日本人のがんで最も多い「大腸がん」を防ぐには? 医師「運動は効果的」 運動不足で酒好き・肉好きは要注意

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 日本人がかかるがんのうち、最も多いのが大腸がんです(2019年、国立がん研究センターがん情報サービス『がん統計』全国がん登録)。比較的治りやすく、ほかのがんと比べて生存率が高いですが、死亡数を見ると女性は1位、男性も肺がんに次いで多いのが現状です。大腸がんになりやすい人や早期発見の方法、治療の進歩などについて、解説します。

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 本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。

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 国立がん研究センターのデータによると、生涯で大腸がんにかかる人は男性で10人に1人、女性で12人に1人と推定されています。20~30代でかかる人もいますが、40代から増え始め、高齢になるほどかかりやすくなります。

 大腸がんは、肛門につながる直腸にできる「直腸がん」と盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸にできる「結腸がん」があります。結腸がんの中でも日本人に特に多いのが、S状結腸がんです。S状結腸と直腸は、便をためておく貯蔵タンクのような役割があり、便と接触する時間が長いことから、がんが発生しやすいと考えられています。

 2019年に結腸がんと診断された人は、10万3338人(男性5万4875人、女性4万8463人)、直腸がんと診断された人は、5万2287人(男性3万2997人、女性1万9290人)。結腸がんのほうが2倍近く多いことがわかります。大腸がんは、近年増加しているがんの一つですが、特に結腸がんの増加が目立っています。原因としては、赤身肉もしくは加工肉の摂取など、食生活の欧米化が指摘されています。喫煙、飲酒、肥満も大腸がんの危険因子となるほか、最近は大腸がんに関わる腸内細菌が存在することもわかってきています。大腸がんになりやすい人について、東京大学医学部附属病院消化器内科教授の藤城光弘医師はこう話します。

「運動は大腸がんの予防に効果的であることがわかっています。運動習慣がなくて肥満ぎみの人、お酒を飲む人、肉をよく食べる人は大腸がんになりやすいといえます。大腸がんの5%程度は遺伝性なので、血縁者に大腸がんの人がいる場合もリスクが高くなります」

ごく早期のがんを見つけるなら内視鏡検査が有効

 大腸がんは、早期発見の意義が非常に大きいがんです。なぜなら早期のステージⅠで治療できれば、5年生存率は99%近くで、ほぼ治るといえるからです(全国がんセンター協議会加盟施設の生存率共同調査)。さらに早期であれば、おなかを切らずに肛門から器具を挿入してがんを切除する内視鏡治療で治る可能性が高くなります。大腸がんを早期に発見するには、どうすればいいのでしょうか。

「便潜血検査(検便)で陽性の結果が出たり、自覚症状があったりした場合に消化器内科を受診し、治療すれば、大腸がんで命を落とす危険性は減ります。しかし内視鏡治療だけで治るような早期のがんを見つけるには、便潜血検査や自覚症状だけでは難しく、大腸内視鏡検査を受ける必要があります。50歳を超えたら一度は大腸内視鏡検査を受けてほしいと思います」と藤城医師。

 便潜血検査は、40歳以上の人は、年に1回受けることが推奨されています。自宅で便の一部を採取するだけの簡便な検査で、がんがどうかを見分けられます。

 また、大腸がんの自覚症状は、血便が出る、便が細くなるといった便の異常のほか、おなかが張ったり、腸が狭くなることで便秘や下痢になったりすることがあります。進行すると腸閉塞を起こすこともあります。

 一方、大腸内視鏡検査は内視鏡を肛門から挿入し、大腸全体を内側から観察する方法です。大腸がんは大腸の内側にある粘膜の表面から発生し、進行すると外側へと侵入していきます。大腸内視鏡検査は粘膜やその下の粘膜下層にとどまっているがんを見つけられるのがメリットです。

 しかし大腸内視鏡検査に対して、抵抗がある人も少なくありません。検査を受けたことがない人は「恥ずかしい」「痛そう」というイメージがあったり、過去に検査を受けたことがある人は「痛かったから二度とやりたくない」「前処置薬(下剤)を飲むのがつらかった」という経験があったりする人が多いようです。

 最近は「カプセル内視鏡」や「大腸3D-CT」など、内視鏡を肛門から挿入する必要がない検査方法も登場しています。カプセル内視鏡検査は、事前に下剤を飲む必要はありますが、カメラを内蔵したカプセルをのみ込むだけで腸内を観察できます。大腸3D-CT検査は、炭酸ガスを肛門から入れて、特殊なCT装置による撮影によって、3次元画像を作ることができます。下剤は必要ですが、通常の大腸内視鏡検査の半分量程度です。

「どちらも精度の面で内視鏡検査と同レベルといえるような代用検査には至っていません。近年は内視鏡の機器が進歩して負担なく挿入しやすくなったほか、鎮静剤を使う、下剤の量を減らすといった対応も可能です。心配な人は検査を受ける病院で相談してみてください」(藤城医師)

 内視鏡検査は、腺腫(良性ポリープ)が見つかったら、その場で切除できることもメリットです。腺腫はがん化することがあり、切除することで大腸がんによって死亡する確率を下げることがわかっています。このため腺腫が見つかれば、大腸がん予防のために切除するのが一般的です。

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肛門を残すための工夫が進歩

 がんが粘膜内、または粘膜下層まで入り込んでいるが軽度(1mm)にとどまっている場合、内視鏡治療の対象となります。それ以上深く入り込んでいる場合はリンパ節に転移している可能性が高くなるため、手術が選択されます。手術の場合、肛門に近い直腸がんであれば、肛門と直腸を切除するのが基本となるため、人工肛門(肛門の代わりとなる便の出口)を造る必要があります。がんのある位置と肛門の間にある程度距離があり、自分の肛門を残せたとしても排便回数が増えるなど、排便機能が低下しやすくなります。つまり、内視鏡治療か手術かの選択は、直腸がんの場合は特に、治療後の生活を左右するのです。

「粘膜下層に1mm以上入り込んでいそうな場合でも、まず内視鏡治療を実施し、切除したがんの病理検査の結果、リンパ節転移の危険性が高ければ手術をするという選択肢もあります」(藤城医師)

 虎の門病院消化器外科特任部長の上野雅資医師は、肛門を残せるかどうかは、がんがある位置だけではなく「肛門括約筋の機能や職業などによっても変わる」と話します。

「例えば高齢で肛門括約筋の機能が低下している場合、職業柄頻繁にトイレに行けない場合などは、排便をコントロールできる人工肛門のほうが適していることもあります」

 大腸がんは、再発率が低く、手術で完全に切除できれば、治りやすいがんといえます。手術の方法は、ロボット手術を含めた腹腔鏡手術が主流になっています。おなかに開けた小さな穴から器具を挿入して操作し、がんがある腸管やリンパ節を切除します。腹腔鏡手術は傷が小さく、回復が早いのがメリットですが、上野医師は「直腸がんでぎりぎり肛門を残す術式『ISR(括約筋間直腸切除術)』を実施する場合、腹腔鏡手術のメリットを生かせる」と言います。

「ISRは、排便をコントロールする肛門括約筋を傷つけずに、ぎりぎりのところで残す難度の高い手術です。神経や組織を確認しながら丁寧に操作していくことが必要なので、腹腔鏡手術での拡大視が特に有効です。また、ロボット手術では、さまざまな角度からメスを動かせるので、腹腔鏡の達人でなくても、それが可能と期待されています」

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 ロボット手術は2018年に直腸がん、2022年には結腸がんでも健康保険が適用されるようになりました。

 現在、直腸がんに関しては手術をせずに肛門を残す「watch&wait」という治療が、世界的に注目されています。ステージⅡ~Ⅲの肛門に近い直腸がんの場合に術前に薬物治療と放射線治療をすると、3~4割の人はがんが消失することがわかってきました。この場合、手術をせずに経過をみます。

「がんが再び出てきたら、その段階で手術をします。海外のデータでは手術が必要になるのは、4人に1人くらいです。その多くは治療後2年以内にがんが出てきています。現在日本は虎の門病院などの先進的な病院で臨床試験として安全性や有効性を確認していますが、今後広く普及していくことは間違いないと思います」(上野医師)

 大腸がんは、手術ができない進行がんに対しての薬物治療の進歩も著しく、使用できる薬の種類が大幅に増えています。上野医師によると「薬物治療がうまくいき、手術ができるようになる患者さんも増えている」とのこと。最近では遺伝子検査によって遺伝子変異を多く持つ「MSI-high」タイプであることが判明した人は、免疫チェックポイント阻害薬だけでがんが消失することも明らかになりました。今後も特異的な遺伝子変異を対象とした新しい薬が登場する見込みで、ますます治る大腸がんが増えていくことが期待できます。

(文/中寺暁子)

【取材した医師】

東京大学医学部附属病院 消化器内科教授 藤城光弘医師


東京大学医学部附属病院 消化器内科教授 藤城光弘医師

虎の門病院 消化器外科特任部長 上野雅資医師


虎の門病院 消化器外科特任部長 上野雅資医師