3兆円規模 少子化対策「社会保険料の上乗せ」で待ち受けるのは悲劇的末路?

出生率が過去最低水準となり、政府は「次元の異なる少子化対策」に本腰を入れようとしている。対策の財源として「社会保険料を上乗せする」案が示された。これにより国民1人あたり年間6,000円の負担増と言われ、批判の声が多く上がる…。

執筆:シニアジョブ 代表取締役 中島康恵

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少子化対策の財源はどのように確保されるのだろうか?

「次元の異なる少子化対策」で社会保険料上乗せか

 政府は5月下旬、「次元の異なる少子化対策」の財源として、社会保険料の上乗せの考えを示した。また、6月1日に開催された「こども未来戦略会議」では、具体的な施策や財源が検討・調整され、「こども未来戦略方針」案として検討された。そして、7日には「骨太の方針」の中で、「こども・子育て政策は最も有効な未来への投資であり、政府を挙げて取り組みを強化し、少子化傾向を反転させる」と明記された。
 これらを受け、報道機関や有識者からさまざまな反応が起こり、野党のみならず与党内部や厚労相からは批判の声が上がっている。
 少子化対策は取り組みの成果が表れるまでに20年近く要するため、迅速な取り組みが求められる。子育て世帯そのものが働き盛りの層であることから、その負担がどうなるのかについて、多くの人が注目する。

画像2022年に生まれたこどもの数は1899年以来最低の数字に

 そもそも「次元の異なる少子化対策」は何なのだろうか。
 「試案」はすでに今年3月末に出されており、「こども・子育て支援加速化プラン」として2024年から3年間集中して取り組む。具体的には、経済的支援の強化、保育サービスの拡充、働き方改革の3つの柱に分かれる。
 経済的支援の強化では、児童手当の所得制限撤廃や高校卒業までの延長、多子世帯への増額、出産費用の保険適用、給食無償化、住宅ローンの金利引き下げなど。保育サービスの拡充では、保育士の配置基準の緩和、保育所の利用要件の緩和。働き方改革では、育児休業の給付額増額、育休取得者の同僚への応援手当、中小企業への助成などが示されている。

少子化対策予算は年間3兆円を超える規模

 少子化対策予算は、年間3兆円を超える規模で、最初はつなぎ国債でまかない、その後社会保険料への上乗せなどで返済するというが、具体的な議論は先送りされる。
 社会保険料には、医療保険、介護保険、雇用保険があるが、医療保険の保険料に「支援金」として上乗せし、企業の負担分と合わせて年間1兆円程度を確保する計画とのことだ。
 こうした社会保険料への上乗せと併せて、社会保障費の歳出改革を行うことで、政府は年間3兆円程度の財源を見込んでいるという。社会保障費の範囲となる国の経費には、「年金医療介護保険給付費」「生活保護費」「社会福祉費」「保健衛生対策費」「雇用労災対策費」などがあるが、財務相の諮問機関である財政制度等審議会からは、後期高齢者の医療費窓口負担の原則2割化、介護保険の2割負担の範囲拡大などの案が出され、高齢者への皺(しわ)寄せが懸念される。
 こうした考えは野党だけでなく、閣内や自民党内からも慎重論や反発の声が聞かれ、加藤厚労相や田村元厚労相らもメディアや政調全体会議などの場で、医療への影響の懸念を述べている。
 また、高齢者への影響だけでなく、子育て世帯そのものへのマイナスも懸念されている。児童手当を高校卒業まで延長することにともない、現在の16~18歳の扶養控除の縮小が検討されているためだ。
 具体的な内容はまだわからないが、扶養控除の縮小割合によっては、高校生の子を持つ世帯に児童手当を支給しても、結果的に手取りが減る世帯が出る可能性があることが懸念される。扶養控除の縮小に加えて、社会保険料への上乗せも子育て世帯へものしかかるため、恩恵よりも負担が上回るのではないかという不安や不満の声もある。