健康診断の数値から計算したら、凄すぎた…からだの中にある「赤血球の本当の数」…なんと、超単位で違ってくる「ハンパない個人差」

生きものについて知ることは、自分自身を知ることであり、私たちを取り巻く生きものや環境の成り立ちやかかわりあいを知ることといえます。ところが、世の中では「生物学は面白くない」と思っている人が、意外に多いようです。身近なテーマなのに、難しい専門用語が散りばめられた解説は、生物学という世界を疎遠にしてしまっているのかもしれません。

新型コロナウイルスCOVID-19はじめとした感染症の拡大、原発事故による拡散した放射性物質の挙動、地球温暖化、遺伝子組み換えによる作物や臓器提供のための動物など、現代の主要なトピックの多くが生物学と密接に関係しており、まさに現代人にとって必須の教養といえます。

そこで、生物学の基本から最新の話題まで、網羅的に解説した入門書『大人のための生物学の教科書』から、興味深いテーマ、読みどころをご紹介していきたいと思います。今回は、酸素を運ぶ血液の細胞「赤血球」についての解説をお届けします。

【書影】大人のための生物学の教科書

※本記事は『大人のための生物学の教科書 最新の知識を本質的に理解する』を一部再編集の上、お送りいたします。

赤血球の新旧識別のしくみ

赤血球はおよそ120日で寿命を迎え、脾臓で破壊される。脾臓では一体どうやって赤血球の新旧を見分け、破壊すべきものとそうでないものを区別しているのだろうか。

赤血球の細胞膜にはある膜貫通タンパク質が一定の間隔で分布している。血液中にはこのタンパク質を認識する抗体があるものの、タンパク質が間隔をあけて分布している間はほとんどそこに結合できない。しかし古くなった赤血球は、内部の水分をうまく保持できなくなり膜にひずみを生じる。

また、時間を経て傷んだ赤血球内のヘモグロビンは、互いに凝集しながらこの膜貫通タンパク質の内側部分に結合する。こうした膜のひずみやヘモグロビンの凝集作用によって、この膜貫通タンパク質も凝集し、その間隔が狭くなる。すると抗体がこれを認識して結合できるようになる。そして脾臓には、この抗体を目印として赤血球を破壊するマクロファージという食細胞が待ち構えているのである。

【写真】脾臓の細動脈
脾臓の細動脈 photo by gettyimages

このような一生を送る赤血球だが、それでは、あなた自身のからだには、どれくらいの赤血球が血管内をめぐっているのか、ご存知だろうか。

赤血球の数が驚異的…全細胞の2/3が赤血球

血液の液体成分(血漿)から、細胞成分へと話題を移そう。

健康診断で血液検査を受けるとほぼ必ず、赤血球数が測定される。正常値は400〜500くらいの値なのだが、この単位は「×104/μL」である。1μLとは1mLの1000分の1で、一辺が1mmの立方体の体積と同じだ。そんな少量の血液に、500×104個=500万個もの赤血球がふくまれている、ということだ。

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1μLとの血液に、500×104個=500万個もの赤血球がふくまれている illustration bygettyimages

ヒトの血液量は体重の13分の1程度とされているので、体重65kgならちょうど5Lくらいである。1μLで500万個という赤血球数から全身の赤血球数を計算すると……なんと、25兆個にもなる! 全身の細胞数がおよそ37兆個だといわれているから、身体を構成する全細胞数の3分の2程度が赤血球なのである。

赤血球には核も他の細胞小器官もなく、内容物のほとんどすべてがヘモグロビンである。ヘモグロビンは酸素運搬に特化したタンパク質だ。赤血球以外の12兆個の細胞を維持するために、その倍以上の数の赤血球が必要なのだから、どれだけ私たちの身体が酸素に依存しているかがわかるだろう。

人によってこれだけ違う…赤血球の数とパフォーマンス

先ほども触れた、健康診断における赤血球数の正常値には男女差があり、男性の基準域(正常と判定される範囲)は400〜539で、女性は360〜489である。赤血球数が少なめの女性と多めの男性では、1.5倍近くも開きがあるということだ。

これは主に、男性ホルモンに赤血球の産生を促す作用があることによるのだが、何しろ赤血球は何十兆という単位で体内にあるのだから、1.5倍も違ったら体内の総赤血球数は数兆個レベルで違ってくる。このことは、全身の細胞に対する酸素運搬能力の決定的な差につながる。

特にマラソンのように持久力が要求される種目では、よく高地トレーニングが行われる。これはいわば、赤血球のトレーニングである。酸素濃度が低い環境下でトレーニングをすることで、少ない酸素を効率的に取りこむために、赤血球そのものの数や赤血球にふくまれるヘモグロビン、さらに筋肉に酸素を受け渡すために必須のタンパク質であるミオグロビンが増える適応反応が起こる。

高地に適応してから低地に戻ると、しばらくの間は赤血球やヘモグロビン、ミオグロビンが増えたままなので高いパフォーマンスが期待できる、というわけだ。

【写真】しばしば耳にする高地トレーニングは、いわば、赤血球のトレーニングである
しばしば耳にする高地トレーニングは、いわば、赤血球のトレーニングである photo by gettyimages

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さて、私たちの12兆個もの赤血球は、どうやって酸素を運んでいるのでしょうか。肺で酸素を受け取るのはもちろん、酸素を必要とする各組織において、酸素を“効率よく離す”ことも必要となります。

続いては、赤血球内を満たす酸素運搬に長けたタンパク質「ヘモグロビン」の働きについての解説をお届けします。よく耳にする「過呼吸」の状態も、この働きのしくみがわかると、よく理解できます。

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