24歳女性、ラーメン屋未経験から“ギャル店長”に。「宮崎県の“田舎”まで人を呼ぶ」アイデアと行動力の大切さ

 ラーメン業界は、個人経営からチェーン店まで競争が激しいことで知られている。新しくオープンした店が、翌年には潰れているなんてことは珍しくない。
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現在24歳、ラーメン屋の“ギャル店長”こと濵田亜利寿(はまだありす)さん

 そんななかで昨年7月、宮崎県西諸県郡高原町(たかはるちょう)にオープンしたラーメン屋「ムラタ拉麺」で店長を務める濵田亜利寿(はまだありす)さんが“ギャル店長”としてSNSで話題だ。YouTubeのチャンネル登録者数は2万人を突破。現在は県外からわざわざ店を訪れる客も多いのだとか。  じつは彼女、まったくの“未経験”から店長になったという。勝算はあったのだろうか。今回は、その詳しい経緯や同店の“人で人を呼ぶ”秘訣に迫った!

ラーメン屋“未経験”から店長に任命「ノリでやってみるか(笑)」

ムラタ拉麺

「ムラタ拉麺」社長の村田健さん(左)と、店長の濵田亜利寿さん(右)

 赤リップが際立つメイクに、ハート柄が施されたネオンイエローのネイル。SNSでは、そんな「ギャル店長」を主役に、「社長」が引き立て役として時おり登場する。営業中は厨房の様子を生配信するなど、仕事の裏側からプライベートまで垣間見られ、親近感が湧いてくる。  ありすさんはラーメン屋“未経験”だったというが、いきなり店長になるなんて、不安はなかったのだろうか。 「ノリでやってみるかという感じでしたね(笑)。ラーメン屋自体は未経験でしたが、高校卒業後に何軒か飲食店で働いていたので、何かしら活かせる部分はあるだろうなって」(ありすさん)

高原町まで足を運んでもらうためには…

 とはいえ、一般的にラーメン屋は長く続けていくのが難しい世界と言われている。高原町の人口は8229人(※2023年4月)で本人いわく「めちゃくちゃ田舎」なのだとか。同店を経営する株式会社オイシードカンパニー代表取締役の村田健(むらたたける)さんがこう話す。 「いまのラーメン業界は全体的にレベルが上がっていて、どこで食べても美味しいじゃないですか。もちろん、大前提として味は大事なんですが、とても小さな町なので地元のお客さんだけで商売を成り立たせていくのは正直厳しいものがある。宮崎県の高原町という田舎までわざわざ人を呼ぶためにはどうしたらいいのか。やっぱり、“人”だと思ったんです」(村田さん)

「ギャル店長を目当てに」全国から“人で人を呼ぶ”

SNS

SNSで謎のダンスを披露する二人

 接客や人の部分に力を入れていこうと最初から決めていた。そこで、ありすさんを店長に任命し、ラーメン屋の“ギャル店長”としてSNSで発信してみたのだ。 「彼女のノリや人当たりの良さは天性のものがあって。その魅力をきちんと伝えられたら、たくさんの人に応援してもらえると思ったんです。また、店をやり始めてみると、ラーメンを作るのは彼女のほうがぜんぜん手際がよくて。自然と彼女がキッチン、僕はホールというかたちに落ち着きました。ラーメン屋でラーメンを作っているのが彼女なら、それはもう“店長”だなと思って」(村田さん)  まさに“人で人を呼ぶ”狙いが功を奏し、大きな話題を呼んで地元のメディアに取り上げられた。フォロワー数や集客は右肩上がりの急上昇。 「宮崎県内だけでなく、他県からもギャル店長(ありすさん)目当てのお客さんが増えて、1日に何組もいますね。隣の鹿児島県をはじめ、九州全土。関西や関東、全国から“YouTuberやTikTokerに会いに行く感覚”で来てもらえるようになりました」(同)  村田さんは、手応えを感じているという。しかしながら、そもそも高原町にラーメン屋をオープンした経緯とは?

地元にラーメン屋が一軒もなくなる危機に事業承継

ギャル店長 
村田さんは以前、宮崎市内で青果店を営んでいた。だが、地元の高原町にラーメン屋が一軒もなくなってしまうという危機に、Uターンして“事業承継”することを決意。 「もともと二軒あったラーメン屋のうち、一軒は店主の高齢化、もう一軒は怪我を理由に閉店されると聞いて。そこは学生時代に通った店。高原町は商店街の少子高齢化などの理由から事業承継を支援していて、“地域おこし協力隊”としても活動することで補助金なども貰える。僕としては、地元に戻って少ないリスクでチャレンジできる良い機会でした。  また、九州の人間なのでラーメンと言えば豚骨なんですが、都会の福岡に行って食べるような博多ラーメンが田舎で味わえたらいいなと思ったんです」(村田さん)  そこで青果店はネット販売に切り替え、もともとアルバイトとして働いていたありすさんに「ぜひ手伝ってほしい」と声を掛けたのだとか。 「僕はラーメン屋でのアルバイト経験が多くて、ある程度は最初からオペレーションの流れが見えていました。ラーメン屋を経営している友人もいたので、作り方やレシピの相談に乗ってもらったり、まわりの力を借りればなんとかなるんじゃないかって。ただ、実際にオープンさせるまでには、とにかく時間が掛かりました。なにせ、現実としては初めてのことばかりだったので」(同)

ギャルならではの悩みも「ネイルがぜんぜんもたない」

湯切り

慣れた手つきで湯切りをする

 実際に店がスタートしてからも、朝から晩まで働き詰め。ありすさんが言う。 「高原町の夜は早く人通りも少ないので、営業は朝から昼がメイン。朝5時に起きて、6時には仕込みを開始する。7時に店をオープンさせて、14時にクローズ。片付けが終わるのが17時か18時ぐらいですが、SNSは毎日投稿を目標にしているので、そこから動画編集するという毎日です。ソファーでウトウトしていて、気付いたら朝を迎えているなんてしょっちゅうですね」(ありすさん) 湯切り 
加えて、ギャルならではの苦労もある。 「ラーメンの湯切りで自分にお湯がかかったり、餃子を焼くときに油が飛んできたり、火傷することも多くて痕が残ってしまう。汗でメイクはすぐに崩れてしまうし、お皿洗いとか水仕事が多いのでネイルがぜんぜんもたない。もっと可愛くしたいんですけどね」(同)

ネイル

ギャルらしいネイル。通常は1か月はもつはずが、2週間ぐらいでダメになってしまうのが悩みなんだとか

 中学・高校時代にギャル雑誌『egg』を読んで影響を受けた彼女。ギャルということで、SNSでは心ないコメントが付くこともあるという。ありすさんは、それでも「やりがいが大きい」と話す。 「バズるとアンチが増えるって、こういうことなんだと実感していますね。発信する以上は仕方がないと思うのでギャルは貫きますよ(笑)。  高原町の人たちもうちが宮崎県内で話題になっていることを喜んでくれていて、声を掛けてもらえます。遠方からのお客さんが差し入れやお土産を持ってきてくれたり、ラーメンを『美味しい』と言ってもらえたりするのが本当にうれしいんです」(同)

地方にいながら“ラーメン業界のカリスマ”を目指す

 ここまで二人三脚でやってきた。二人の出会いは、村田さんが青果店を営んでいた頃、野菜の配達先にありすさんがいて仲良くなったのだとか。それから数年、今ではお互い欠かせないパートナーに。 「彼女は一瞬一瞬の集中力がすごくて。さらになんでもこなせる器用さもあって、じつは経理とか事務仕事もやってくれている。本当に真面目で純粋、才能のかたまりですね」(村田さん) 「私はノリで生きてきたのですが、それだけでは、彼がいなかったら何者にもなれなかったというか……。どんどんアイデアが出てきて、それを実現させる力が本当にすごい」(ありすさん)  いつしか村田さんとありすさんは「同じ夢を共有するようになった」。そして、「地方にいながらも“ラーメン業界のカリスマ”を目指していく」と口を揃える。

二人三脚で見えた夢

ギャル店長 
ラーメン業界にギャル店長の新風は吹くのか。ムラタ拉麺には平日で50人〜60人、週末では70人〜80人の客が訪れるという。今の場所で考えれば健闘しているとのことだが、村田さんは「もっとお客さんを呼べるようになりたい」と意気込む。そのうえで、今後の展望についてこう話す。 「現在は僕たち二人と、週末はアルバイトの子にも手伝ってもらっていますが、ゆくゆくは交通量が多い場所に店舗を移転・拡大し、観光スポットのひとつにしたいですね。  高原町は珍しい遺跡があるわけではないんですが、自然が豊かでキャンプや登山、釣りなどのアウトドアが楽しめる。温泉もあるので日々の疲れを癒やしに来てもらいたい。青果店だった経験も活かして農業体験もできるような民泊とかもやりたいと思っていて、自分たちで採った食材で夜はバーベキューをする、みたいな。SNSのおかげで夢がどんどん広がっています」(村田さん)  さらに、ありすさんが付け加える。 「ずっといっしょにいるので基本的には同じですが、2年前ぐらいに今みたいな状況になったらいいね、という話をしていたんです。当時はラーメン屋のギャル店長じゃなくて、青果店だから“オヤッサイギャル”で(笑)。ただ、あんまりバズらなくて、YouTubeの登録者数も『ようやく1000人いった』みたいな。それがいっきに2万人まで増えたので、やるからには目標として100万人!」(ありすさん)  地方ならではの事情もありながら、プラスアルファの要素を模索する。その環境から道を切り拓いていけるのかは、「アイデア」と「行動力」に掛かっているのだ。ネットとリアルの両面で試行錯誤し、ひたむきに頑張る姿を眺めていると、思わず応援したくなる。二人の夢の“続き”を見守りたい。
<取材・文/藤井厚年>