成人8人に1人が「腎臓病」 むくみで靴下のあと、指輪がきついの初期サインに要注意 透析患者は世界第2位

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 人工透析導入の原因となる慢性腎臓病(CKD)は、その多くが生活習慣病やメタボリックシンドロームを背景にして起こります。近年は高血圧から起こる腎硬化症によるものが増えています。CKDになりやすい人や早期発見の方法、治療法などについて、解説します。

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 本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。

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 透析患者数は右肩上がりに増えており、近年、増え方はなだらかになっているものの、2021年末の患者数は34万9700人で、前年から2029人増えています(日本透析医学会調査)。国民の358.9人に1人が透析患者となっており、この有病率は台湾に続いて世界第2位(2021年米国腎臓データシステム)、男性は女性の2倍と多く、患者の平均年齢は69.67歳で、ピークは男女とも70~74歳です。なお、10年以上の透析歴の人は27.5%に達しており、患者数の多さは透析を受けている患者の高齢化が最も大きな要因です。

腎臓病の初期症状「むくみ」に注意

 人工透析が必要になるのは腎機能が著しく低下したためです。腎臓は毛細血管が毛糸玉のようにからまった、糸球体の集まりです。糸球体は全身の血液を濾過(ろか)して尿を作り、からだの老廃物を排泄するとともに、必要な成分の再吸収をしています。

 腎臓はまた、血圧を維持するホルモン(レニン)や血液を作る造血ホルモン(エリスロポエチン)を産生しています。血圧を正常に維持したり、貧血を防いだり、カルシウムを吸収して骨を作るビタミンDを活性化する働きも担っています。

 このため、腎機能が低下すると水の排泄がうまくいかなくなり、むくみや高血圧、肺水腫が起こったり、老廃物の排泄ができなくなって尿毒症の症状(倦怠<けんたい>感、食欲低下、嘔吐<おうと>、意識障害)が起こったりします。また、造血ホルモンの産生ができなくなることによる貧血の症状(たちくらみ、息切れ)、ビタミンDが活性化しなくなることによる低カルシウム血症(筋肉のけいれんなど)なども出てきます。

 新百合ケ丘総合病院腎臓・透析内科総括部長の篠﨑倫哉医師によれば、こうした症状が出るのは腎機能の低下がかなり進んでからです。

「ただし、むくみは腎機能の低下がそれほど進んでいなくても、あらわれます。靴下のあとがついたり、指輪がきつくなったりしたら要注意です」(篠﨑医師)

 腎機能の低下を起こす病気には、急性のものと慢性のものがあります。急性の病気の代表は外傷や心不全による細菌感染がきっかけで起こる腎炎や、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)や降圧剤など薬剤によって起こる腎炎などです。発症から数日~数週間で急激に腎臓の機能が落ちるという特徴があります。

「慢性の病気はCKD(慢性腎臓病)として知られています。数カ月から数十年の長い年月をかけて腎臓の働きがゆっくりと悪くなる腎臓病で、日本では軽度のものも含めると、1330万人(20歳以上の成人の8人に1人)がいると推計され、新たな国民病ともいわれています」(篠﨑医師)

 日本透析医学会によれば、2021年度の透析導入者の原因疾患は1位「糖尿病性腎症」(39.6%)、2位「慢性糸球体腎炎」(24.6%)、3位「腎硬化症」(12.8%)、つまり、多くは生活習慣病が引き金なのです。

 糖尿病性腎症は糖尿病の合併症の一つです。血糖値が高い状態が続くことで糸球体の血管が傷つき、発症します。

 慢性糸球体腎炎は、糸球体に炎症が起こる腎臓病の総称で、約半数はIgA腎症です。血液中のたんぱく質の一種である免疫グロブリンの一種、IgAが糸球体に沈着することで、腎機能が低下します。原因は不明で小児から成人まであらゆる年代で起こります。

 腎硬化症は高血圧によって動脈硬化が進行し、糸球体が傷つくことで発症します。

「糖尿病性腎症による透析導入者の数は近年、横ばいで推移しています。慢性糸球体腎炎は年々、減少。一方で右肩上がりに増えているのが腎硬化症です」(篠﨑医師)

腎臓病の早期発見には必ず健康診断の受診を

 透析に至らないようにするためには、CKDを早期に見つけることが大事です。「そのためには、健康診断を受けるのが一番です」と篠﨑医師は言います。

「CKDはかなり進行するまで自覚症状に乏しく、早期の患者さんはそのほとんどが健康診断で見つかっています。自営業の人や高齢者は地域の特定健診を必ず受けてください」(篠﨑医師)

 CKDかどうかは尿検査と血液検査で診断します。

「糸球体が傷つき、濾過機能が低下すると、本来、排出されることのないたんぱく質や血液が尿に漏れ出てきます。このため、CKDになると尿検査でたんぱくが検出されたり、血尿が出たりすることがあります。たんぱく尿の明らかなサインとしては尿が泡立ち、なかなか消えない場合です。また、コーラのような褐色の尿は血尿の疑いが大きいです。このような場合は、躊躇(ちゅうちょ)せず、かかりつけ医などを受診しましょう」(篠﨑医師)

 また、CKDになるとからだの中に老廃物がたまり、これが血液中にも出てきます。血液検査では老廃物がどのくらいあるかの指標となる「クレアチニン値」をもとに腎臓の機能を算出し、「eGFR(推算糸球体濾過量)」(腎臓が1分間、1.73㎡あたり糸球体で濾過される血液量)として、下記のようにCKDの重症度別に6段階にあらわします。

90㍉リットル以上(G1・正常または高値)
89~60(G2・正常または軽度低下)
59~45(G3a・軽度~中等度低下)
44~30(G3b・中等度~高度低下)
29~15(G4・高度低下)
15未満(末期腎不全)

「G4になると人工透析を含む『腎代替療法』について考えてもらう段階です。ステージ6の末期腎不全になったら、導入を検討することになります」(篠﨑医師)

 ただし、健診はあくまでスクリーニングであり、病気の確定ではありません。健診で異常を指摘されたら、医療機関でさらに詳しく診てもらい、病気の有無と重症度を確定してもらいましょう。

 腎機能障害を早期に診断し、できるだけ早く治療を開始することが、将来の腎機能の低下を防いだり、進行を遅らせたりすることにつながります。

「クリニックでCKD・G3b以上と診断がついたら、腎臓内科の専門医に紹介されると思います。糖尿病ですでに通院している場合でも、急激な腎機能がある場合、別の病気が原因ということもあります。まずは専門医のもとで、原因を明らかにしてもらってください」(篠﨑医師)

 CKDの治療は、たんぱく制限や塩分制限など、食事療法を含む個々の患者に合わせた生活療法、薬物治療による血圧管理や血糖値の管理、貧血改善や脂質の管理などを総合的におこないます。

「血糖値や血圧のコントロールがいい人はCKDが進みにくいですが、中にはきちんと治療をしていても、腎機能低下のスピードが速い人もいます。これは原因となる病気の違いによります。こうしたこともあり、糖尿病や高血圧の人は通院している医療機関で定期的に腎機能をチェックしてもらうことが、安心につながります」(篠﨑医師)

いまの生活スタイルを維持しやすい「腹膜透析」という手段も

 CKDがさらに進み、人工透析を含む腎代替療法が必要といわれたら、どうすべきでしょうか。人工透析には透析クリニックに通院しておこなう血液透析(HD)、患者自身の腹膜を使い、在宅でおこなう腹膜透析(PD)があります。さらに腎移植という方法もあります。

「大事なのはどれか一つだけでなく、すべての療法に精通している病院で納得のいくまで話をよく聞き、より自分に合った方法を選ぶことです。また、いずれかを選んでも、生活環境の変化などに合わせて他の治療法に移行できることも知っておいてください」(篠﨑医師)

(取材・文/狩生聖子)

【取材した医師】

新百合ケ丘総合病院腎臓・透析内科総括部長 篠﨑倫哉医師


新百合ケ丘総合病院腎臓・透析内科総括部長 篠﨑倫哉医師