発症者ほぼ100%死亡の狂犬病、予防接種しない飼い主「ワクチンが犬の寿命縮める」…科学的根拠なし

 群馬県伊勢崎市で2月に小学生ら男女12人が狂犬病の予防接種をしていない四国犬にかまれて負傷した事件で、飼い主の男性(62)が狂犬病予防法違反容疑などで3月に書類送検されてから、1か月が過ぎた。予防接種は飼い主の義務だが、近年の接種率は7割にとどまる。今月からは順次、各自治体で集団接種が始まっており、自治体や動物病院は接種を呼びかけている。(出口梨花)

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犬に狂犬病の予防接種をする桑原さん(10日、前橋市六供町で)

 前橋市六供町の桑原動物病院で10日、院長の桑原孝幸さん(40)がマルチーズの背中付近に、狂犬病の予防接種をしていた。犬は暴れることもなく、注射が終わると抱きかかえられて診察室を出た。

 同院では、年間約1000頭の狂犬病予防接種を行っているが、病気やけがで来た犬が接種していないケースもある。同院では診察時に予防接種歴を確認し、治療後の接種を説得。大半が後日再来院するが、そのまま放置する飼い主もいるという。

 狂犬病は、犬にかまれるなどして感染した人が発症すると、ほぼ100%死亡する。国内で人が感染した事例は、1957年以降確認されていないが、アジアやアフリカなど世界各地で確認され、毎年数万人が死亡。狂犬病予防法は年1回の予防接種を飼い主に義務づけており、違反した場合は20万円以下の罰金が科せられる。

 それにもかかわらず、2022年度の群馬県内の接種率は約72・0%で、12年度から5・7ポイント減少した。コロナ禍で自治体の集団接種が相次いで中止されたことも影響したとみられている。

 2月の伊勢崎市の事件では、かんだ体長約130センチの四国犬と他の6頭のうち、3頭は約10年前から、4頭は1回も予防接種をした記録がなかった。男性は取材に「以前飼っていた犬が接種後に病気で死んだので、ワクチンが体に悪いと思っていた」と説明した。

 SNSでも「ワクチンが犬の寿命を縮める」といった投稿が見られるほか、県内の自治体には事件後、「高齢や病気などで、予防接種できない犬もいる。一概に批判できないのでは」との意見も寄せられた。

 しかし、群馬県獣医師会によると、ワクチンが犬の寿命を縮めるという科学的根拠はない。集団接種会場や同会所属の獣医師が勤務する動物病院で20~22年度に延べ約18万5000頭が予防接種を受けたが、発熱などの副反応が報告されたのは5頭のみで、数日で回復した。

 高齢や病気で接種できないケースもあるが、獣医師の診察を受け、狂犬病予防注射猶予証明書を出してもらう必要がある。桑原さんは「自分の犬は接種できないと自身で判断するのは問題」と指摘。不安な飼い主には、接種後も相談しやすい動物病院での個別接種を勧めている。

伊勢崎市、あすから春の集団接種

狂犬病予防接種を呼びかけるデジタルサイネージ(10日、前橋市役所で)狂犬病予防接種を呼びかけるデジタルサイネージ(10日、前橋市役所で)

 事件があった伊勢崎市では、17日から春の集団接種が行われる。市は春に接種していない犬を対象に、秋にも集団接種を行っているが、今年から秋にも接種していない飼い主に、通知することを検討している。前橋市も、市役所のデジタルサイネージ(電子看板)で接種を呼びかけている。

 各自治体での集団接種は4~6月頃に行われる。桑原さんは「60年以上、国内で狂犬病が確認されていないのは予防接種のおかげ。海外から狂犬病が持ち込まれる可能性はゼロではない。人や動物の命を守るために、必ず接種してほしい」と話している。