日本人の大人の8人に1人が抱えている「慢性腎臓病」! 沈黙の臓器「腎臓」の危険なサインを見逃さないために

腎臓病 治療大全 第1回

からだとこころ編集チーム

日本の大人の8人に1人は、慢性腎臓病をかかえていると推測されています。腎臓は自分の存在を声高に主張することのない控えめな臓器なので、腎臓の働きが低下しても、ほとんどの人は気づきません。腎臓の働きが2割程度になってしまっても、「なんの自覚症状もない」という人もいます。
しかし、尿や血液には「腎臓が弱っているサイン」が現れています。症状がないから大丈夫!ではなく、症状がない状態でサインを見つけ、早めに対策を始めることが肝心です。そのためのヒントをQ&A方式でリストアップしました。まずは腎臓からの危険信号がどんなものかをチェックしてみましょう。
(腎臓病 治療大全 第1回)

Q1.腎臓にはどのような働きがありますか?

私たちの体をつくる細胞が元気に働けるように、腎臓は体内の環境整備をしてくれています。腎臓の働きのおかげで、体内に不要なもの、有害なもの(老廃物)がたまらずにすんでいるのです。

体の中で生じた老廃物は、体にとってゴミのようなもの。そのままにしておけば、血液の流れにのって体中にゴミがたまっていきます。そうならないように、いらないものは片づけて、血液をきれいにしてくれるのが腎臓なのです。

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腎臓には、主に次のような役割があります。

●血液をきれいにする
血液に含まれている老廃物などをより分け、血液を浄化する。

●各種ホルモンを分泌する
血管の拡張・収縮にかかわるホルモンを分泌して血圧を調整。血液中の赤血球の生成を促すホルモンや、骨の強化にかかわるホルモンをつくる働きもある。

●尿をつくる
老廃物などを含む尿のもと(原尿)から、体に必要な水分や成分を再吸収し、体内の水分量や成分量を調整。残ったものが尿として排出される。

腎臓がしっかり働いてくれることで、体の細胞の一つひとつが快適に活動できる環境がつくられていくのです。

Q2.腎臓が弱っているのを早期に発見することはできますか?

腎臓の働きを「腎機能」といいます。健康な人の場合、腎機能は20〜30歳頃がピークで、年齢とともに少しずつ低下していきます。病的な要因が重なることで低下のスピードは速まり、後戻りできなくなっていきます。そうすると、強いむくみや倦怠感といった自覚症状が出るようになります。

しかし、腎機能が少しずつ落ちていく慢性腎臓病の場合、自覚症状だけで早期発見することはできません。「なにか変だ」と気づくような症状が出始めるのは、腎臓の機能低下がかなり進み、腎機能が残りわずかの状態になってから。そうなる前に定期的な検査で腎臓の状態を確かめておき、「問題あり」とわかったらすぐに対策を始めることが大切です。       

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Q3.腎機能が低下するとどんな症状が現れますか?

腎臓は、その働きが健康なときの半分程度になっても症状はみられず、ほとんどなにも感じません。腎機能が、正常時の30%以下になるとさまざまな不快症状が起きやすくなりますが、10〜20%程度になっても症状を自覚しない人もいます。腎機能低下による自覚症状が現れる前に、心臓病や脳卒中などが起きてしまうこともあります。

腎臓がほとんど働かない末期腎不全の状態になると、体中に老廃物がたまる尿毒症の状態に。放置すれば命にかかわるため、透析治療などが不可欠になります。
【腎臓病が進行するとみられる症状】
・だるさ
・吐き気
・食欲不振
・貧血
・手足のむくみ
・夜中に何度もトイレに起きる
・顔色の悪さ

Q4.尿検査で腎機能の状態がわかりますか?

尿を調べれば、自覚症状が現れる前の段階で腎臓の異変に気づくことが可能です。尿にたんぱく質が含まれていたり血液が混じったりしていたら、再検査が必要です。

健康診断でおこなわれる尿検査では、尿に試験紙を浸し、試験紙の色の変化から、たんぱく質や血液が尿中に含まれているかどうかを判断します。

通常、試験紙で検出されるほどのたんぱく質や血液が尿とともに排出されることはありません。ですから、「+プラス(陽性)」の場合、腎臓になんらかの問題が生じている可能性があります。

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●たんぱく尿
たんぱく質を含む尿がたんぱく尿です。たんぱく尿が1+以上の場合、腎臓になんらかの異常が生じている腎障害が疑われます。ただし、「たまたま陽性」のことも。激しい運動のあとや発熱時などは、たんぱく尿が出やすくなることもあります。これを、生理的たんぱく尿といいます。再度、尿検査を受けてチェックしておきましょう。

●血尿(尿潜血)
尿に血液の成分が混じっている状態が血尿です。含まれる血液の量がわずかな場合、尿が赤く染まるようなことはありません。肉眼でわからない程度でも、尿検査をすれば血尿かどうかがわかります。

腎臓に問題がなくても、膀胱や尿道など尿の通り道である泌尿器からの出血や、女性の場合、月経血が混じって陽性になることもあります。その場合は、原因の究明が必要です。とくに、たんぱく尿と血尿がともに陽性の場合には、腎障害のおそれが高いといえます。必ず再検査を受け、腎臓の状態をしっかり確認しておきましょう。

また、尿検査が-や±でも、ほかの尿検査や血液検査で問題がなければ、1年に1回の健康診断を定期的に受けましょう。

Q5.糖尿病や高血圧があると腎臓が悪くなりますか?

健康診断の結果、たとえ尿検査や血液検査で異常が認められなかったとしても、生活習慣病がある人は注意が必要です。とりわけ糖尿病や高血圧は、腎臓に大きなダメージを与えることがわかっています。

糖尿病や高血圧をまねくような生活習慣は、腎臓をじわじわとむしばんでいきます。腎臓を守るためには、生活習慣病の予防・治療が欠かせません。たとえ今は腎機能に大きな問題がないとしても、早めに対策を開始することが重要です。 

また、高血糖、高血圧の状態が続くと、血管が傷んで、腎臓病の原因になることもあります。腎臓の糸球体は尿細管とともに血液を浄化し、尿をつくりますが、毛細血管のかたまりであるだけに影響が出やすく、腎機能の低下に結びつきやすいのです。 

Q6.メタボも腎臓を傷めますか?

肥満の人はたんぱく尿が出やすく、腎機能の低下をまねきやすいことが知られています。そのため腎機能の低下がみられたら、肥満の解消がすすめられます。 

肥満に加え、糖尿病や高血圧、血中の中性脂肪やHDLコレステロールが多すぎる脂質異常症などをかかえている状態を「メタボリックシンドローム(メタボ)」といいます。腎臓に与えるダメージは、より深刻になりがちです。

メタボでいう肥満の場合、おへその高さで測った腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上なら、より危険な太り方とされます。このような太り方だと、内臓のまわりに脂肪がたまっていると考えられます。

続きは「健康診断で「腎機能低下」を指摘されたあなたへ。放置すると危険な“慢性腎臓病”とは」にて公開中!

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腎臓の働きが低下しても、自分ではほとんど気づくことができません。
しかし、尿や血液には、自分で気づくよりずっと以前から「腎臓が弱っているサイン」が現れています。
腎機能の低下を指摘されたら、「症状がないから大丈夫!」ではなく、「症状がない状態で見つかってよかった」と考え、対策を始めましょう。
本書では、腎臓病の基礎知識から腎臓を長持ちさせる生活習慣や薬物療法、透析の方法まで解説します。
「Q&A」の形式で「読みやすくてわかりやすい」一冊です。