超カンタンに「字がうまくなる」古代中国の秘法「九宮格」ってナニ? 一日5分から始める「おとなの美文字」メソッド

いま、大人の「独学」が話題になっている。その中でも、手軽に取り組めるが、なかなか続かないのが「習字」ではないだろうか。
【定年後にいきなり「自分史」を書く人が気づかないこと…齋藤孝さんが教える「オトナの文章入門】に続いて、カンタンに美文字が身につく方法を学んでいこう。

恥ずかしくない「美文字」の書き方

おとなは「手書きの文字」を他人に見られる機会が多い。冠婚葬祭の芳名帳や、ご祝儀・不祝儀、折々の挨拶状に親戚やお世話になった人へのお礼状……。「いっそ代筆してもらえたら」と、誰もが一度ならず思ったことがあるだろう。

だが本来、文字を書くのは愉しく、心地よいことのはずだ。書道家で、日本書道美術院展覧会で最高の「春敬賞」受賞者の根岸和美氏が言う。

「文字を書くことへのコンプレックスは、巧拙を評価されることが怖いから生じます。しかし他人の目を気にせず、1日10分だけでもじっくりと文字を書いてみると、とても心が落ち着くものです。文字を書く行為には瞑想と同じく『マインドフルネス』(目の前のことに集中し、それによりリラックスする技法)の効果もあり、注目されています」

image
Photo by gettyimages

前述したように「おとなの独学」の真髄は「誰かのためでなく、自分のために学ぶ」ことにある。文字を書くことも同様に、まず「書くことの楽しさ」にふれることが大切だ。特別な道具も必要ない。

「定年後には毛筆で写経を始めたいという方も多いですが、手本や道具の準備がたいへんです。まずはペンで書くことを入り口に、1日5分、10分と時間を決めて取り組むのがいいでしょう。

万年筆や筆ペンを使うと味のある文字が書けますが、練習では書きやすさを優先して、100円均一のものでもいいので手になじむボールペンや鉛筆で始めてください。慣れてきたら、好きな筆記具を使うと、個性が際立って素敵です」

では、書き慣れたペンを手に取ったら、何をどう書けばいいのだろうか。ノートや白い紙にやみくもに書いても、美しい文字は身につかない。根岸氏が文字を教える際に使っているのは「九宮格」という技法だ。普通の漢字練習帳などはたいてい一マスが4つに仕切られているが、そうではなく、一マスを9つの部屋に分けるのである。

「書道発祥の地である中国で、古代から使われてきた手法です。マスを細かく分けることで、文字のバランスを意識しやすくなるので、初めて文字を書く子供たちでもかんたんに美しい文字が書けるようになります」

「ひらがな」こそがカギ

なにを書くかももちろん重要だ。もっとも簡単かつ効果的なのは、「ひらがな」を集中的に練習することだという。

「日本語の文章の6〜7割はひらがなで書かれていますから、ひらがなの書き方を工夫するだけで文字の印象はガラッと変わります。『いまさら、ひらがなの練習?』と思われるかもしれませんが、膨大な数の漢字に対してひらがなはわずか46文字だけです。毎日練習してもさほど時間を取りませんし、9マス練習の効果を実感できるでしょう。

たとえば『〈な〉(上の図を参照)は3画目と4画目に連続性があると美しい』とか『最後の結びの部分は三角形にすると整って見える』といったことに気づくと、ふだん文字を書くときにも、こうしたコツが蘇ってくるようになります」

もうひとつ、効果が高いのが、いちばん書く機会の多い「自分の名前」を練習することである。

「たとえば手紙を書くときにも、すべて手書きで美しく書こうとすると、疲れて書きたくなくなってしまいます。長い手紙を書くときは、文面はワープロやパソコンで書き、最後に丁寧に手書きで署名を入れ、ひとこと添えると印象が締まります」

大事なのは、毎日短時間でもいいから書き続けること。自信がついてきたら「ありがとう」「おつかれさま」というふうに、家族や身近な友人にごく短い「置き手紙」を書いてみるといい。

Photo by gettyimages

「気恥ずかしいかもしれませんが、練習の成果をまず見せるのは、気心の知れた相手がいちばん。ちょっとしたメモ書きなら気軽に書けますし、書いてもらったほうも喜んでくれます。なにより、書くことへの苦手意識を克服する励みになります」

書き慣れたひらがなや名前でも、心静かに練習し直せば新鮮な気持ちになり、自信がわいてくる。おとなが文字を学びなおすことは、新しい自分と出会うことにもつながるのだ。

「週刊現代」2024年1月13・20日合併号より