のペロスピロンなど16種類のクスリを処方されており、そのせいで「薬剤性パーキンソン症候群」になってしまった。

「薬剤性パーキンソン症候群とは、手足が震えて動かなくなる、顔の表情が変えられなくなるなど、パーキンソン病と似たような症状がクスリのせいで起きるものです。

この男性は睡眠薬などの影響で体が動かなくなり、転んで太ももを骨折し、手術しなければならなくなりました。また、薬剤性パーキンソン症候群を治療するために、認知機能を低下させる副作用のある抗コリン薬も追加で処方され……と、負のスパイラルに陥っていました」(徳田氏)

ほとんど寝たきりになっていたこの男性だが、徳田氏が処方薬を見直し、ほとんどのクスリをやめると、意識がはっきりし、一週間ほどで座って自分で食事が摂れるほどに回復したという。

「薬剤性パーキンソン症候群を起こしやすいクスリには、ジプレキサリスパダールスルピリドといった抗精神病薬が多いのですが、その中でスルピリドは胃・十二指腸潰瘍のクスリとして処方されることがあり、抗精神病薬を使っているという認識がない場合もあるので、注意が必要です。

そのほかには、吐き気止めとしてよく処方されるプリンペランヒルベナピレチアや、てんかん治療薬として使われるバルプロ酸なども薬剤性パーキンソン症候群を引き起こしやすいとされています」(日本大学病院内科診療准教授・医局長の池田迅氏)

病気を治すはずのクスリのせいで別の病気になり、寝たきりにまでなってしまえば、まさしく本末転倒だ。

こうした悲劇を避けるためには、自分が使っているクスリをきちんと把握し、医者や薬剤師に正しく相談することも必要になる。飲んでいるクスリを減らす具体的なやり方を、あす公開の次章で詳しく見てみよう。

【付録】別の病気を引き起こしやすいクスリ