一人暮らしの親が高齢になってくると、暮らしの様子が心配になってくるものです。生活の基盤となる住まいの安全性は、特に気になる部分でしょう。
階段の上り下りや日常的な買い物、通院など、住環境や住むエリアによって負担の度合いは大きく変わります。
この記事では、一人暮らしの高齢者がどこに住むのが適しているのか、安心できる住まいの選び方と注意点などを解説します。
高齢の親が住むのはどこがいい?
高齢の親が安全に住める場所を考えるときに、まず大事なポイントとなるのは、家の耐震性です。
1981年以前に建てられた住宅は旧耐震基準で建築されている可能性が高く、大地震が起きたときに倒壊してしまうリスクが高いとされています。
近年、相次ぐ地震を鑑みれば、耐震性能の低い住宅に住むのはできるだけ避けたいところです。もしも、長年住み続けた家を手放すのに抵抗があるのであれば、耐震補強を検討する必要があります。
耐震補強には多額の費用がかかりますが、耐震診断や耐震補強は各自治体で補助金制度を実施していることが多いため、それらの活用も検討しましょう。
あるいは、万が一家屋が倒壊しても命を守れるように、家の一部分に耐震シェルターを設ける方法もあります。
一人で持ち家に住み続けるのは不安という場合は、賃貸物件への住み替えを検討してみましょう。シニア向けの分譲マンションや賃貸物件、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、有料老人ホームなど、さまざまな選択肢があります。
住まいの安全性や経済的負担などをよく検討したうえで、住む場所について今一度考えることが大切です。
賃貸物件を選ぶときのポイント
持ち家を処分して賃貸物件への住み替えを考える際は、高齢者が暮らしやすい物件かどうかをチェックする必要があります。高齢者が住みやすい物件を選ぶときのポイントを見ていきましょう。
バリアフリーに対応した物件か
今はまだ健康上の不安がなくても、加齢に伴って身体機能が低下すると、一般的な住まいでは暮らしにくいと感じることが増えてきます。
「床に段差がない」「必要な箇所に手すりが設置されている」「滑りにくい床材を使っている」といった、バリアフリーに対応した物件かどうかをチェックしてください。
防犯設備などのセキュリティ面を確認する
高齢者の一人暮らしは隙が生まれやすく、防犯面が心配です。防犯カメラの設置やピッキングされにくい鍵、管理人の有無などについて確認しておきましょう。
高層階よりも1階を選ぶ
高齢になると階段の上り下りが負担に感じます。また、万が一火災などが発生した場合、高層階では避難が難しくなるため、1階などの低層階に住む方が安全に暮らせるでしょう。
病院や商業施設など、暮らしの利便性も考慮する
高齢になると、ちょっとした買い物でもおっくうになるものです。また、通院する回数が増える可能性もあるので、利便性の高いエリアを選ぶことは重要です。
日々の生活に負担を感じないように、物件の近くに商業施設や病院などがあるかを必ず確認しておきましょう。
部屋ごとの寒暖差が少ない物件を選ぶ
高齢になるとヒートショックのリスクが高まります。浴室暖房乾燥機などで対応することもできますが、できれば部屋ごとの寒暖差が少ない、高気密・高断熱の物件を選ぶ方が安全です。
住宅性能の高さは、長く住み続けるうえで大切なポイントです。
できるだけ親族が近くにいる場所の方が安心
急な体調の変化に備え、近くに親族がいる場所を選ぶとお互いに安心です。同居は難しい場合でも、何かあったときにすぐに支援できる距離感かどうかを考えてエリア選びをしましょう。
高齢者向けの物件にかかる費用の目安
高齢者向けの物件にはいくつか種類があり、それぞれかかる費用も変わります。ここでは、一般的な賃貸住宅、高齢者向けの住宅、介護施設の費用目安を紹介します。
一般的な賃貸住宅
総務省統計局が公表している「住宅・土地統計調査(2018年)」によれば、家賃の全国平均は5万5,675円となっています。ただし、この金額はあくまで平均額なので、住宅のタイプや地域などによって差が出ます。
毎月支払える家賃の上限は各自の経済状況によって決まります。平均額を参考にしつつ、生活に無理な負担が生じない範囲の物件を検討しましょう。
サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者が暮らしやすいようにバリアフリー化されており、必要なサービスが備わっている賃貸住宅のことを指します。
有料老人ホームなどと比較すると、低額で入居できる施設が多いのがメリットです。ただし、どのようなサービスを受けるかによって費用は異なります。
LIFULL介護のサービス付き高齢者向け住宅の集計データ(2024年2月時点)によれば相場は、入居時の費用として20万円、月額費用は入居時の費用を支払った場合で17万2,000円、入居時の費用負担がない場合で15万3,000円となっています。
サービス付き高齢者向け住宅は大きく分けて、自立した人を対象とする「一般型」と、要介護・要支援の認定を受けた人を対象とする「介護型」があります。
サービス付き高齢者向け住宅の多くは一般型です。介護型の場合は介護サービスの費用がかかるため、一般型と比べると費用負担が大きくなります。
介護施設
自力での生活が困難な場合や、今後の暮らしに不安がある場合は、有料老人ホームなどの介護施設に入居することも検討しましょう。
LIFULL介護の有料老人ホームの集計データによれば、有料老人ホームの入居時費用の相場は660万円となっています。
月額費用については、入居時費用ありの場合で24万8,000円、入居時費用の負担がない場合は20万7,000円がひとつの目安です。
年金や貯蓄だけでまかなえるのか、家族としてどこまで金銭的にサポートできるのかといった点を踏まえて検討してみましょう。
高齢者が一人でも住みやすい地域の特徴
地域によって、暮らしやすさは大きく変わります。高齢になると体や生活面でさまざまな問題が出てくるので、住む場所は特に慎重に選びたいものです。
高齢者が住みやすい地域の特徴として、次のような点が挙げられます。
- 必要な医療、介護、福祉などのサービスがある
- 治安がいい
- 家賃が周辺地域と比べて安め
- 1年を通して気候が穏やか
- シニア向けのコミュニティがある など
暮らしの安全性や経済的な負担などに加えて、気候のよさや地域住民とのつながりといった点もポイントになってきます。
特に一人暮らしの場合は孤独感を抱きやすいため、参加しやすいシニア向けのコミュニティがあると、生活に楽しみが増えるでしょう。
すべての条件を満たす地域を探すのは難しくても、上記のような点を重視して住むエリアを選ぶことが大切です。
住まいを選ぶときの注意点
一人暮らしの高齢者の住まいを選ぶときは、生活のしやすさと経済面のバランスを考える必要があります。
長年住み慣れた場所から引越すのは精神的な負担が大きくなりやすいため、可能であれば、できるだけ地元から近い場所を選びましょう。
地域によって、高齢者向けのサービスや支援が充実しているところもあるので、各自治体がどのような体制を整えているかを確認しておくことも大事です。
そして何より、家族でコミュニケーションをしっかり取りながら、納得できる形で住まいを見つけていくことが大切だといえます。
記事のおさらい
賃貸物件に住み替える場合のポイントは?
バリアフリー化された物件や防犯設備が備わった物件を選びましょう。高気密・高断熱の住まいなら部屋ごとの寒暖差が少ないので、ヒートショックのリスクを抑えられます。また、高層階よりも低層階を選び、病院や商業施設などの近さもポイントです。そして、近くに親族がいる場所を選ぶとお互いの安心感が高まります。
高齢者にとって住みやすい地域の特徴とは?
医療や介護、福祉などのサービスが充実していて、家賃相場が低く、1年を通して気候が穏やかな地域がベストです。また、シニア向けのコミュニティがあると一人暮らしでも孤独感を抱きにくく、生活に楽しみが増えるでしょう。
監修者
神谷三理砂
一級建築士