「五十肩」は“老化のサイン”、じつは「嘘」だった…! 「五十肩」をめぐる“本当のこと”と、気をつけたい「糖尿病」「甲状腺」と“意外な関連”

五十肩は「老化のサイン」って、本当か…?

「最近肩がまわらなくなって、ついに自分も五十肩かなあ」

40代や50代を迎えた人から、半ば笑い話のようにこんなセリフが口にされるのをよく耳にします。あるいは、まだ30代にもかかわらず、「僕も五十肩だよ」と肩こりの原因を表現する人もいるかもしれません。

この「五十肩」という病気について、どこまでご存じでしょうか。「五十」というのがちょうど様々な場面で「老化を感じやすい」年齢ということもあり、老化の始まりの代名詞のようにも捉えられますが、本当に、これは老化のサインなのでしょうか。

そもそも、病名に年齢がつく病気が他になかなかないことに気がつきます。「二十膝」や「八十肘」などもあれば興味深いのですが、そんな病気はありません。だからこそ、余計に老化の代名詞になってしまっているかもしれません。

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「五十肩」というのは、そもそも正式な医学用語ではありません。五十肩が意図する病気は、実際には「肩関節周囲炎」や「癒着性肩関節包炎」と呼ばれています。

ただ、これだと何のことだかよく分からなくなってしまいますね。それほど、「五十肩」という呼称が世の中に浸透していることの裏返しでもあります。

古くから使われている言葉は的をえていることも多く、確かにこの肩関節周囲炎は、50代に発症し始めることの多い病気で、発症のピークは50代の中盤と報告されています(参考1)。

逆に、40歳以前に発症することは極めて珍しいと考えられています。なので、30歳で「五十肩に違いない」と言っている人は、他の理由を探す必要があります。

「糖尿病」と「五十肩」の関連

五十肩がどれほどありふれた病気かを知らせてくれる研究があります。

イギリスで9000人を超える働く世代に対してアンケートが行われ、どのぐらいの人が腕や肩の病気に悩まされているかが調査されました。そのアンケートの結果によると、男性で8. 2%、女性では10. 1%もの人がこの肩関節周囲炎に悩まされていたことが報告されています(参考2)。それほど身近な病気なのです。

五十肩には、いくつかの病気との関連も知られていて、その代表格が糖尿病といわれています。糖尿病の人のうち、五十肩を発症する人の割合は10%を超え、最大約20%にも上るとの報告があります(参考3)。

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その他にも以下のような病気が五十肩と関連することが知られています。

五十肩の発症と関連のある病気・状態(参考4・6)
□ 糖尿病
□ 甲状腺疾患
□ 脂質異常症(コレステロールの異常)
□ 脳卒中
□ 自己免疫疾患
□ パーキンソン病
□ 肩のけが
□ 長期にわたり肩を動かさないこと

なかでも、甲状腺の病気を持つ人は最大で2. 7倍ほどまで五十肩のリスクが上昇する可能性が指摘されています(参考5)。これまでそういった病気を指摘されたことがある人は要注意かもしれません。

五十肩の「メカニズム」

この病気の肝心のメカニズムですが、残念ながら詳細については分かっていません。

仮説として、50代に入ると何らかのきっかけで肩関節の周囲に炎症が起こるようになり、炎症の結果として肩関節の周りに線維質ができてしまって動きを制限するようになるというメカニズムが考えられています。

この病気を発症する人の症状を追いかけてみると、発症から数ヶ月の間、夜を中心に肩の痛みを感じるようになり、その後、痛みの改善とともに今度は肩を動かしづらい時期を迎えます。その後は少しずつ動かせるようになり、1〜2年かけて元の状態まで回復するという経過を辿るのが一般的です(参考7)。

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ここで重要なのが、多くの方が数年をかけて「回復する」という事実です。

数%の人では長期にわたって深刻な障害が残る可能性があることも報告されています(参考8)が、大部分の人はその後の人生で症状を抱え続けることはありません。「五十肩=老化のサイン」と捉えてしまうと、「この先一生付き合っていかなければならないのか」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。多くの場合、一時的な炎症性の病気であって、それは必ずしも「老化」ではないのです。

五十肩は老化のサインではありません。

一度五十肩を発症した人でも、ほとんどの人が数年で回復します。

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