パーキンソン病の治療についてご存じですか? 完治は「望める・望めない」?

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パーキンソン病の名前は聞いたことがあっても、治療で完治するのか・しないのかは知らない人も多いのではないでしょうか? 結論としては「今のところ、確立された根治治療はありません」とのことですが、寿命を左右する病気ではなくなってきていると医療法人社団NALUの尾﨑先生(理事長)は話します。果たして、どういうことなのでしょうか。

尾﨑 聡

監修医師:
尾﨑 聡(えびな脳神経外科)

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編集部編集部

パーキンソン病は治るのですか?

尾﨑先生尾﨑先生

今のところ、確立された根治治療はありません。症状を軽くするための治療がおこなわれているのみで、難病にも分類されています。その一方で、治療の進歩により、寿命を左右する病気ではなくなりつつあります。むしろ、寝たきりになってからの合併症や感染症によって亡くなることの多い病気です。

編集部編集部

パーキンソン病は脳内物質の減少することで、各種運動障害が起こるという話ですが、補うことはできないのでしょうか?

尾﨑先生尾﨑先生

できます。薬で脳内物質を補う進め方が治療のメインです。また、脳内物質は自然に分解されていってしまうので、その流れをブロックする薬もあります。ほかにも、脳を電気刺激する方法や運動療法などが一部で試みられているものの、根本治療とは言えない印象です。

編集部編集部

日常生活で気をつける点はありますか?

尾﨑先生尾﨑先生

基本的に「ならない」予防という考えはなく、「進行」の予防がメインになります。運動、睡眠、食事、薬が基本です。例えば、運動障害によって筋力が低下して寝たきりになると、悪循環に陥ってしまいます。このような場合、リハビリの有効性が証明されています。また、「床に目印を置いた方が歩きやすく感じる」などの経験則が蓄積されていますので、専門家とタッグを組んで取り組むようにしましょう。

編集部編集部

取り組み方によっては、パーキンソン病の進行を遅らせることができるということですか?

尾﨑先生尾﨑先生

そうですね。正確に言うと、「パーキンソン病によって起こる生活しにくさを改善できる」ということになるでしょうか。運動障害が残ったままでも、「どうすれば階段を上りやすくなるか」などといったコツを覚えれば、生活しやすくなるはずです。こうすることにより、寝たきりへの悪循環が断ち切れます。

「パーキンソン病の前兆となる初期症状」はご存知ですか?医師が徹底解説!

「パーキンソン病の前兆となる初期症状」はご存知ですか?医師が徹底解説!

パーキンソン病の初期症状とは?Medical DOC監修医がパーキンソン病の初期症状・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

中川 龍太郎

監修医師:
中川 龍太郎(医療法人資生会 医員)

「パーキンソン病」とは?

パーキンソン病とは、脳の中の“中脳黒質”という部分にある神経細胞が減少し、ドーパミンという神経伝達物質が不足することで起こる神経変性疾患です。世界中で数百万人がこの病気に罹患しており、60歳以上の高齢者に多く見られますが、若年者にも発症することがあります。
症状としては、

  • ・無動(運動が遅く少なく緩やかになる)
  • ・静止時振戦(止まって安静にしている時に、手足や顔、首が小刻みに揺れること)
  • ・筋強剛(筋肉がこわばり関節が歯車のように引っかかって、滑らかに動かなくなる)
  • ・姿勢保持障害(安定した姿勢を保てず、すぐに倒れてしまう)
  • ・すくみ現象(足がすくんで滑らかに前に出ず、小刻みに、そして突進するように歩く)
  • などが代表的です。これらのような運動機能に関わる症状が中核ですが、非運動症状という運動機能とは別の症状(認知機能低下、感覚障害、自律神経障害など)も多く見られます。
    高齢化が進むにつれて増加傾向にあり、特に先進国での増加が顕著です。予後に関しては、現在の医療技術では完治は難しいものの、薬物療法やリハビリテーション、時には手術などにより、症状の進行を遅らせることや生活の質を向上させることが可能です。早期発見と適切な治療が、より良い生活を維持する鍵となります。
    それでは早期発見の鍵となる、パーキンソン病の初期症状について解説いたします。

    パーキンソン病の初期症状

    字が上手く書けない

    パーキンソン病の初期症状として、字が上手に書けない、字が小さくなる(小字症)、といった症状があります。これは進行すると“無動”につながりますが、そこまでに開始遅延(運動の開始が遅れる)、運動減少(運動自体が少なくなる)、動作緩慢(動作が遅くなる)という状態が経過します。これらの症状の初期として、腕や手を器用に動かすことが難しくなり、続いて歩行や寝返り、着替えなどの大きな動作で見られるようになります。
    このような症状に気づいた際は、早めに専門医を受診することが重要です。専門科は脳神経内科です。緊急性はないので日中に受診してください。

    手が震える

    初期症状として、手が震えるというものもあります。パーキンソン病に特徴的なのは、静止時振戦と言って、止まっている時に震えが出現して、何か動作をしているときは震えも止まる、というものです。
    実際に文字を書いたり箸を使うときは震えが消えたり軽くなったりするため、日常生活での影響は少ないこともあり、「年齢のせいかな」と見過ごされることもあります。
    この症状に気づいた際も早めに脳神経内科の医師の診察を受けましょう。緊急性はありません。

    気分障害

    パーキンソン病の代表的な症状は運動機能障害ですが、非運動障害も重要です。その中でもうつや不安といった気分障害は、パーキンソン病の発症初期からよく見られることが報告されています。そのほかにはアパシー(apathy:無感情、意欲が低下した状態)や、アンヘドニア(anhedonia :快感の消失、喜びが得られるような事象への興味消失)といった、幅広い気分障害も見られます。
    特別な出来事がなかったにも関わらず、元々の性格と打って変わって、無気力になっていくような様子が見られた際は、この気分障害を生じている可能性があります。
    認知症や他の疾患との鑑別も重要ですので、まずは医療機関で精査する必要があります。専門科は脳神経内科や精神科です。

    便秘

    パーキンソン病の非運動症状では、自律神経障害に関連する症状がよく見られます。起立性低血圧や排尿障害、性機能障害、発汗障害などがありますが、最も頻度が高いのが便秘です。パーキンソン病の発症前から発症初期に出現していることも多い症状です。
    パーキンソン病への治療と並行して、便秘そのものへの処置対応も重要です。ご自身でできる内容としては、食物繊維や水分の摂取量を増やすといったものがあります。
    これらのような一般的な便秘への対応を行っても便秘が改善しない場合は病院を受診しましょう。受診すべき診療科は一般内科、消化器内科です。仮に便秘の後にパーキンソン病を疑う症状が出てきた場合は、担当医に相談しましょう。

    レム睡眠行動障害

    パーキンソン病の非運動症状の中には、睡眠障害というものもあります。その名の通り、睡眠が十分に行えない訳ですが、その中でもパーキンソン病の初期から見られるのがレム睡眠行動障害です。
    睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、レム睡眠の時の夢を見るというのが基本です。このときは脳が比較的起きていて体が休んでいる状態と言われています。そのため健康な人の場合、レム睡眠中には筋肉が弛緩して(ゆるんで)動きません。
    しかし、レム睡眠行動障害ではこの筋肉を緩めるというシステムが障害されるため、夢の中での行動がそのまま現実の行動となって現れてしまいます。大声で寝言を言う、腕を上げて何かを探す、殴る、蹴るなどの激しい動きがみられます。これを夢の行動化と言います。
    ご自身でできる対処法はなく、また自分自身では気づきにくいため周囲の方が気付き、病院受診に繋ぐ必要があります。受診すべき診療科は精神科や心療内科、脳神経内科です。

    すぐに病院へ行くべき「パーキンソン病の初期症状」

    ここまではパーキンソン病の初期症状を紹介してきました。
    以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

    体重減少も見られる場合は、脳神経内科へ

    これまで紹介した症状に加えて、体重減少・痩せが見られる場合はすぐに脳神経内科を受診しましょう。もちろんパーキンソン病の非運動症状として体重減少はあるのですが、パーキンソン病以外の可能性も考える必要があるからです。具体的にはがんや自己免疫疾患、感染症があげられます。
    パーキンソン病の診断の際にはこれらの疾患の可能性も検討しながら、検査を勧めていく必要があるため専門医の受診が必要です。
    専門科は脳神経内科です。出来るだけ早めの日程で受診しましょう。

    受診・予防の目安となる「パーキンソン病の初期症状」のセルフチェック法
  • ・手の震えがある場合
  • ・筋肉の強ばりがある場合
  • ・字が上手く書けなくなった場合
  • パーキンソン病の初期症状を予防する方法

    残念ながら現在のところ、明確な予防法は判明していません。ここからは現時点で効果がある可能性を示唆されているものをご紹介します。

    コーヒー摂取

    最近複数の研究で、カフェインにパーキンソン病の予防効果が規定できる、ということがわかっています。カフェインには脳の神経細胞を保護する役割があるのですが、パーキンソン病患者ではカフェイン血中濃度が健常人の3分の1程度しかないことが判明しています。
    日常生活で気をつけるポイントとしては、コーヒーや緑茶などのカフェインを多く含むものを適量摂取するよう心がけることです。過量摂取しても効果が増えるわけではありませんので注意してください。

    定期的な運動習慣

    習慣的な運動によってパーキンソン病のリスクが低下する可能性が指摘されています。2023年のフランスの研究では、2000年からパーキンソン病でなかった9万人強の女性を平均17年追跡調査したところ、運動量の最も多い上位4分の1の群は下位4分の1の群に比べて、パーキンソン病の発症リスクが25%有意に低かった、という結果が出ています。これが運動習慣とパーキンソン病リスク低下の因果関係にはなっていませんが、パーキンソン病を予防する手段として可能性はあります。

    環境要因への配慮

    パーキンソン病発症のリスクを増加させる環境要因には、頭部外傷、殺虫剤への曝露、農村生活、井戸水の飲用などがあります。
    また殺虫剤パラコートは、外傷性脳損傷のある患者の場合、さらにパーキンソン病発症のリスクを増加させることが示されています。
    これらの原因の一つ一つがパーキンソン病のリスクを高めるのか、相互作用や遺伝的な関連も作用していくのか、詳細なところは不明です。ただ、できる限り避けておくことで発症リスクは減らせるかもしれません。

    「パーキンソン病の初期症状」についてよくある質問

    ここまでパーキンソン病の初期症状・予防法などを紹介しました。ここでは「パーキンソン病の初期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

    20代でパーキンソン病を発症した場合、どんな初期症状が現れますか?

    中川 龍太郎医師中川 龍太郎(医師)

    20代での発症は「若年性パーキンソン病」に該当しますが、これまで紹介した症状以外に特別な症状が出現することはありません。先述の通りです。

    編集部まとめ

    パーキンソン病の初期症状について解説しました。運動機能障害の症状は特徴的で気付きやすいものもありますが、非運動症状は他の疾患との区別も難しくなります。
    気になる症状が増えてきたら、一度医療機関を受診しましょう。

    「パーキンソン病の初期症状」と関連する病気

    「パーキンソン病の初期症状」と関連する病気は4個ほどあります。
    各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

    脳神経科の病気
  • パーキンソン病
  • 本態性振戦
  • 精神科の病気
  • 気分障害
  • レム睡眠行動障害
  • 消化器科の病気
  • 便秘
  • パーキンソン病の初期症状で見られる、もしくは関連する症状はこれだけあります。パーキンソン病に特徴的なものから、ありふれたものまで様々です。判断が難しいことも多いので、不安な場合は一度病院を受診してみましょう。

    「パーキンソン病の初期症状」と関連する症状

    「パーキンソン病の初期症状」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。
    各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

    関連する症状
  • 動作が緩やかになる
  • スムーズに歩けない
  • 小刻み歩行
  • 安静にじっとしていると震えてしまう
  • 便秘
  • 体重が減少する
  • 手の痙攣
  • パーキンソン病の初期症状として代表的なものはこの辺りになります。複数見られる場合は早めに医療機関を受診しましょう。早期介入が治療の鍵になります。

    参考文献

  • パーキンソン病診療ガイドライン2018(日本神経学会)
  • この記事の監修医師

    中川 龍太郎

    中川 龍太郎 医師(医療法人資生会 医員)

    監修記事一覧

    奈良県立医科大学卒業。臨床研修を経て、医療法人やわらぎ会、医療法人資生会南川医院に勤務。生活習慣病や肥満治療、予防医学、ヘルスメンテナンスに注力すると同時に、訪問診療にも従事している。日本プライマリ・ケア連合学会、日本在宅医療連合学会、日本旅行医学会の各会員。オンライン診療研修受講。