2024年度の年金額(見通し)は、将来世代のために実質目減り-年金額改定の仕組み・意義・注目点

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2024年度の年金額が2024年1月19日に公表される。本稿では、正式発表を理解するための準備として、年金額改定の仕組みと意義を確認し、注目点を考察する。

1―年金額改定の仕組みと意義

(1)全体像:実質価値の維持と健全化策で構成
現在の年金制度は、現役世代が負担する保険料(率)を据え置きつつ、将来の給付水準の低下を抑えるために年金財政を健全化している最中である。
このため、年金額の毎年度の見直し(改定)は、2つの要素から構成されている[図表1]。1つは、物価や賃金の変化に応じて年金額の価値を維持するという、年金額改定の本来的な意義の部分(本来の改定率)である。もう1つは、年金財政が健全化するまで加味される、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(マクロ経済スライド)である。

[図表1]年金額改定の全体像

(2)本来の改定率(実質価値の維持):物価変動と現役賃金の変動を反映
本来の改定率は、物価の変動率と賃金の変動率の組合せで決まる[図表2]。
物価の変動を早く年金額に反映するため、物価変動率には前年(1~12月)平均の消費者物価指数(総合)の上昇率が使われる。賃金変動率には、直近の物価変動を反映しつつ急変を避けるため、2~4年度前の実質賃金変動率を平均した値と前年の物価上昇率の合計が使われる。
そして、賃金変動率が物価変動率を上回る場合は、67歳以下は賃金変動率、68歳以上は物価変動率が本来の改定率となる。これは、受給開始直前の64歳までの世間の賃金変動を年金額に反映しつつ、大半の受給者の年金額の伸びを抑えて年金財政を健全化するためである。
他方、賃金変動率が物価変動率を下回る場合は、いずれの年齢でも賃金変動率が本来の改定率となる。これは、現役の賃金の伸びが物価の伸びを下回る状況で、年金受給者も現役世代と同じ痛みを分かち合うためである。

[図表2]本来の改定率の仕組み

(3)マクロ経済スライド(健全化策):少子化と長寿化の影響を吸収
マクロ経済スライドには、現役の加入者の減少率と受給者の余命の延び率が反映される[図表3]。少子化に伴う年金財政の収入減や長寿化に伴う支出増の影響を吸収することで健全化が進み、将来世代の給付水準の低下を抑えられる。ただし、本来の改定率がマイナスや小幅のプラスの場合には、受給者の生活や財産権に配慮して、マクロ経済スライドによる調整が制限される。

[図表3]マクロ経済スライドの仕組み

2―2024年度の見通しと注目点

(1)見通し:増額だが実質的には目減り
本稿執筆時点(2023年11月末)では、2024年度の年金額の改定率を+2.7%と見込んでいる。物価変動率が+3.2%となる一方で賃金変動率は+3.1%にとどまるため、本来の改定率は年齢を問わず+3.1%となる。マクロ経済スライドは、高齢就労の進展で加入者数に対する少子化の影響が緩和され、-0.4%となる。この結果、年金額は本来の改定率からマクロ経済スライドを差し引いた+2.7%で増額改定される。しかし、この改定率は物価や賃金の伸びに基づく本来の改定率(+3.1%)を下回るため、年金額の実質的な価値は前年度より目減りする。

(2)注目点:世代間の相互理解を期待
インフレが続く中、現役世代の賃金の伸びは物価の伸びに追いついていない。他方で、年金額は賃金の伸びからマクロ経済スライドを差し引いた値で改定されるため、高齢世代の収入は現役世代より実質的な目減りが大きくなる。
現役世代は、高齢世代が物価や賃金の伸びを下回る年金の伸びを受け入れることで将来の給付水準の低下が抑えられることに、思いをはせる必要があるだろう。
一方で高齢世代は、これまでの物価や賃金の伸びが低い状況では年金財政の健全化に必要な調整が制限され、将来の給付水準のさらなる低下につながっていたことを理解する必要があるだろう。
両者の相互理解の進展を期待したい。