東京に1発の小型核兵器で22万人が亡くなる 核使用時の被害と核戦争3つのリスク

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AERA 2024年1月1ー8日合併号より

 ガザ、ウクライナ、スーダン……。世界中で、戦争や紛争が起きている。核の脅威も高まる中、平和のため何をするべきか。2024年は、英知を結集しなければいけない。AERA 2024年1月1-8日合併号より。

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 核の脅威も高まっている。

 ウクライナに侵攻したロシアは「核の脅し」をちらつかせ、イスラエルでは閣僚がガザへの核兵器使用の可能性を「選択肢の一つだ」とする発言もした。

 1万2520発──。

 地球上に存在する核弾頭の数(推定)だ。23年6月、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA、レクナ)が公表した。最も多いのはロシアで5890発。次いでアメリカ(5244発)、中国(410発)と続く。

 前年比200発の減少となったが、RECNAの鈴木達治郎教授(核軍縮・不拡散政策)によれば、配備されいつでも使える「現役の核弾頭」はこの5年間で約300発増えたという。

「中国とロシアで最も増えています。2000年代に入りアメリカが通常兵器の拡大を進め、この脅威に対抗するため抑止力として核戦力を強化するようになっていきました」(鈴木教授)

 もしも核兵器が使われたらどうなるのか。RECNAは23年3月末、北東アジアで核兵器が使用された際の被害について、米韓のシンクタンクと共同で行った五つのシミュレーションを公表した。その結果、例えば、東京でテロが起きた時は1発の小型核兵器で22万人、米中が対立した時は両国合わせ24発の核が使用され260万人が亡くなるなどが明らかになった。

 鈴木教授は、「シミュレーションを通し三つのリスクが見えてきた」と話す。

「まず、意図せざる使用のリスクです。今回、核兵器が使用されうる30のケースを想定しましたが、その約半分は計画的ではなく偶発的、つまり意図しない結果、核兵器を使ってしまうケースでした」

 背景には「誤解とコミュニケーション不足がある」と言う。例えば、北朝鮮が戦争を始めるつもりはなく、アメリカの注意を引くため小型の核兵器を韓国の軍事基地に撃ち込む。ところが、アメリカは相手の意図がわからないうちに報復として北朝鮮に核兵器を使う──。この場合、最終的な犠牲者は4万人に上る可能性があるという。

 2番目のリスクは、核のターゲットは核保有国ではなく、近隣同盟国の米軍基地の可能性が高いということだ。最初に使う核は比較的小型の戦術核兵器になるが、そうするとターゲットは核大国ではなく、北東アジアではアメリカの「核の傘」の下にある日本や韓国の軍事基地が真っ先に狙われる、という。

「3番目は、戦争をこれ以上エスカレートさせないために核兵器を使うリスクです。今のロシアが最も近いと思います。しかしそれで戦争は終わらず、報復の連鎖により数時間、あるいは数日のうちに世界核戦争になる可能性があります」(鈴木教授)

「被爆の実相」を

 冷戦以降、今は核兵器を巡る緊張関係が最も高まっているといわれる。核の脅威をなくすには「何より、核兵器が非人道的な兵器だとわかってもらうことが重要」と鈴木教授は説く。

「核兵器が使われた時の影響を知らない人が世界にはまだ多くいます。『被爆の実相』という言葉がありますが、被爆した人の体験やその影響を伝えていくことが大事。日本は核兵器を使われた唯一の国として、『キノコ雲の下で起きたこと』を世界に伝えていくことが大切です」

 核兵器が存在し続ける以上、人類は深刻な危機に直面し続ける。「核なき世界」を実現するにはどうすればいいか。鈴木教授はこう提言する。

「核抑止を必要としない世界をつくる必要があります。すでに、南半球は核兵器の生産・保有を禁止する非核兵器地帯となっていますが、ヨーロッパや中東、北東アジアなどでは実現できていません。これらの地域にも非核兵器地帯の設立を目指し、核抑止は危険で依存すべきでないことを各国が認識していく。そうすれば、核兵器の廃絶は必ず実現します」

 そして今重要なのは、ただちに戦争を止めることだ。世界で起きている戦闘を止めるには何が必要か。AERAはネットで、この問いを投げかけた。

「双方に一切の支援をしないこと」(64、会社員男性)、「国連などの機関による、交渉や調停が必要だと思います」(35、会社員男性)など、さまざまな意見が寄せられた。

いい意味の「ノイズ」を

 フォトジャーナリストで、ガザへの取材経験もある安田菜津紀さんは、すべての戦争や紛争を止めるには「可視化」が必要だとして、そのためには「一にも二にも市民の力が重要」と強調する。

「フランスのマクロン大統領がイスラエルとハマスに『停戦』を呼びかける発言をしました。これは、どこからも何の声が上がらず成し得たことではないと思っています。ガザへの攻撃は非人道的だと思う人たちが声を上げ、可視化したからこそ、発言に繋がったのだと思います」

 ボイコットも、戦争を止める手段として有効だ。南アフリカが長年実施してきた、白人が黒人らを差別する「アパルトヘイト(人種隔離政策)」を廃止に追い込んだのは、国際社会が経済・文化・スポーツなどの分野で南アとの関係をボイコットし、圧力をかけたことが一因だった。

 ガザへの攻撃でも12月中旬、ドイツのスポーツ用品大手の「プーマ」が違法入植地のチームを含むイスラエルサッカー協会とのスポンサー契約を更新しないと発表した。SNSでは、イスラエルを支援する企業に対する不買を呼びかける声が拡大している。安田さんは言う。

「こうした、いい意味での『ノイズ』を出していくことが重要です。日本でも、デモや集会でイスラエルへの抗議の声を上げる人が増えています。その声が政治を動かし、戦争や紛争を止めることにつながります」

 和平への道も、核廃絶も簡単ではない。だが、24年は、そのための英知を結集する年としなければいけない。戦争で失われる命をなくすために。人類の歴史から戦争をなくすために。(編集部・野村昌二)

AERA 2024年1月1-8日合併号より抜粋