結局、何歳まで生きれば年金の「払い損」は免れるの?「支払い総額」をもとに検証

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国民年金保険料の納付は義務ですが、厚生労働省が2022年6月に発表した全国の最終納付率は、過去最高ではありますが78%にとどまっています。納付の意志があっても経済的理由で納付できない場合は猶予・免除制度を利用できます。
中には「制度が破綻するのではないか」、「受給額が納付額を下回るのではないか」といった公的年金に対する誤解に基づく不安から納付しない人もいるようです。制度のしくみを正しく知れば、そのようなリスクが小さいことも把握できるでしょう。
そこで今回は年金の方式などを紹介し、何歳まで生きると払い損を避けられるのか解説します。

日本の年金制度は賦課方式

年金を受け取れないと危惧している人は、「制度の破綻によって自分の積立分が失われる」と思いがちです。しかし、そもそも日本の制度では、過去に支払った保険料を受け取るわけではありません。年金は世界中の国々にある制度で、財源に関しては「積立方式」と「賦課方式」に分かれます。そして、日本の公的年金制度が採用しているのは「賦課方式」です。
積立方式の場合は、将来自分が受給する分の財源を事前に貯蓄していきます。自動積立の定期預金や学資保険などの金融商品をイメージすると分かりやすいでしょう。
一方、賦課方式は既存の財源に基づくものではなく、その時々に納められた保険料から支給される仕組みです。現役で働いている世代が、受給資格を持つ世代を支える構図となっています。
つまり、制度の根幹にある理念は社会全体による世代間扶養です。それゆえ、国は2001年9月、「公的年金は、将来の経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後の収入確保を約束できる唯一のもの」と基本的な認識を示しました。

損をしない目安は75歳!

年金の払い損にならない年齢は、保険料の納付額と受給額から計算できます。国民年金の第1号被保険者の場合、毎月納める保険料は1万6590円です。これを20歳から60歳までの40年にわたって支払うと、納付の合計額は796万3200円になります。
一方、年金の受給額は保険料を納付していた期間が長いほど高く、上記の例だと満額を受け取る資格があります。なお、令和4年度の時点で設定されている満額は1年当たり77万7800円です。
この金額を受け取り続けると、10年3ヶ月で796万3200円を超えます。したがって、標準的な受給開始時期の65歳から受け取った場合、損をしない目安の年齢は75歳といえます。

被雇用者なら厚生年金も考慮

企業などに雇用されて働いている人は、基本的に厚生年金に加入します。保険料の算出に使われるのは、給与を一定の区分に割り当てた平均標準報酬額(賞与を含む)です。例えば、報酬月額が29万円以上31万円未満の場合、平均標準報酬額は30万円となります。このケースでは、国民年金の分も含めて1ヶ月当たり2万7450円を支払い、40年間で合計額は1317万6000円に達します。
そして、1年の受給額は平均標準報酬額に給付乗率と加入期間の月数をかけて求めます。平成15年4月以降の加入期間における給付乗率は5.481/1000です。この給付乗率を適用し、平均標準報酬額が30万円で加入期間を40年として計算すると、結果は78万9264円になります。国民年金の77万7800円と合算すると年額は156万7064円です。
この合計額を受け取り続けた場合、8年5ヶ月後に1317万6000円を超えます。受給を65歳からスタートすると損をしなくなるのは73歳です。上記はあくまでも一例に過ぎませんが、平均寿命が80歳以上であることを踏まえると、払い損になる可能性のほうが低いことは明らかです。

払い損の過剰な心配は不要! 制度を理解して保険料を納めよう

日本の公的年金は賦課方式で、世代間扶養という概念が制度のベースです。滞りなく国民年金の保険料を納付した場合、所得税等の天引きを考慮しなければ75歳で払い損を免れます。厚生年金は標準報酬月額なども影響しますが、もっと早い段階で収支がプラスになることもありえます。
したがって、平均寿命ぐらいまで生きると想定するなら、保険料の不払いを選択するのは得策ではありません。あまり長く生きる自信がない、といった場合は繰上げ受給も検討してみると良いでしょう。