これが老後の岐路、要介護になったら施設に入らないと生活できないのか?

有料老人ホームなどの施設に入るのは、病気で入院して退院後に要介護になった人や、認知症の人が多い。ただし、要介護3以上でも在宅の人は多い。十分な在宅サービスが得られるかどうかを知りたいが、情報は十分でない。

「自宅か施設か」を判断するためのデータがほしい

多くの人が、老後も住み慣れた自宅に住み続けたいと思っている。しかし、要介護状態になれば、それは難しいのかもしれない。では、どの程度の要介護状態になったら、自宅での生活は無理なのか?

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「自宅か施設か」という選択のためには、これに関する情報が不可欠だ。以下では、実態調査からどの程度の情報が得られるかを見ることにしたい。
とりわけ知りたいのは、次のことだ。

入居は、要介護あるいは認知症になったから

LIFULL seniorが行なった「介護施設入居に関する実態調査 2023年度」によると、老人ホーム入居者のうち、入居時に「自立」だった人は、4.6%に過ぎない。

老人ホームの広告は、「施設に入れば自宅を維持する面倒さや、料理、家事の必要がなくなる」などと謳っていることがあるが、そのような理由で施設に入る人は、ごく少数であることが分かる。

施設に入るのは、要介護状態になったからだ。全体の16.7%が、入居時に「要介護2」だ(これは、立ち上がりや歩行などが自力で出来ず、排泄や入浴などに介助が必要な段階)。50%超が、要介護2以下で介護施設へ入居している。それは、自宅での介護が大変だからだ。

また、入居を考えるきっかけとなった状況として、46.0%が「認知症」とした。認知症になった場合には、自宅での生活は難しく、施設に入ることが必要になる場合が多いのだろう。

では、こうした人たちは、入居前には、どうしていたのか? 入居前の自宅での介護期間は、3年未満が59.6%だ。3年以上になると、自宅での介護は、負担が重くなることが分かる。

「自宅での介護期間はない」が15.4%だ。これは、入院して退院後に、自宅での生活が難しくなった場合と思われる。なお、「5年以上」という人も16.5%いる。

なお、3月24日公開「老人ホームをどう選択する? 介護のあり方でこんなにも変わる『終の棲家』の形」で述べたように、施設の部屋は1人部屋が圧倒的に多く、2人部屋は少ない。すると、入居者は、配偶者と死別した人たちなのだろうか?それとも配偶者の一方は自宅に住み続けているのだろうか? これについてのデータは、見つからなかった。

ただし、夫婦の一方が認知症のとなって施設に入り、一方の健常者は自宅に住み続けるというケースは多いのではないかと想像される。

どういう施設で、どのようなサービスが

LIFULL seniorの「介護施設⼊居に関する実態調査」(2020年11月)によると、施設の種類別に見た入居者数の比率は、つぎのとおりだ。

介護付き有料老人ホーム(39.3%)、特養(16.7%)、介護老人保健施設(8.1%)、住宅型有料老人ホーム(7.4%)、サ高住(6.2%)、グループホーム(6.1%)、介護療養型医療施設(5.6%)。 なお、同調査によると、入居時の年齢は、つぎのとおりだった。

80 代が 46.5%、 90 歳以上が 23.8%、70 代が21.8%。

老人ホームの実態については、「有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査研究事業」(平成26年、公益社団法人全国有料老人ホーム協会)が、詳しい情報を提供している。

入居者の住民票住所、生活支援等のサービス提供状況、医療支援体制、費用などの情報は、興味深い。例えば、看護師がホームに常駐している割合は、介護付ホームでは 95.7%、住宅型ホームでは 59.3%、サービス付き高齢者向け住宅では 50.4%だ。また「在宅療養支援診療所・病院と協力・連携体制をとっている」のが、介護付ホームでは78.5%、住宅型ホームでは 67.6%、サービス付き高齢者向け住宅では 63.0%などだ。

居室面積や支払い費用の平均額も示されている。例えば、介護付で、85歳要介護3で入居の場合、居室面積は18.2平方メートル。敷金・保証金等の前払金は46万円、月額利用料(家賃、食費、介護費用など)は、22万円だ(ただし、これは全国平均値だから、大都市の場合には、あまり参考にならないかもしれない)。

「自宅から」と「病院・診療所から」が多い

「高齢者向け住まい及び住まい事業者の運営実態に関する調査研究」(野村総合研究所)によると、介護付き有料老人ホームの場合、入居時に「自宅から」は44.5%、「病院・診療所から」が40.0%だ(残りは、他のタイプの有料老人ホームなど)。サービス付き高齢者住宅の場合には、それぞれ、50.8%と32.5%だ。

このように、「病院・診療所から」の比率がかなり高い。これは、脳梗塞などの発作で入院し、退院後に要介護になって施設に入居する場合が多いことを示している(退院後、一時的に自宅で介護していた場合も多いだろうから、実質的に「病院・診療所から」の比率は、もっと高いと考えられる)。

こうした場合に、どのような施設にするかを時間をかけて検討する余裕はないかもしれない。そうした事態に備えて、早くから情報収集を心がけることが必要だろう。

「要介護3以上でも在宅」は多い

一方において、要介護度が3以上であっても、施設に入らない人が多いとの調査結果もある。

在宅介護実態調査結果の分析に関する調査研究事業」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2021年 3 月)によると、要介護3の人々の中で、「施設等を検討していない」人の割合は、都道府県の平均で62.3%と、意外に高い。

施設を検討しないのは、訪問介護や通所介護で十分だからなのか、それとも、施設に入るのが経済的に難しいからなのかは、分からない。

ただし、かなり介護度が高くても在宅の人が多いことは、間違いなく言える。実際、3月17日の本欄で述べたように、日本全国での要支援・介護者約700万人のうち、約500万人は在宅であろうと推計されるのである。

なぜ施設入居が必要か?

最も知りたい情報は、なぜ施設に入居しなければならないのか?なぜ自宅に住み続けて訪問介護や通所介護で対処するのでは不十分なのか?ということだ。訪問・通所介護では、サービスが不十分なのだろうか?

あるいは、配偶者を亡くして、1人暮らしになってしまったからだろうか? そもそも、訪問・通所介護は、同居者の存在を前提にしたものか? それとも1人になっても、訪問・通所介護で在宅が可能なのだろうか?

こうした情報を知りたいのだが、それについての情報は不十分だ。
訪問介護の実態調査もあるのだが、事業者の経営状況に関する調査であり、利用者の立場からみた調査は、私が探した限りでは、見出すことができなかった。

仮に、「ある程度以上の要介護になると、在宅介護では不十分で、施設入居が必要」という結論になると、行政側としては、「特養が不十分な状態で、民間の有料老人ホーム等に任せるのか。それでは、金持ちしか介護サービスを受けられなくなる」という批判が出ることを心配しているのだろう。

しかし、現状の問題点を隠したところで、問題がなくなるわけではない。特養等の公的な施策が不足なら、それを増やすために予算を増やすことが必要だ。あるいは、介護保険料や自己負担を引き上げて、対処することも必要だ。

利用者側からの調査は、そうした政策が必要であることを支えるデータとなるだろう。