金融界に衝撃「アップル銀行」が日本に上陸したら…新たな金融危機の火ダネに?

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「アップル銀行」が金融界に衝撃を与えています。米アップルは金融大手のゴールドマン・サックスと組み、他の銀行より高い年利4.15%で預金サービスを開始しました。
 米国だけでもiPhone利用者は1億人以上。その利用者に向けた金融サービスで、預金利回りは全米貯蓄口座の平均0.3%台の10倍以上。大きな注目を集めています。
 今年3月、米シリコンバレー銀行が急激な預金流出によって経営破綻したばかりです。その後も金融不安が拡大するなか、アップルはサービス開始後4日間で9億9000万ドル(約1350億円)を集めたとロイター通信などが伝えました。
 アップルはなぜ金融サービスをスタートしたのか。いくつかの深く複雑な事情があるようです。
 まず、米金融当局の思惑です。利用者にとってアップル社は安心な預金先になり得るというわけです。アップルの高い信用力や利便性は武器です。全米に広がる預金者の金融不安を抑え込む効果を狙ったのでしょう。
 新サービス口座の管理を担うゴールドマン・サックスは2019年に「アップルカード」でアップルとつながりを持っていますが、さらに踏み込んだ関係を築く狙いがあると思われます。“アップル経済圏”の顧客を取り込めれば、無駄な広告宣伝費をかけることなく、預金調達源を確保できます。その資金を金融商品で運用したり、法人に貸し付けたりして、安定的に利益を上げられる可能性を秘めています。

 そして、利用者にとって最大のメリットはわずか30秒で口座を開設できる手軽さです。「アップルカード」を持っていれば、アイフォーンのアプリを使ってパパッと口座を開けます。ソーシャルセキュリティーナンバー(社会保障番号)を入力し、あとは同意のボタンを数度押すだけでOKといいます。手数料や最低預金金額など面倒な利用条件はありません。
 日本に「アップル銀行」が上陸したらどうなるでしょうか。アイフォーンを利用している若者にはうれしい金融サービスに違いありません。日本の地方銀行には、経営的に安泰とはいえないところが多々あります。地銀離れが加速し、経営不安が広がる恐れは否定できません。
 とはいうものの、金融は国や地域ごとに規制が存在し、参入障壁は高いといえます。現在は、金融不安が拡大しそうなだけに「安心なアップル銀行」は評価されるかもしれませんが、銀行業界を一段と弱体化させるような預金流出を招く危険性もあります。経営が危うい銀行からアップル銀行へ預金が流れる事態は十分に想定できます。そうなれば金融当局による圧力はあり得るでしょう。

 アップル側の理由も見逃せません。国際電気通信連合(ITU)が発表したG20各国のスマホの普及率(契約者数÷人口)は2010年時点で9カ国が100%を超え、14年には14カ国となっています。21年のデータによると、日本は163%、中国は121%を超えています。インドでさえも82%近くです。
 アップルは新たな柱が必要になっているのでしょう。
(IMSアセットマネジメント代表・清水秀和)