パートで月収10万円。厚生年金はいくら払い、いくらもらえるのか

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パートで月収10万円の人は、配偶者の扶養に入っており、自分で社会保険料を払っていないかもしれません。しかし、今後は月収10万円でも社会保険加入義務が生じるケースが増えます。
今回は、パートで月収10万円の人の厚生年金保険料の自己負担額や増える年金の額について説明します。社会保険加入のメリットについても知っておき、今後の働き方を考える参考にしてください。

そもそもパートで社会保険に入らないといけない人とは?

パートの場合、労働条件等で社会保険加入義務の有無が分かれます。労働日数・労働時間が正社員の概ね4分の3以上なら、勤務先で社会保険に入らなければなりません。

また、2023年12月の時点では、労働日数・時間が正社員の4分の3未満であっても、次の要件をみたす人に社会保険加入義務があります。

①従業員101人以上の会社に勤務
②1週間の所定労働時間が20時間以上
③雇用期間が2か月を超える見込み
④月額の賃金が8.8万円以上
⑤学生ではない

パートでも1か月の収入が8.8万円を超えると勤務先で社会保険に入らなければならないケースがあります。月収8.8万円は年収約106万円となるため、「106万円の壁」と呼ばれます。

配偶者がいるパートの人が扶養に入れない場合とは?

配偶者がいる人の場合には、国民年金の第3号被保険者として配偶者の扶養に入る選択肢があります。第3号被保険者となれば、国民年金保険料の納付義務がなくなります。健康保険についても配偶者の被扶養者となれるため、自分で勤務先の健康保険や国民健康保険に入る必要がありません。社会保険料の負担がなければ、その分手取りも多くなります。

ただし、配偶者の被扶養者となるには、年収130万円未満という要件があります。年収が130万円以上になると、配偶者の扶養には入れません。自分で勤務先の社会保険か国民年金・国民健康保険に入る必要があります。これは「130万円の壁」とも呼ばれます。

今後はパートも社会保険が当たり前の時代に

社会保険に加入すれば、社会保険料の負担が発生し、社会保険料が給料から天引きされます。手取りを減らしたくないという理由で勤務時間を抑えているパートの人も多いのではないでしょうか?

しかし、パートの社会保険適用は今後さらに拡大される予定です。2024年10月以降は、上記「106万円の壁」の要件①の適用事業所の従業員数が「51人以上」となることが既に決まっています。

さらに、従業員数の要件はいずれ撤廃される見込みで、新たに60万人が社会保険適用対象になるとも言われています。そのうえ、政府は労働時間20時間未満の労働者への社会保険適用拡大も検討しているのです。

今後はパートであっても当然に社会保険に入らないといけなくなるでしょう。そうなると、手取りを減らしたくないという理由で短時間勤務を選ぶ意味もなくなってしまいます。

社会保険加入で手取りはどれくらいになる?

ここで、パートで月収10万円の人が社会保険に加入するとどれくらい手取りが減るのか確認しておきましょう。40代、東京都在住で協会けんぽの健康保険に加入するものと仮定します(以下、数字は2023年度(令和5年度)を基準として計算)。

月収10万円の場合、社会保険料計算の基準となる標準報酬月額は9万8000円です。この場合、健康保険料(介護保険料含む)の自己負担額は5792円、厚生年金保険料の自己負担額は8967円なので、社会保険料の合計は1万4759円となります。手取り額は10万円から1万4759円を引いた8万5241円です。

社会保険加入のメリットとは?

月収10万円でも、社会保険に入ると、毎月の手取りが1万円以上減ってしまいます。使えるお金が減ってしまうデメリットにばかり注目しがちですが、社会保険に加入することにはメリットもたくさんあります。

社会保険加入のいちばん大きなメリットは、老後にもらえる厚生年金が増えることです。たとえば、月収10万円のパートの人が20年間厚生年金に加入したと仮定し、年金額がどれくらい増えるかをみてみましょう。他に厚生年金加入歴はないものとします。

厚生年金の報酬比例部分は、2003年(平成15年)4月以降の加入期間については、「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」で算出します。月収10万円(標準報酬月額9万8000円)の場合、

9万8000円×5.481/1000×1か月=537.138

となり、報酬比例部分は1か月につき537.138円、1年で約6446円増えることになります。

同じ収入で20年間厚生年金に加入したとすると、受け取れる老齢厚生年金は約12万9000円。老齢基礎年金の満額79万5000円と合わせると年金額は92万4000円、月額7万7000円となります。老齢基礎年金だけの場合と比べて月約1万円年金が増え、一生涯増えた年金を継続してもらえます。

厚生年金に加入すれば、老齢年金だけではなく、障害年金や遺族年金も増えます。公的な保険で万一の場合に備えられる安心感も大きいはずです。収入が増えるほど、年金の額は増えます。パートも社会保険加入が避けられないなら、今後は可能な限り収入を増やした方がよいのではないでしょうか?

自分で健康保険に加入することにもメリットがあります。健康保険に入っていれば、病気やケガで3日以上継続して仕事を休んだときに、傷病手当金を最長1年6か月受け取れます。出産時には出産手当金ももらえます。こうしたメリットも知ったうえで、社会保険に加入するかどうか検討しましょう。

「年収の壁対策・支援強化パッケージ」で当面は手取りが減らない

社会保険加入にメリットがあるとはいえ、やはり急に手取りが減るのは困るという人は多いでしょう。パート・アルバイトの人が「106万円の壁」や「130万円の壁」を超えても手取りが減らないようにするため、政府は2023年(令和5年)10月、「年収の壁対策・支援強化パッケージ」を開始しました。

「年収の壁対策・支援強化パッケージ」とは、次のような内容です。

・労働者が「106万円の壁」を超えて社会保険料を負担するようになった場合、事業主にその負担を穴埋めする手当を支給することを奨励(手当支給等の取り組みをした事業主に助成金を支給)
・労働者が「130万円の壁」を超えたとしても、一時的な収入増加である旨の事業主の証明があれば、引き続き2年まで扶養に入れるようにする

「年収の壁対策・支援強化パッケージ」は、2025年度(令和7年度)末までの約2年間実施されることになっています。当面の間は、年収の壁を超えても手取りを減らさずにすむでしょう。

第3号被保険者は廃止される可能性も

「年収の壁対策・支援強化パッケージ」が終了する2025年(令和7年)以降には、第3号被保険者制度が抜本的に見直しされる見込みです。

第3号被保険者は、国民年金保険料を納付しなくても老齢基礎年金をもらえます。ずっと第1号被保険者として保険料を払ってきた人と同額の年金をもらえることから、不公平であるという声が大きくなっているのです。

また、第3号被保険者のうち4~5割程度がパート等で働いており、就業調整している人が多いことが推測されます。労働力不足を解消し、社会保障費を確保するために、国は第3号被保険者の廃止を検討しているのです。これから先は、手取りを気にせず働くことを考えた方がよいでしょう。

扶養内に抑えるより働いて収入を増やそう

今配偶者の扶養に入っているパートの人も、いずれ社会保険に入らなければならない可能性が出てきます。第3号被保険者制度自体が廃止される可能性もあります。
今後は勤務時間を減らして扶養内に抑えるよりも、できるだけ働いて収入を増やすのがおすすめです。