肺がんが「たった30分」で治療できることも…想像を超えた、がんの「最先端治療」がスゴかった!

がん告知が「死の宣告」と恐れられた時代は終わり、がんとともに生きるのが令和の当たり前になった。ただし、より早く、よりラクに治すならコツも必要だ。ほんの少しの知識が、その分かれ目になる。

放射線よりも負担が軽い

最先端の医学研究の現場では、毎日のように新たな知見が生み出されている。少し前までは「手の施しようがない」と言われていた進行がんでも、画期的な治療法が見つかり劇的に回復したケースは少なくない。日本人の2人に1人が発症するがんに正しく対処するためには、最先端の治療法を知っておくことも重要だ。

放射線を照射してがん細胞を攻撃する放射線治療はすでに標準治療として定着し、大きい病院ならどこでも受けられるようになったが、その進化のスピードには目をみはるものがある。

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最先端と言えるのが、原子を構成している粒子を高速でがんに照射する粒子線治療だ。中でも陽子線治療は、水素の原子核を加速させた「陽子線」を患部へと照射することで、がん細胞のDNAを狙い撃って破壊できる。東京大学医学部附属病院の放射線科医の中川恵一氏も、そのメリットを強調する。

「通常の放射線治療ではX線やγ線といった光子線を照射します。しかしこれらは光の仲間なので、どうしても照射したい病巣の外にまで拡散してしまい、問題のない細胞にまで悪影響を及ぼしかねません。

その点、粒子線は照射する範囲を絞れるため、がんをピンポイントで叩くことができる。治療時間は一回30分程度しかかからず、がんの種類によっては1回照射しただけでも効果があるので、患者さんの負担を最小限に抑えられます」

水素ではなく炭素の原子核を病巣に当てる重粒子線治療も、同じくピンポイントで患部に照射できるというメリットがある。加えて、水素と比べて炭素の原子核は質量が大きいため、エネルギーが強力でより高い効果が期待できる。

1回で治療が終わるケースも

これら粒子線治療は、2016年から健康保険の適用が始まった。対象となるのは前立腺や頭頸部など一部のがんに限られるが、高額療養費制度を利用できるため、自己負担額35万円程度で受けられる。全額を自費で負担すれば保険対象外のがんでも受けることが可能だ。

「たとえば日本人に多い肺がんでは粒子線治療が保険適用となっていないため、自己負担で受けるならば300万円以上かかります。しかし早期の肺がんの場合、1回だけ重粒子線を照射すれば治療が終わるケースもある。金額との兼ね合いですが、検討の余地は十分あるでしょう」(中川氏)

さらに10年前と比べて、粒子線治療を行っている病院は倍増している。今年1月の時点で、陽子線治療を受けられるのは国立がん研究センター東病院など全国19ヵ所で、重粒子線治療は神奈川県立がんセンターをはじめ全国7ヵ所。ほとんどの地方に実施している病院があるため、近くで行っているところを調べて主治医に紹介状を書いてもらえば、受診するのはそう難しくない。病院によっては、直接問い合わせて予約することも可能だ。

体内の「異物」であるがん細胞を、自分自身の免疫の力で叩くのが「免疫療法」だ。その第一人者である本庶佑氏が’18年にノーベル賞を受賞し、治療薬「オプジーボ」の知名度は一気に高まった。その「パワーアップ版」とも言える免疫細胞療法について、国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎氏が解説する。

「人間の免疫細胞を人工的にパワーアップさせることで、がん細胞を排除する能力をより高めて治療する方法です。とりわけ効果が高いとされるのがCAR-T療法。患者の血液中から、がん細胞を攻撃するリンパ球を取り出し、遺伝子改変によって能力をアップさせたうえで体内に戻すと、がんをより強力に叩いてくれます」

すでに順天堂医院都立駒込病院では導入されていて、一石氏をはじめ、その将来性に期待する医師は少なくない。

「現時点でCAR-T療法が保険適用になっているのは、一部の白血病とリンパ腫、骨髄腫だけです。しかしそれらのがんに関しては、以前では治療することすら難しかった症例でも効果が確認され始めている。将来的にはより幅広いがんへの応用も期待できるでしょう」(一石氏)

さらに後編記事『がんはもう「治らない病気」ではない…ウイルスや免疫が大活躍する最新「がん治療」』では、まだまだある最先端の治療を紹介していこう。

「週刊現代」2024年2月17日号より