どこまでも納得できない、自民党パーティー券収入キックバックはなぜ脱税問題とされないのか?

パーティー券キックバックは、収支報告書記載義務違反の問題として捉えられている。しかし、税の問題も重要だ。政治資金が一般的に非課税とされるのは大問題だが、仮にそれを認めるとしても、キックバックは脱税問題として捉える必要がある。

キックバック問題には課税上の問題もある

自民党派閥のパーティー券キックバック問題は、政治資金に関してさまざまな問題があることを明らかにした。

imageby Gettyimages

検察が問題としているのは、政治資金規正法が課す政治資金収支報告書の記載義務に違反したことだ。確かに、それは大問題なのだが、多くの国民の心情的な怒りは、税の不公平に向けられているのではないだろうか?

われわれは税金を納めるために、こんなに苦労しているのに、政治家は巨額の収入を得ながら、税金を納める必要がない。いまは確定申告の時期であり、私を含めて多くの国民が、わずかな額の領収書を漏らさず集めようと、書類の山をを引っ掻き回している。しかしなぜ政治家は、われわれと桁違いの収入を得ても納税しなくてよいのか?

以下では、記載義務違反とは別に、課税上の問題があることを指摘したい。要点は、キックバック収入は政治資金ではないから、課税所得であるということだ。それを申告していなかったのなら、脱税になる。

選挙は非課税とされる

まず、政治資金一般の問題から始めることにする。

選挙に対する寄付は、贈与税の対象とならないこととされている(相続税法第21条ー3-6、「公職選挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し贈与により取得した金銭、物品その他の財産上の利益で同法第百八十九条〈選挙運動に関する収入及び支出の報告書の提出〉の規定による報告がなされたもの。」)。

私はこれに関しても100%納得しているわけではない。選挙が重要な活動であることは間違いないが、他にも公益上有益な活動は多々あるはずだからだ。非営利団体(NPO)の活動は非課税とされているが、NPO以外の主体によって行なわれている活動であっても、公益性の高いものがある。考えようによっては、大部分の活動は社会の成立のために不可欠なものだから、公益性があると言える。

ただし、これらの活動は、公益性の程度に差があることは事実だ。選挙が特別扱いされることに理由がないわけではない。

また、選挙活動を課税の対象とすると、国家権力が介入する危険があり、その結果、選挙結果が政権によって影響される危険があるとも指摘される。このため、選挙活動を非課税にするのは、外国でも行なわれていることだ。

だから、選挙活動を非課税にすることは、多くの人が認めるだろう。

政治活動なら、すべて非課税なのか?

ところが、選挙活動が非課税だからといって、すべての政治活動が非課税だということにはならない。

政治活動は、選挙に限らず一般に公益性の高い活動だから非課税なのだと言われることがある。しかし、前項で述べたように、公益性は、多くの活動について、程度の差はあれ、存在する。だから、政治活動一般が、課税上、他の活動とは全く異なる特別扱いされることを正当化するのは、難しいと思う。

まず、政治資金規制法は、政治団体が受けた寄付について公表することを義務づけているが、課税の扱いについては何も規定していない。

政治資金規制法は、1980年代のリクルート事件を契機として、1994年に改定された。政治家個人に対して寄付を行うことが禁止され、寄付は、政治団体に対して行うこととされ、それを収支報告書に記載して公表することが義務付けられた。この法律の目的は、政治資金の流れを透明化することなのである。

政治活動なら、すべて非課税なのか?

ところが、選挙活動が非課税だからといって、すべての政治活動が非課税だということにはならない。

政治活動は、選挙に限らず一般に公益性の高い活動だから非課税なのだと言われることがある。しかし、前項で述べたように、公益性は、多くの活動について、程度の差はあれ、存在する。だから、政治活動一般が、課税上、他の活動とは全く異なる特別扱いされることを正当化するのは、難しいと思う。

まず、政治資金規制法は、政治団体が受けた寄付について公表することを義務づけているが、課税の扱いについては何も規定していない。

政治資金規制法は、1980年代のリクルート事件を契機として、1994年に改定された。政治家個人に対して寄付を行うことが禁止され、寄付は、政治団体に対して行うこととされ、それを収支報告書に記載して公表することが義務付けられた。この法律の目的は、政治資金の流れを透明化することなのである。

キックバックは政治資金非課税問題とは別

ここで注意したいのは、いま問題になっているキックバック収入の課税上の問題は、以上で述べたのとは別の問題であることだ。

これは派閥の団体から政治に渡された資金であり、それを税務上どう扱うかは、パーティー券収入の問題とは、別の問題として考えるべき問題だと思う。

キックバック授受の実態は必ずしもはっきりしていないのだが、派閥から、「資金収支計算書に記載しなくてよい」と言われたとされている。

政治資金であれば記載する必要があるのだから、「記載しなくてよい」というのは、政治資金ではないと解釈せざるを得ない。だから当然、税務申告する必要がある(2023年2月24日公開「改めて問う、自民党パーティー券問題は、なぜ脱税問題にならないのか?」)。

繰り返すが、これは「政治資金は非課税か?」という問題とは別のものだ。そして、論理的に、上の解釈以外の解釈はありえないと思う。

「政策活動費」という巨大な問題

ところで、以上の議論の前に立ちはだかるものがある。それは、「政策活動費」だ。政党が国会議員に支出し、使途を報告する必要がない。領収書の添付義務も、精算や納税の義務もない。

総務省が2023年11月24日に公表した22年の各政党の報告書によると、党から渡された金額は、自民党の場合は14億1630万円だった(朝日新聞、1月13日「使途不明の『政策活動費』1年間で計16億円 自民が最多14億円」)。受取額が最多だったのは、茂木敏充幹事長で、計9億7150万円を1年で受け取っていた。

これが、今回のキックバックの弁明に使われているようだ。池田佳隆議員事務所は「政策活動費だと認識して収支報告書には記載しなかった」とコメントを出した。

しかし、 この釈明はおかしい。 なぜなら、政策活動費は政党からしか出せないものだからだ。しかも、池田議員は、証拠隠滅のためにデータを破壊した。政策活動費であれば、何のためにそんなことをしたのか? 

だから、言い訳にはならないとは思う。 ただし、 キックバック問題とは別の問題として、こうした制度があることを放置するわけにはいかない。しかも、各党は税金を原資とする政党交付金(政党助成金)を受けている。これは政策活動費には使われていないと説明されているが、金に色目はないので、無意味な説明だ。

革命は税に対する不満から~ただし日本を例外として

こうなってくると、確定申告のために、数百円、数千円の領収書を集めている私自身が、なんとも惨めに思えてくる……。

これだけ国民の関心が高まった問題だ。この機会に、政治資金の課税問題を、根本から考え直すべきだ。このままでうやむやに済ますわけにはいかない。

歴史の教科書には、「革命の多くは税に対する国民の不満から生じた」と書いてある。仮に日本人がいまの問題をうやむやに終わらせたとしたら、将来、歴史の教科書には次のように書かれることになるだろう。

「革命の多くは税に対する国民の不満から生じた。ただし、2024年における日本は例外であった」。