自覚症状はなく、血液診断では判定不能…人間ドックでなければ見つからない「脂肪肝」の恐ろしいリスク「お酒を飲まない人」の脂肪肝も増えている

健康長寿のためには「肝機能の維持」が重要になる。肝臓専門医の浅部伸一さんは「脂肪肝は男性の3人に1人、女性の5人に1人がかかる国民病になっている。肝炎や肝臓がんに進む前の脂肪肝の段階でケアを始め、肝機能を衰えさせないことが大切だ」という――。

※本稿は、浅部伸一『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)の一部を再編集したものです。

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男性は3人に1人、女性は5人に1人が脂肪肝

いま日本の成人男性の3人に1人、女性の5人に1人が「脂肪肝」だと言われています。脂肪肝の予備軍になると、実に2人に1人とも。もはや「脂肪肝は国民病」と言っても過言ではありません。あなたの身近にも「実は脂肪肝なんです」という方がいるかもしれません。

脂肪肝も生活習慣病のひとつです。脂肪肝は、お酒が原因になったケースを除くと、30歳ぐらいから増えてきます。脂肪肝の人はとてもたくさんいます。肝臓の病気にもいろいろな種類がありますが、今、まさに増えているのが脂肪肝です。

「脂肪肝」とは、「肝臓に脂肪がたまった状態」です。「内臓脂肪」が胃や腸などの「臓器の周囲につく脂肪」だと知っている人は、脂肪肝もまた、肝臓の周囲に脂肪がべっとりまとわりついた状態だろうと思うかもしれません。いいえ、違います。

では、肝臓のどこに脂肪がたまっているのでしょうか。脂肪肝とは、肝臓を形成している細胞、つまり肝細胞の一つひとつの中に、水滴のような形で脂肪がたまっている状態なのです。

脂肪といえば、豚肉などの白くて硬い脂身のようなイメージが浮かびます。あの見慣れた脂身は、脂肪の温度が下がって固体に変化した状態です。人間も含めて、生きている動物の温かい体の中では、脂肪はもっとずっと柔らかいのです。内臓脂肪も固体ではなくゲル状です。硬くはありません。体温で溶ける良質のバターのようなものだと思ってください。

同じように脂肪肝の脂肪も、粘性はありますが、柔らかいものです。肝細胞の中に、ぷよんぷよんとした水滴のような状態で存在しています。

症状はほとんどなく、健康診断でもわからない厄介な病気

怖がらせたくはないのですが、「自分は大丈夫」と思い込むのはとても危険です。なぜなら肝臓は、なかなか自覚症状があらわれない「沈黙の臓器」だからです。

「痛くもかゆくもない」ので安心しているあいだに、体の中では着々と脂肪肝が……、という事態になっていないとも限りません。そして、体が悲鳴を上げる頃には、肝臓はすでに末期的な状態に陥っているのです。

なぜ肝臓に脂肪がたまることが問題なのでしょうか。ウエストサイズが心配? いいえ、肝臓に脂肪がたまっても、洋服がきつくなるようなことは起きません。肝臓に脂肪がたまることで生じるのは、全身の健康の問題、そして、命に関わる問題です。

脂肪肝は一般的な健康診断の血液検査ではわかりません。脂肪肝を見つけるもっとも早い方法は、人間ドックの超音波検査(エコー検査)です。ただ、人間ドックは必ずしも皆が受ける検査ではありません。

脂肪肝の原因は、お酒、高脂肪・高カロリーの食事、運動不足などです。そして、脂肪肝には、今はまだ「即効性があって完璧に治る薬」がありません。我々専門家が試行錯誤しながら治療法を探しているところです。

自覚症状はない。一般的な健診ではわからない。次の段階に進む前に見つけることが難しい。治療法も治療薬もまだない。それが脂肪肝という病気です。だからこそ、「脂肪肝にならないこと」「なってしまったら、軽症のうちに改善させること」が大切なのです。

トンカツの脂身を切り落としても効果は薄い

病名に「脂肪」が入っていることから、脂肪肝の原因を「肉の脂肪や食用油の摂りすぎ」だと思っている人が多いようです。

そんな人は、「トンカツは大きな脂身を切り落としたうえで、揚げずに焼く」「パンにはバターは控えてジャムを塗る」など、食事で摂る油脂を控えていれば脂肪肝の予防や改善につながると思いがちです。

でも、残念ながら、それは間違いです。肝臓に入ってくる脂肪のうち、いちばん多いのは皮下脂肪や内臓脂肪などから溶け出した脂肪で、60%ぐらいを占めています。それから、肝臓の中で糖質を材料に新たに合成された脂肪が25%ぐらい。

食事で摂る脂肪の占める割合は、実は大したことはありません。

トンカツ

それから、糖質も脂肪肝の原因になることも、あまり知られていません。

糖質は、果物やケーキにはもちろん、ご飯やパン、多くのお酒にも含まれています。糖質にもいろいろありますが、体の中に摂り込まれると、ブドウ糖という形に変わって体内の細胞に摂り込まれます。ブドウ糖は、肝臓の代謝機能によってグリコーゲンという物質に作り替えられ、肝臓と筋肉に貯蔵されます。

困ったことに、肝臓はそれほど多くのグリコーゲンを蓄えておくことができません。そこで、肝臓は多すぎるグリコーゲンを「中性脂肪」に作り替えます。

食事で油をあまり摂らなくても、糖質をたくさん摂っている人が太る(=脂肪が増える)のはそのためです。脂肪は血液に乗って体中をめぐるのと同時に、肝臓にもしっかり居座って、肝細胞一つひとつにたまっていき、それが脂肪肝になっていきます。

また、お酒の飲み過ぎも脂肪肝の原因になります。厚生労働省は「アルコールをどれだけ飲むか」で、脂肪肝を「アルコール性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪肝」に分け、そのうえで「多量飲酒」を問題視しています。多量飲酒とは「一日平均60g以上のアルコールを飲むこと」。60gは、日本酒なら3合ぐらいです。

これはお酒に含まれる糖質の問題ではありません。アルコールの問題です。お酒を飲みすぎていると脂肪肝が生じていき、それが正常な肝臓の細胞の働きに影響して肝機能を衰えさせることになります。

本当にこわいのは「炎症」が起きること

脂肪肝になっても、その脂肪自体に毒性があるわけではありません。問題は、脂肪肝に「炎症」が起こることがある点です。

脂肪はそもそも安全な物質です。内臓脂肪などの脂肪も化学的な反応さえしなければ、本来は安全なものです。安全だからこそ、余分なエネルギーを脂肪の形でためておくようにと、人間の体はつくられているのでしょう。

脂肪が問題視されることになったのは、限度を超えてためすぎるようになったから。ためすぎた脂肪が炎症を起こして血管壁にへばりつき、悪さをすることで、さまざまな病気を引き起こしているからです。

そして、肝臓についた脂肪もまた、炎症が起きることで問題を起こします。ためこんだ脂肪肝に炎症が起きると、肝臓だけでなく全身の健康が損なわれて、重大な病気になることがあるのです。

肝臓

危険な脂肪肝かどうか専門医でも分からない

脂肪肝になっても、その脂肪がおとなしくしていて、炎症を起こさず、なんの問題のない人もいます。ですから、脂肪肝になりそうな人や、なってしまった人のすべてが、深刻な病気になるわけではありません。

かなりの肥満で脂肪肝がたっぷりあるのに、そのまま病気が進まない人がいます。これは「単純性脂肪肝」と呼ばれます。逆に、それほど太っておらず、脂肪肝も少しある程度なのに、肝臓が炎症を起こして「肝硬変」にまで進んでいる人がいます。

つまり、脂肪がたくさんたまっていてもそれほど心配しなくてもいい人と、そんなにたまっていないのに炎症を起こして肝炎になる人がいるということです。

しかも、自分の脂肪肝が進行するタイプなのかそうでないのか、それを知る手立ては今のところありません。あなた自身はもちろん、医師でも分からないのです。専門医も頭を悩ませる現象です。

今、専門家の間で注目されているのが、NASH(ナッシュ)という「非アルコール性の脂肪肝炎」で、お酒を飲まない人の脂肪肝です。

NASHになるのは脂肪肝の人の約1~2割です。とはいえ、そもそも脂肪肝の人の数が膨大ですから、たった1~2割でもかなりの人数になります。そして、あなたの脂肪肝がNASHになるのか、ならないのか。どちらのタイプなのか簡単に判断する検査もまだありません。

NASH(非アルコール性脂肪肝)になるのは、若い人では男性が多く、高齢者では女性が多くなります。女性は、特に閉経後にNASHになる人が増えます。これは、女性ホルモンのエストロゲンの変化が影響していると思われます。

エストロゲンには、体内の炎症を起こりにくくしたり、内臓脂肪がたまりにくくしたり、筋肉をある程度維持したりと、いい作用がたくさんあります。それが閉経とともに全部なくなってしまうわけです。そのため高齢女性は、炎症を伴うNASHになるリスクが高まるといわれています。NASHの人の脂肪肝に炎症が起これば、肝臓がんになったり、肝臓以外のがんになったりします。

NASHの人は、たいてい内臓脂肪も増えすぎになっています。更年期や閉経後に急に太った女性は要注意です。思い当たる人は検診を受けましょう。

脂肪肝から脂肪肝炎、肝硬変、肝臓がんに…

「肝臓がん」と聞くと深刻な印象を受けますが、「脂肪肝」と聞いてもそれほど心配する必要はなさそうだ、などと思っていませんか。とんでもありません。確かに、脂肪肝だけでは命に関わることはありません。しかし、脂肪肝が進むと、「脂肪肝炎」になる危険があります。

「脂肪肝」と「脂肪肝炎」は、たった1字しか違いませんが、その恐ろしさのレベルが違います。脂肪肝炎は、脂肪肝が原因で、肝臓に炎症などの異常事態が起きる病気です。脂肪肝から脂肪肝炎へ、脂肪肝炎から肝硬変や肝臓がんへと、命を落とすこともある病気へ進んでいく可能性があることを知ってください。

健康診断シート

また、脂肪のたまった肝細胞は、本来の働きが鈍くなります。また、脂肪に乗っ取られたようになった肝細胞が、風船のように膨らむこともあります。どちらも非常によくない状態です。脂肪肝は、ほうっておくと肝臓の機能を鈍くし、下手をすると炎症を起こして、命にかかわる病気に変貌を遂げる可能性があります。

ここで問題になるのは、内臓脂肪です。内臓脂肪はただ内臓に脂肪がくっついているだけではありません。内臓脂肪はいろいろな炎症性の物質を放出します。炎症が慢性的に続くと、がんにもなりやすくなります。

脂肪肝の脂肪も内臓脂肪と同じような性質をもっています。つまり、炎症を起こし、その炎症がいろいろなところに悪さをするのです。もちろん肝臓そのものにも悪影響があります。

脂肪肝は生活習慣病、特に「メタボの人」は要注意

このように、脂肪肝の脂肪も含め、内臓脂肪は体内の炎症を誘発します。そして、普段から「食べすぎ」で「運動不足」の人は、たいてい内臓脂肪をたくさん蓄えています。さらに、「脂質異常」「高血糖」「高血圧」のうち2つ以上に該当しています。いわゆる「メタボリックシンドローム(メタボ)」です。

脂肪肝になりやすいタイプのひとつは、間違いなく「メタボの人」です。脂肪肝の主な原因は「食べすぎ」と「運動不足」だといわれています。メタボの定義になる脂質異常症も、糖尿病も、高血圧症も、すべて「生活習慣病」です。脂肪肝も「生活習慣病」のひとつといえます。

先ほど、脂肪肝は自覚症状がなく、健診でも見つかりにくく、治療法も治療薬もまだない厄介な病気だと述べました。だから、脂肪肝にならないこと、なってしまっても軽症のうちに改善させることが大切です。

ですが、専門医としては、すべての脂肪肝の人に「肝臓専門医に来てください」とはなかなか言えません。あまりにも数が多く、とても対応しきれないからです。それほど脂肪肝の人は多いのです。

現場で多くの患者さんに向き合っている専門の医師は、だからこそ「まずは自分で予防してほしい」「軽いうちは自分の力で改善してほしい」と願っているのです。

脂肪肝になる前に、あなた自身が予防する必要があります。体型や日頃の生活をかえりみて、「脂肪肝かもしれない」と思い当たるふしがあったら、早急に生活を改善してください。

予防と改善には「12時間肝臓ダイエット」がいい

自分が脂肪肝になっているかもしれないと思う人には予防策として、すでに脂肪肝と診断された人には改善策として、おすすめなのが「12時間肝臓ダイエット」です。

「12時間肝臓ダイエット」のルールはとてもシンプル。
・12時間、何も食べない
・週1日だけでもいい
・お腹がすいたら大豆を食べるといい
守るのは、これだけです。

断食する12時間以外は、何をどれだけ食べても、お酒を飲んでも構いません。また、12時間には睡眠時間も含まれます。たとえば、いつも6時に朝食を食べるなら、夕方6時までに夕食を終える。あるいは、夜はいつもどおり食べて、朝食を抜く。

浅部伸一『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)

浅部伸一『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)

12時間の断食中、水分の摂取は自由です。ただし、水やお茶などゼロカロリーのものが理想です。我慢できなければ、慣れるまで人工甘味料使用のドリンクも可です。

空腹が気になるときは、「お助けフード」として少量の大豆がおすすめです。節分の豆まきで使うような、煎っただけの味付けしていないものが理想です。大豆は腹持ちがよく、煎り大豆なら、よく噛むことで空腹感も紛れるでしょう。そして、大豆に含まれる植物性タンパク質が筋肉の維持を助けます。

さて、ここまで読んで「そんなにゆるくていいのか!?」と思ったかもしれませんが、だからいいのです。

どんな健康法、ダイエット法も「継続」しなければ効果は出ません。むしろ「継続しよう」という意識も消えて、「新しい習慣」として無意識に定着できてこそ、最強の健康法といえます。

脂肪肝になる前に最低週1回の「12時間肝臓ダイエット」で予防しましょう。脂肪肝だと診断されたら「12時間肝臓ダイエット」の日を増やすなどして、改善の努力をしてください。