330万円で買える家。日本の住宅事情を大きく変えうる3Dプリンター住宅の現在地と未来

 

10m2で330万円。価格や工期など、日本の住宅事情を根底から覆す可能性を秘めた3Dプリンター住宅

百貨店の髙島屋が、2023年初売り福袋企画の一環として、3Dプリンター住宅を発売して話題になったことを覚えているだろうか。10m2の広さの家が、消費税別で330万円。その価格に、衝撃を受けた人も多かったことだろう。
この3Dプリンター住宅は、大幅に価格を抑えられるだけでなく、短工期、職人の人手不足の解消にもつながるなど、今後の住宅事情を根底から覆す可能性を秘めているといえる。
そんな3Dプリンター住宅をつくっているセレンディクス株式会社の飯田國大さんに、3Dプリンター住宅の可能性などをお聞きした。

30年もの長期間、住宅ローンを払い続けることへの疑問。その問題を解決したいと3Dプリンター住宅を開発

10m2の3Dプリンター住宅「serendix10」はこのぐらいの大きさ。写真は飯田さん。価格や施工時間だけでなく、耐震性能、気密・断熱性能の高さも特徴
10m2の3Dプリンター住宅「serendix10」はこのぐらいの大きさ。写真は飯田さん。価格や施工時間だけでなく、耐震性能、気密・断熱性能の高さも特徴

3Dプリンター住宅とは、その名の通り3Dプリンターを駆使してモルタルで成型した住宅のこと。なぜこのような家をつくろうと考えたのかを飯田さんにお聞きした。
「住宅ローンの平均完済年齢は73歳と言われています(2022年日本経済新聞調べ)。30年も住宅ローンを払い続けることに疑問を感じませんか? 家族が幸せに暮らすために家を建てるのに、住宅ローンの支払いに追われ、自由な時間が少なくなってしまう。もし、車を買うような値段で家を建てることができたらいいと思いませんか? 一度きりの人生、もっと自由に生きていいはずなのに、それを阻害するのが経済的にも時間的にも制約を受ける住宅ローンです。家をロボットがつくることで価格を抑えられないかと考えて、3Dプリンター住宅のプロジェクトを立ち上げました」
同社が手がける3Dプリンター住宅は、壁だけをロボットがつくるのではなく、世界で初めて屋根まで一体成型で実現。その結果、施工時間は24時間以内、コストも大幅に抑えることに成功した。
「自動車産業もロボット化する前は職人が車をつくっていたのですが、ロボット化したことによって価格を下げることができ、日本の自動車産業は世界を席巻しました。自動車産業と同様に住宅も、床などの仕上げも含め職人がつくるのではなく、すべての工程をロボット化したいと考えています。今度は住宅産業のロボット化によって国内はもちろん、各国の建築基準法などを確認しながら、海外進出も視野に入れています。
私たちがつくるのは、車でいえば何もオプションが付いていない営業車です。その状態で提供して、そこからお施主様が施工会社や職人さんと協議して、好みの内装に仕上げていけばいいと考えています」

10m2の3Dプリンター住宅「serendix10」はこのぐらいの大きさ。写真は飯田さん。価格や施工時間だけでなく、耐震性能、気密・断熱性能の高さも特徴
10m2で税別330万円。日本初の3Dプリンター住宅は、わずか23時間12分で完成した

「近い将来、都会に住むということは古い生き方になっていくと考えています」

工場内にある3Dプリンター。ロボットで家をつくることでコストと時間を大幅に削減できる
工場内にある3Dプリンター。ロボットで家をつくることでコストと時間を大幅に削減できる

自動車産業などはもちろんのこと、最近では無人レジやレストランでの配膳ロボットの普及、人間が遠隔操作をしながらロボットによるバックヤードでのドリンクの補充など、サービス業のデジタル化が急速に進んでいる。
しかし、ロボット化やデジタル化によって家を低価格で建てることができても、土地が高ければ支払総額はほとんど変わらない。その点についても飯田さんは提案する。
「東京都中央区で100m2の土地を購入すると5億円ほどしますし、福岡市でも5000万円ほどします。この価格では、一般のサラリーマンは住宅ローンを組むことが難しいでしょう。その点、私が暮らす大分県の天瀬町は100m2で20万円ほど。そのような場所が日本にはたくさんありますので、そのような場所に広い土地を買って暮らすのが理想と考えています。
私たちは政令指定都市から90分の場所で暮らそう、と提案しています。実証実験が行われている空飛ぶクルマが普及したら、現在90分かかる場所も15分もあれば行けるでしょう。2025年には、主要な労働者が団塊ジュニア世代からミレニアルに世代になります。ミレニアル世代は生まれた時からインターネット環境が身近にあり、誰かに会うとか、どこかに通うなどという概念があまりありません。近い将来、都会に住むということは古い生き方になっていくと考えています」

工場内にある3Dプリンター。ロボットで家をつくることでコストと時間を大幅に削減できる
3Dプリンターで製作したパネルを現場で組み合わせて家をつくりあげる

2022年にテスト販売を実施。2024年夏に本格的な販売を開始予定

2022年に6棟のテスト販売を行った10m2の3Dプリンター住宅「serendix10」。60代以上の人からの問合せが多数あったという。
「家をリフォームしたら1000万円かかると言われた。一生賃貸住宅暮らしで問題ないと考えていたら高齢が理由で借りられなくなった、などという理由から3Dプリンター住宅に興味を持たれた方が多かったですね。そのような理由もあり、夫婦二人で暮らせる、水回りが付いた50m2の国内初の3Dプリンター住宅『serendix50』をつくったところ、この家も44時間で完成させることができました」
当初3Dプリンター住宅は、都市計画区域外で10m2のものを建てるという計画で動いていたという。しかし、テスト販売を行った際、最初にオーダーがあったお客様の建築希望場所が都市計画区域内だったため、建築確認申請を通す必要が出てきたという。そこで「serendix10」は4本の鉄筋を入れた、鉄筋コンクリート造となっている。
3Dプリンター住宅への問合せは8000件を超え、強い購入意向は2200棟近く。その用途は夫婦二人で暮らす終の棲家、収益物件や店舗物件、趣味室などが多いという。
3Dプリンター住宅は、2024年夏に本格的な販売開始を予定している。

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水回りを完備した50m2タイプの3Dプリンター住宅「serendix50」は、2人暮らしにジャストサイズ。
終の棲家として購入を考える人も多そうだ

「将来的には100m2の家を330万円で販売したい」

セレンディクス株式会社COOの飯田國大さん。「車を買う価格で家をつくります。世界最先端の家で人類を豊かにしたいですね」

セレンディクス株式会社COOの飯田國大さん。「車を買う価格で家をつくります。世界最先端の家で人類を豊かにしたいですね」

「自動車産業の完全ロボット化に携わり、日本の社会を豊かにした人たちの力を借りながら、住宅産業の完全ロボット化を推進したい」と話す飯田さん。
「スタートアップの存在意義は課題解決です。今までの住宅の延長線上であるのなら、既存の企業がやればいいと思っています。しかし、我々はスタートアップ。スタートアップは課題解決なので、国民にとって最大の課題解決はなんだと考えると、やっぱり30年の住宅ローンだと思っているので、この問題を解決したいと考えています。
一度しかない人生なのに、家を建てようとしたら多くの人が一生をかけて30年の住宅ローンを組まなければならないし、家族のために家をつくったのに、家族で過ごす時間が減るという逆ベクトルになっています。3Dプリンター住宅をつくることで、30年という長い住宅ローンをなくして、もっと社会に新しい自由をつくりたいと考えています」
10m2の3Dプリンター住宅「serendix10」は、現在税別で330万円。いずれ100m2の家を同価格で販売できるようにしたいと飯田さんは話す。3Dプリンター住宅が普及したら、日本の住宅事情は大きく変わるだろう。「未来は、意外と明るい社会が待っていると私たちは考えています」と笑顔で話す飯田さん。
5年後、10年後、日本の住宅事情はどう変化しているだろう。車を買うような値段で建てられる家。住宅ローンが不要な家。気軽に住み替えができる家。楽しみに待ちたいと思う。
■取材協力/セレンディクス株式会社
https://serendix.com/