被災したのに保険金がおりない? 意外と知らない「地震保険」の基本をプロが徹底解説

不動産オーナーにとって「地震保険」は本当に必要?

今回の能登半島地震で被害が目立った地割れや、給水設備等の破損による水漏れは地震保険の対象となるのだろうか?

もしくは、所有物件が傾くなどして人が住めない状態になった場合、入居者の住居確保費用や家賃損失は、地震保険の補償対象となるのだろうか?

地震保険は火災保険よりも加入率が低く、火災保険とのちがいについてあまりよく知らないという人も多いかもしれない。

大家さん専門保険コーディネーターの斎藤慎治さんに、今こそ知っておきたい地震保険のポイントを聞いた。

火災保険と地震保険のちがい

―不動産オーナーの中には、地震保険には入っていないという人もいますが、そもそも火災保険と地震保険はどのようなちがいがあるのでしょうか?

まず、補償内容が大きく異なります。地震保険でしかカバーできない被害の代表例として、地震による建物の倒壊、および地震による火災、津波、それと噴火が挙げられます。これらの災害による建物の被害は火災保険の補償対象外となります。

東日本大震災をはじめ、全国各地で地震により大きな被害が相次いでいることを背景に、地震保険を付帯した人の割合は全国平均で69.4%(2022年度)と、過去最高を更新しました。

補償内容以外にもさまざまなちがいがあります。主なちがいを下の表にまとめておきます。

―今から地震保険に加入するには?

前提として、地震保険は火災保険に付帯する形でしか加入することができません。地震保険単独では加入できないということです。火災保険の契約と同時に地震保険を付けることもできますし、火災保険だけでスタートした場合でも後から地震保険を付けることもできます。

―保険金支払い方法のちがいは?

火災保険との大きなちがいとしては、火災保険は実際に修繕にかかった費用を補償する「実損払い」であるのに対し、地震保険は実際にかかる費用に関係なく、認定された損害の程度によって一定額が支払われる仕組みです。再建や修繕費用の全額を保険金で賄えるとは限らない点は、注意していただきたいです。

そもそも地震保険は火災保険の設定金額に対して30~50%の範囲でしか設定できません。例えば、火災保険の契約金額を1億円に設定した場合、地震保険は3000万~5000万円の範囲で設定することになります。

一方で、地震保険は火災保険に比べて保険料が高い傾向があります。建物構造や地域にもよりますが、目安として火災保険の2~4倍と考えておくとよいでしょう。

地割れ被害や家賃損失は補償される?

―所有物件が地震で被災した場合、建て替えや修繕に多額の費用がかかるケースもあるかと思います。地震保険金でどの程度まかなえると考えればよいのでしょうか?

先ほど述べたとおり、地震保険は火災保険とちがって「実損払い」ではありません。保険金支払いの対象となる損害の程度は「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4つに分類され、それぞれ保険金設定金額に対して支払い割合が決まっています。ですから、再建費用を全額まかなえるわけではありません。

地震保険の損害認定の分類

地震保険の保険金額は、火災保険の50%を上限に設定できますが、これを100として「全損」なら100%、「大半損」なら60%、「小半損」なら30%、「一部損」なら5%が支払われます。その中間はありません。なお、1戸あたりの地震保険金の限度額は建物5000万円、家財1000万円となっています。

―損害の割合はどのように決まるのですか?

損害の認定基準については、日本損害保険協会がさらに詳細な基準に定めています。この基準に沿って、鑑定人は現地で建物を目視などにより調査し、コンクリートの剥がれがあるのか、鉄筋が見えているのかなどをチェックしていきます。

そういった細かいところまでを見て、最終的に4分類のどれに該当するかを査定します。ですから、火災保険とちがって、実際にいくらかかるかという見積もりは不要なんですね。

―なるべく多く保険金を受け取るには?

このように、地震保険金は最大でも火災保険金の50%までしか支払われません。万が一に備えてそれ以上の補償を必要とする場合は、火災保険の特約で「地震火災費用保険金」というものがあります。

地震火災費用保険金の補償は、基本は火災保険金額の5%までですが、最大で50%まで引き上げることもでき、地震保険金と合わせて100%にできるケースもあります。また、保険会社によっては地震保険を100%までかけられる商品もありますが、いずれにしても保険料はかなり高額になるため、費用対効果を考えて決めるのがよいでしょう。

―実際に地震が起きて建物が被災した場合、どのような流れで保険金が支払われるのでしょうか?

原則として、鑑定人による現地の立ち会い調査が必要になります。地震から72時間以内に起きた損害は火災によるものなども地震関連の被害と認定されます。

今回の能登半島地震のように道路が寸断されるなどした場合、鑑定人が現地に入れないことも想定されます。そのような場合、壊滅的な被害があったことが明らかな地域については、鑑定人による調査なしで認定されるケースもあります。被災者への保険金の支払いは早ければ認定から1週間程度で行われます。

―今回の地震では、敷地の地割れなどが発生したにもかかわらず地震保険の対象とならなかったケースもあるそうです。地震保険の補償対象外となってしまうのはどのようなケースなのでしょうか?

地震保険は基本的に建物にかける保険ですので、実は土地の損害というのは対象外なんですね。例えば、建物は無傷だったけど、土地は半分崩れてしまったような場合です。

このような場合、地震保険では損害が認定されません。ただし、土地が崩れたり、地割れが起きたりしたことで、建物が傾くなどの被害があれば地震保険の対象となります。ちなみに、自治体が発行する「罹災証明書」の被害認定と、地震保険の損害の認定はまったく関係ありません。

地震保険では建築基準法に定める主要構造部(屋根、 外壁 柱、はり、基礎)のみが査定の対象となっています。例えば、外壁ではなくて屋内の間仕切り壁などは地震による被害があってもそもそも査定の対象外ですから、保険金が支払われません。

―給水設備が損傷して建物が水浸しになってしまったら?

同様に付属設備も対象外です。例えば、エアコンの室内機や給湯器、配管などですね。今回の地震でも配管が壊れて水漏れが発生したといった被害が多かったようですが、残念ながら地震保険では補償されません。

それから、居住用スペースがない物件は、そもそも地震保険に加入できません。例えば、すべてがオフィスですとか、店舗のような建物です。あと民泊も居住用ではないので、対象外です。

裏を返せば、一部でも居住用スペースがあれば建物全体が補償の対象になります。例えば、5階建ての建物の4階までが全部商業用のであったとしても、最上階に住む場所があればOKということです。

―今回の地震では所有するアパートが倒壊の危険があると認定され、全室退去を余儀なくされたオーナーもいました。このようなケースで、入居者の住居確保費用や家賃損失は地震保険で補償されるのでしょうか?

そういった費用は一切補償の対象になりません。繰り返しになりますが、地震保険はあくまでも建物の損傷に応じて一定額が支払われる仕組みなのです。

ただ、地震保険金は使途にはまったく制限がありませんので、建物の再建や修理以外の費用に充てるのは受け取った方の自由です。

再建ができそうにないとか、再建をする予定がない場合は、そういった入居者への支援に充ててもよいでしょう。再建を目指すのであれば、保険金を頭金に次のアパートローンを組む方法もあるでしょう。

もしくは、保険金を建物取り壊し費用に充てて、土地のみを売却するという話も聞きます。

賃貸業は保険によって地震のリスクをカバーできる数少ない業種だと言えます。町工場や店舗の場合は地震保険をかけることはできませんが、賃貸業は居住用のため保険をかけることができるのです。

地震保険料は火災保険の2倍以上

―地震保険は火災保険に比べて保険料が高いと聞きますが、実際どのくらいかかるのでしょうか?

地震保険料は、地域や建物構造、築年数などによって変わりますが、火災保険の2~4倍ほどになるケースがほとんどです。

先ほど述べたとおり、地震保険は最大でも火災保険の50%までしか保険金額を設定できませんが、保険金額が半分なのに保険料は2倍以上ということもあるんですね。つまり、火災保険と同額の保険金額に換算すると4倍以上ということになります。

地震保険料が高い要因の1つは、同時多発的に集中して被害が発生するためです。火災のように極めて狭い地域で起きる災害とは性質が違うわけですね。何でもかんでも保険金を払うということは難しいのです。

建物を直して住めるようにするというよりは、被災者の当面の生活の安定を図るものと位置づけられているので、ある意味「広く浅く」補償する形になっているのです。

―地震保険の保険料を少しでも安く抑えるには、どうしたらよいでしょうか?

地震保険には割引制度があり、最大で50%の割引が適用されます。50%の割引対象となるのは、耐震等級3の建物、もしくは「免震建築物」の基準に適合する建物です。

ほかにも建築年割引、耐震診断割引などがあり10~50%の割引となります。ただし、他の割引との併用はできません。

これらの割引は、比較的築年数の浅い建物が対象となりやすく、築古の建物ほど保険料は高くなります。

また、エリアによっても保険料が大きく異なります。下の図の通り、都道府県ごとに1~3等地までに分けられていて、3等地の保険料が最も高いです。

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3等地の中でも最も高いのは、東京、神奈川、静岡です。南海トラフ地震を想定をしてこの等地分けをしていますので、エリアによって保険料にかなり幅があります。

今回の能登半島地震の被災地域は比較的地震のリスクが低く、保険料も低い1等地となっていました。ただし、この区分も定期的に見直されていますので、現在は保険料が低いエリアでも今後は高くなる可能性もあります。

多くの建物が倒壊するなどした能登半島地震を受けて、関心が高まっている「地震保険」について、基本的なポイントをまとめた。

地震保険は、火災保険ではカバーできない損害が補償される一方、給水設備の損傷による水漏れや、被災したアパートで退去が発生した場合の家賃損失などでオーナーの負担が増えても保険がおりない。

どういった損害が地震保険で補償されるのか、万が一被災した場合に賃貸経営のリスクを地震保険でどの程度減らしたいのかなどを明確にしておくことが重要だ。