「回転ずしテロ」の大きすぎる代償、高額の賠償金や懲役・罰金の可能性は

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写真はイメージです Photo:PIXTA

今年に入り、回転ずしチェーン店で商品や備品にいたずらする映像がSNSで相次いで出回った。炎上後、謝罪を申し出た投稿者もいたが、事態を重く見た回転ずし店側は受け入れを拒否。刑事・民事での責任追及を表明した。刑事的にはさまざまな罪が考えられ、民事的にも店側の損害が大きく、賠償金も高額になる可能性もある。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

謝罪受け入れ拒否し「厳正な対処」表明

 最初に発覚したのは1月7日頃だった。TikTokに若い男性がレーンに流れてくる2貫のすしのうち1貫を箸でつまんで食べる動画が拡散。「おいしそうだったので食べちゃいました#人の注文#はま寿司」の文字が入っていた。

 同9日ごろには、インスタグラムのストーリーで同じく「はま寿司」で撮影された「他人握りわさび乗せ」の文字が入った動画が投稿された。見る限り、他人が注文したすしにわさびを混入したようだ。これは24時間で削除されたが、数日後、ツイッターで拡散され一気に炎上した。

 はま寿司はわさびを入れたとみられる人物から店舗に電話で謝罪の申し入れがあったとしているが、受け入れを拒否。既に警察に被害届を提出している。

 同24日ごろには「くら寿司」で、若い男性3人がお皿の回収口にヘディングするように投入したり、一度取ったお皿をレーンに戻す動画が拡散された。レーンに流れている商品から4年前に撮影されたとみられるという。くら寿司も、警察に相談する意向を示している。

 同29日ごろには「スシロー」で、男性客がテーブルのしょうゆ差しの注ぎ口や積まれた湯飲み茶碗の周囲をなめ回したり、つばを付けた手でレーンを流れるすしにこすりつけたりしている動画が拡散。瞬く間に炎上した。この動画もストーリーズに投稿されたとみられる。

 スシローは同30日、公式サイトで「刑事、民事の両面から厳正に対処してまいります」と表明。さらに2月1日には店舗が岐阜市内の店舗だったことを公表し、当事者と保護者から連絡があり、会って謝罪を受けたことを明らかにしたが「厳正に対処」の方針は維持する構えだ。

窃盗や器物損壊業務妨害罪の可能性も

 それでは、それぞれの行為は刑事・民事でどれぐらいのペナルティーが科せられるのだろうか。

 まず刑事だが、他人が注文したすしを食べたはま寿司のケースでは、その客が1貫を取られたことに気付かずお皿を取ってしまった場合は客が、おかしいと気付いた客がお皿を取らなければ店が、被害者となり窃盗罪(刑法235条)に該当する可能性が考えられ、10年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。

 わさびを混入したり、一度取ったお皿を戻したりする行為、しょうゆ差しの注ぎ口をなめ回したりする行為は、器物損壊罪(刑法261条)の可能性がある。同罪は「他人の物を損壊・傷害」することが前提だが、実際に壊さなくても心理的に使用できなくしたり、その価値を低下させたりする行為も損壊とみなされ、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料となる。

 そのほか、動画が拡散した結果について偽計業務妨害罪(刑法233条)か威力業務妨害罪(同234条)に問われる可能性がある。いずれも「他人の業務を妨害する」点で一致しているが、特徴としては偽計が「不可視的」、威力が「可視的」に妨害する行為と解釈され、両罪とも3年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。

 もちろん、複数の罪に問われる可能性もある。加えて当事者だけでなく、撮影や動画を拡散したり、一緒にいてけしかけたりした仲間も、共犯や幇助(ほうじょ)として刑事責任が問われる可能性も考えられる。

民事での賠償額は数十万~数百万円か

 民事ではどうか。SNSではスシローの株価が一日で百数十億円下落したことを受け「株価が下がった分を損害として賠償請求すべき」などのコメントが散見されるが、そもそも株価下落で損害を被ったのは株主であり、スシロー側ではない。

 損害賠償請求訴訟を起こすなら株主であり、所有する株価が下がったことによる金額を請求するのが筋だろうが、動画が拡散した事実と株価が下がった因果関係を法的に立証するのはまず不可能で、現実的ではないだろう。

 それではどれぐらいの請求額になるのだろうか。株価と同様、動画が拡散した事実と売り上げが減少した(場合の)因果関係を法的に立証するのは難しい。ただ、各社とも「厳正な対処」を表明しているだけに、清掃や備品の入れ替え・交換などにかかった実費だけ請求というわけにはいかないだろう。

 全国紙社会部デスクによると、実はこうした行為に対する損害賠償請求訴訟というのはあまり例がなく、具体的な相場というのは不明らしい。ただ、東京都多摩市の老舗そば店で2013年、アルバイトの男子大学生4人が「洗浄機で洗われてきれいになっちゃった」のコメントを付けて洗浄機に横たわったり、顔を突っ込んだりする画像などを投稿。

 ネットで炎上する事態となり、倒産に追い込まれたそば店は4人に1385万円の損害賠償を求めて訴訟を起こしたが、結局、200万円を支払うことで和解が成立したケースがあった。ただ、この訴訟はそば店が個人経営で、さまざまな出来事が重なったこともあり疲れ果てていたのだろうと推測される。

 しかし、回転ずしチェーン各社は違う。全国展開する組織力と財力があり、抑止力・再発防止のためには中途半端な交渉に応じるつもりはないだろう。

 前述のデスクは「この件で弁護士何人かと話しましたが『よくて実費だけ』『風評被害なども含め実費プラスアルファ』『動画拡散前と直後の売り上げを精査しきっちり請求すべき』など、回答はまちまちでした。ただ『払えない金額を請求してもペナルティーにはならない』という点では一致しており、行為によって数十万~数百万円と幅がある気はします」と説明。その上で「やはりスシローの件は高額になるでしょう」と予想した。

回転ずしチェーン各社が毅然とした対応を行う理由

 本稿では刑事・民事両面での展開について言及したが、実は刑事については非行歴のない未成年であれば「厳重注意」程度で、実際に罪に問われる可能性は薄いとみられる。

 しかし民事では、客と店とのルールと信頼関係で成り立っている営業スタイルを根幹から揺るがすような悪質な行為のため、回転ずしチェーン各社が一斉に謝罪を拒否する姿勢で連帯しているように見える。

 ぬるい対応では模倣犯が出たり、迷惑系ユーチューバーらが「この程度か」と高をくくり、アクセス数を稼ぐためやりたい放題になったりする可能性さえあるからだろう。

 回転ずしチェーン各社は訴訟で請求が認められるかどうかではなく、とにかく毅然(きぜん)とした対応を示すことを最優先している。おそらく、和解などには応じるつもりはないだろう。そうなれば、刑事裁判と違い、民事訴訟は組織力・財力が勝負を決める事が多く、回転ずしチェーン各社vs一般市民では、結果がどうなるかはいわずもがなだ。

 当事者や投稿者は「ちょっとしたいたずら」「目立ちたかった」レベルのつもりだったのだろうが、その代償は思いのほか高くつくことになりそうだ。