がんの「常識」が変わった…「なるべく切らない」のに「転移・再発が少ない」最新手術の選び方

がん告知が「死の宣告」と恐れられた時代は終わり、がんとともに生きるのが令和の当たり前になった。ただし、より早く、よりラクに治すならコツも必要だ。ほんの少しの知識が、その分かれ目になる。

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治療法、こうして選べば間違いない

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がんを宣告されたら、患部だけでなく臓器をまるごと取ったり、体じゅうのリンパ節を切除したりと、大がかりな手術をしなければならないのではないかと、恐れている人も多いことだろう。

ところが、いまや消化管や肝臓・膵臓、前立腺といった場所のがんは内視鏡手術が主流となり、キズは最小限ですむ。また前章で紹介した小倉さんのように、ステージ4のいわゆる末期がんでも、放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせて治療することができる。かつてとは様変わりしているのだ。

「20年ほど前は『拡大手術』の全盛期で、たとえば食道がんだと『三領域郭清』といって、転移のおそれがある首・胸・お腹のリンパ節をすべて取るのがいい手術とされていました。しかし近年はいきなり切るのではなく、まず放射線や抗がん剤治療を選び、がんを小さくしてから切ることも増えています」(前出・宮下氏)

こうした事実が意味するのは、保険適用となる治療の範囲内だけでも、いまでは豊富ながん治療の選択肢があるということだ。前出の近藤医師も言う。

「日本は海外と違って医療保険制度がとても充実していますから、本当に効果のある治療はちゃんと保険適用になっていますし、先進医療も多少のタイムラグはあっても、その都度、標準治療に組み込まれています。日本人に最適化された治療は、自分にとっても最適である可能性が高いのです」

では具体的に、どんながんで、どんな治療を選ぶべきか。「ステージ」と「部位」を念頭において考えると、わかりやすい。

がんの「ステージ」とは何か

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そもそも、ステージとは何かをおさらいしよう。基本的には「がんの大きさ」と「転移の有無」で決まる指標で、世界共通のものだ。国立がん研究センター中央病院呼吸器内科外来医長を務める後藤悌氏が解説する。

「ステージ1は、がんが発生したところからどこにも散らばっていない状態で、基本的には手術で切除することになります。

ステージ2は、がんが少し周囲に散らばり始めている状態。手術の前に抗がん剤治療を行うこともあります。

ステージ3になると、がんが周りのリンパ節などにも転移しているため、手術をできるケースとできないケースがあります。多くの場合、抗がん剤・放射線と手術を組み合わせて、なるべくがんを小さくしてから切るといった治療を行います。

ステージ4は、がんが全身に広がっている状態で、原則として『完治』はしません。抗がん剤などでがんを小さく抑える治療が基本になります」

胃がん・食道がん・大腸がんでステージ1、またはその前段階のステージ0の場合、便利なのがESD・EMRという治療法だ。’06年に胃がん、’12年に早期の大腸がんで保険適用となった新技術で、内視鏡を口や肛門から入れて、がんを小さく切り取ったり焼き切ったりする。もちろん開腹する必要も、穴を開ける必要もない。

「かつては初期の胃がんでも、胃だけでなく周りの組織まで取っていました。すると、胃はある程度残っていても神経が失われて『停電状態』になり、機能が落ちてしまう。ESDやEMRはキズが最小限ですむので、すぐに治りますし、胃腸の機能にもほとんど影響しません」(前出・宮下氏)

がんとの「総力戦」に勝つ

「週刊現代」より

肺がんではステージ1でも手術で肺を切除することが多いが、こちらもキズを最小限にする手術が普及している。区域切除部分切除とよばれる、肺のごく一部だけを切り取る手法がすでに全体の3割を占め、かつ再発なしの5年生存率も約90%と非常に高いのだ。

さらに、場合によっては初期のがんでも放射線治療を選ぶことができる

「肺がんや肝臓がんなど多くのがんでは、早期発見ができれば放射線で腫瘍部位を焼くだけでもいいものもあります」(名古屋共立病院がん集学的治療外来担当医の岩田宏氏)

食道・胃・腸とひとつながりになっている消化管は「直列臓器」とよばれるいっぽう、ほかの臓器とつながっていない肺や肝臓は「並列臓器」とよばれる。後者のがんは放射線治療に向いているとされるから、もしなった場合は放射線治療も選択肢として考えよう。

ここまで見たような初期・早期のがんは、ほとんど「切らずに治す」こともできる。いっぽうステージ3・4のがんになると、手術・抗がん剤・放射線という標準治療の「三本柱」をすべて駆使して立ち向かうのが、昨今では当たり前の戦略だ。前出の宮下氏が言う。

「ステージ3・4になると原発部位(がんが最初に発生した場所)からほかの部位へ転移が起きているため、手術や放射線でがんをピンポイントで叩く治療と、抗がん剤でがんを小さくする治療を組み合わせると、より効果が高まります。

とくに、手術の前後に抗がん剤・放射線治療を行うことをネオアジュバント療法といいます。直腸がんなどでは、いきなり手術するよりも、抗がん剤治療をしたうえで手術をしたほうが、生存率が高くなると期待されています」

とりわけ難しいとされるのが、肝臓・胆道・膵臓、いわゆる「肝胆膵」のがん治療だ。【58歳で「膵臓がんステージ4」「余命半年」と言われて絶望…落語家を救った「主治医からのひと言」】では、さまざまな治療を組み合わせて困難を乗り越えた実例を紹介する。

「週刊現代」2024年2月17日号より