中国の未来は「日本より悪い」…専門家たちが懸念する“中国依存”の「本当のリスク」


長谷川 幸洋

激増する「若者の失業率」

中国の景気後退とデフレについて「根本的な原因は、習近平政権に対する国民の決定的な不信だ」と指摘した米有識者の論文が注目を集めている。「政府や中央銀行の景気刺激策も、もはや効果は期待できない」という。中国は「失われた何年?」に突入するのか。

中国の7月の消費者物価は前年同月に比べて、0.3%下落した。マイナスに陥ったのは、2021年2月以来、2年5カ月ぶりだ。それ以上に重要なのは、輸入の落ち込みである。中国が発表した7月の貿易統計によれば、輸入は前年比12.4%減少した。

輸入の減少は国内需要の低迷を反映している。その結果が失業の増加だ。中国の若者の失業率は6月に21.3%に達した。だが、実態は「これよりはるかに多い」とみられている。公式発表の数字は、就職を諦めた若者を考慮していないからだ。

すると、中国の国家統計局は8月15日、若者(16歳から24歳)の失業率の発表を停止してしまった。まさに「都合の悪い数字がなければ、問題はない」という姿勢なのだ。

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7月24日配信のブルームバーグによれば、16歳から24歳の若者は9600万人が都会に住んでいる。そのうち、求職しているのは3300万人だ。残りの約3分の2は、どうなったのか。

記事が紹介した北京大学教授によれば、約4800万人は大学など学校へ通っている。残る約1600万人は、中国でも「ニート」や「プロフェッショナル・チルドレン」などと呼ばれ、仕事をしていない。公式発表の失業者は600万人だが、ニートたちを失業者に加えると、計2200万人となり「真の失業率は46.5%に上る」という。

学生たちの中には、金融やIT(情報技術)などを専攻している人もいるが、大学側は学生たちに「就職先を選り好みするな」と助言している。一方、中国共産党はエコノミストたちに「都合の悪い消極的な話は言うな」と指導している、という。

中国の不動産バブルが2年前の夏に弾けて以来、「中国は90年代にバブルが崩壊した日本と同じになる」という見方が世界に広がった。2月23日付のフィナンシャル・タイムズは「中国経済は新たな日本化(Japanification)を見据えている」と報じた。

記事は「いまの中国はバブル直後の日本と驚くほど似ている」というシティグループの分析を紹介している。1990年の日本は固定資本形成率が36%だったが、2010年から20年にかけての中国は43%に上り、日本で問題になった住宅金融専門機関(住専)のようなシャドーバンキングもバブルを加速した、という。

中国は日本より「悪く」なる

だが、別の見方もある。

国際経済専門誌、インターナショナル・エコノミーの2023年冬号は、20人の専門家の意見を集めて「中国は90年代初めの日本のようになるのか」という特集を組んだ。野村総研のチーフ・エコノミスト、リチャード・クー氏は「中国の成長鈍化は自分自身が招いたもので、30年前の日本とは異なる」と指摘している。

同氏によれば「中国企業はバブルが弾ける前から借り入れを減らし、家計は貯蓄に向かっていた」「ゼロコロナ政策で地方自治体は資金を使い果たし、景気刺激策を講じる余裕がない」「日本と違って、中国は米国と対決している」「日本は2009年まで人口が減少していなかったが、中国はバブル崩壊と同じ22年から減少した」という。

ノーベル賞学者であるポール・クルーグマン氏も、7月25日付のニューヨーク・タイムズで「中国は日本のようになる」という見方に否定的なコラムを書いた。

同氏は「人口減少の問題が指摘されるが、日本は94年以来、現在までに1人当たり実質国内総生産(GDP)が45%も上昇した。中国は日本のような社会の結束を保てるだろうか。かつての日本より、はるかに高い若者の失業率に注目すべきだ。中国は次の日本ではない。おそらく、もっと悪くなる」と指摘した。

そんななか、中国経済の失速をゼロコロナ政策との関連で分析した論文が、8月2日配信の米外交誌、フォーリン・アフェアーズに掲載された。筆者はピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン会長である。「中国経済の奇跡の終焉」と大胆なタイトルがつけられている。

先にポイントを紹介すると、筆者は、中国経済が停滞している根本的原因を「習近平政権によるゼロコロナ政策と、その突然の終了にある」と分析している。国民は一連のコロナ対応を見て、共産党と政府不信に陥り、ひたすら貯蓄に励むようになった。それが景気後退を招いた、とみているのだ。

私は一読して、目からウロコが落ちる思いがした。

6月2日公開コラムで紹介したが、中国を脱出し、米国に不法入国を試みる中国人が激増している。これは、まさに中国人の国家に対する不信の証明だ。

では、逃げ出さなかった人々はどうしているのか。彼らは何事もなかったように、コロナ以前のように消費し、投資しているか。そうではない。彼らは「身を守れるのは自分だけ」と理解して、貯蓄している。それしか、自己防衛の方法がないからだ。

中国への懸念と希望

論文は、こう指摘している。

〈新型コロナが始まった2020年の第1四半期が中国経済の転機だった。それは国家統制が強まった15年から始まっていたが、銀行預金が国内総生産(GDP)に占める割合は50%を超え、以来、ずっと高水準にとどまっている。民間消費は減少し、投資も弱い〉

〈金融市場も中国政府自身も、この弱点を見過ごしている。それは何年も成長の足かせになるだろう。中国のケースを「長期化する経済の新型コロナ」と呼ぶことにする。コロナのように、中国経済は活力を失い、深刻な状況を脱しても慢性症状に苦しむのだ〉

〈独裁国家の経済発展は、予想可能なパターンを辿る。まず、言いなりになる企業を栄えさせ、体制が安定すると、次第に経済への介入を強める。最終的には不確実性に直面し、恐怖にとらわれた家計や小規模事業者が現金をため込んで、成長が衰えていく〉

〈新型コロナ以前、多くの家計や零細事業者は「政治に介入しなければ、問題は起きない」という暗黙の了解に依存していた。共産党が知的所有権を管理するが、人々は政治に関わらなければ、党は彼らの経済生活に干渉しなかった〉

〈ところが、新型コロナに対する政府の対応は、まったく違っている。共産党の気ままな権力行使が、零細事業者を含めて、誰の目にも明らかになった。ほんの数時間前の警告で、都市は無期限にシャットダウンされ、商店は補償なしに閉鎖され、住民は自宅に軟禁状態になった。生活も生活手段も奪われてしまった〉

〈すべては突然で、厳格で情け容赦がなかった。地方は共産党の指示に従うだけで、北京や上海の豊かな人々の間でさえも、医薬品や薬の処方箋、治療が不足した。この経験を「大量投獄キャンペーン」になぞらえた中国人作家もいる〉

〈いまも残る広範な恐怖感は毛沢東時代以来、観察されなかったものだ。一時的であれ、永遠であれ「警告もなく、文句も言えず、自分の財産と生活の糧が奪われてしまう」という恐怖感である〉

〈ニューヨーク・タイムズの言葉を借りれば、方向転換は抗議運動の「勝利」だった。だが、それは普通の中国人には当てはまらない。ゼロコロナ政策の終了1カ月前、共産党官僚は段階的終了を語っていた。だが、その数週間後に完全に終わった。突然のUターンは、中国人に「自分の職や事業、毎日の生活は党と彼らの気まぐれ次第」という感覚を思い知らせた〉

〈共産党が最終的な決定権を握っている。党の気まぐれに直面して、人々は自分で自分の身の安全を図るようになった。車や耐久財投資、不動産の購入などは最小限に控えるようになった。彼らのリスク回避と貯蓄志向が成長の足を引っ張っている〉

論文は、財政支出の拡大や金利引下げといったマクロ経済政策の効果が失われた点も指摘している。

〈真の問題は、過剰な政府の介入に対して、国民が免疫を持ってしまったことだ。政策が気まぐれに発動される、と分かってしまったので、人々は景気刺激策には反応しない。これこそが「長期化する経済の新型コロナ」である〉

〈その結果、耐久財消費と民間投資は、景気刺激策に対する反応が低くなる。マクロ政策が効果を失うので、経済は不安定になる。さらに多くの財政刺激策が必要になるので、公的債務は一層増える。民間投資を減らし、生産性の伸びが鈍化し、時とともに、成長を鈍化させていく〉

〈人民元で資産を保有している中国人にとっては、海外で資産を購入するのは、新型コロナ前でさえ、合理的だった。国内の成長が見込めず、共産党の「気まぐれリスク」が高まる以上、海外資産の購入は、ますます合理的になっている〉

中国で起きている事態は、まさにポーゼン氏が指摘している通りではないか。

中国は普通の国ではない。習近平氏ただ1人の意向で動く独裁国家だ。そして、国民は新型コロナの経験を経て、党と政府への不信を強めた。その結果、マクロ政策も効かなくなってしまったのだ。

ポーゼン氏は、国を逃げ出す中国の才能ある人々や資本を「米国が受け入れ、活用すべきだ」と主張している。私は、これには同意できない。いくら逃げ出しても、中国共産党は中国人なら誰でも党への協力を強制できる悪名高い国家情報法を発動して、中国人をスパイに仕立てられるからだ。

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だが、分析は正しい。

いまだに「14億人の巨大中国幻想」に目が眩み、中国頼みのおいしい話を期待している日本企業が少なくない。折から、中国人の団体旅行も解禁になった。日本への不法入国を試みる中国人も増えるだろう。中国人の「爆買い」は不動産購入でも顕著になっている。

中国というリスクは、新たな段階に突入した。