失神、痛風、急性腎不全…健康を損ねる「サウナのNG行為」一覧〈正しい「ととのい」で心筋梗塞、うつ病、認知症のリスク大幅減〉〈高齢、持病持ちでも楽しむ方法〉

熱いサウナ室を出て、キンキンの水風呂に浸かったあとに横たわっていると、地面に吸い込まれるような快感に襲われる。これって麻薬のようで危険なのでは?いいえ、むしろそれが体に良いんです。

前編記事『「体への負担が大きいはず」「いや体調が良くなった」…『サウナは健康に良いのか』論争に終止符を打つ最新「科学的根拠」』より続く。

サウナが持つ驚異の健康効果

先に見たように「ととのいタイム」は水風呂から出て2分と限られている。時間を無駄にしないよう、外気浴スペースまでは10秒以内で移動する。

外気浴では椅子に座るか、スペースがあれば横になる。水風呂で冷えた体の末端にも血液が流れやすくなるからだ。ラクな姿勢で5~10分、体の末端が少し冷たく感じるまで休憩する。

この「サウナ室→水風呂→外気浴」の流れを2~3セット繰り返す。回を追うごとに深部体温が上がっていき、ストレスで傷ついた体の組織が修復されていく。

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こうして「正しくととのう」ことで得られるサウナの健康効果は、目を見張るものがある。アメリカの「メイヨー・クリニック」が、’18年に驚くべき論文を発表している。

「心筋梗塞のリスクが52%減、うつ病を主とする精神疾患のリスクが77%減、認知症のリスクが66%減、アルツハイマーのリスクが65%減」

週に1回しかサウナに入らない人と複数回入る人を比較したところ、このような結果が出たのだ。

まず心筋梗塞の予防効果について。サウナ後は血管の弾力性が12%回復することがわかっている。

「サウナで血管が柔らかくなる理由は明らかになっていませんが、私は、自律神経が活発化することで、血管のエクササイズが行われていると考えています」(加藤氏)

サウナのNG行為

うつ病の改善は、脳血流が関係している。

「サウナに入ると、脳の血流が少し低下するという実験結果があります。脳が働きにくい状態で、思考を強制的に停止できる。脳のエネルギー消費量が減り、気持ちがラクになるのです」(同前)

サウナに入るだけで認知症のリスクが減るなどにわかには信じがたいが、これにもエビデンスがある。サウナに入ると、深い睡眠である「ノンレム睡眠」の時間が約2倍に延長する。

「’19年に科学誌『サイエンス』に発表された論文によると、ノンレム睡眠時に脳細胞が一斉に休み、脳の老廃物が大量に洗い流されます。これにより、認知症のリスクが大幅に低下するのです」(同前)

この他にも、温熱効果によって筋肉が柔らかくなり、肩こりや腰痛が和らいだり、自律神経の機能が改善することで、冷え性が治ったりすることがわかっている。

実に多くの健康効果があるサウナだが、入り方をひとつ間違えると健康を害することもある。

一番注意しなければならないのが、水分を摂取せずに、サウナに入り続けることだ。ウチカラクリニック代表の森勇磨医師が警鐘を鳴らす。

「水分を摂らないでいると、血液が濃縮され、血管が詰まって、脳梗塞等に見舞われるかもしれません。また血液中の尿酸濃度が上昇し、尿酸の結晶ができやすくなり、痛風発作につながる恐れがある。

さらに脱水症状で尿が濃くなり、尿路結石が生じる可能性が高まります。極端な脱水症状が進めば、急性腎不全を引き起こす恐れもあります。1セット毎に水を飲むなど、こまめに水分補給をしましょう」

水風呂に入る際も注意が必要だ。いきなり顔に冷水をかけるのはNG。

「迷走神経反射が起こり、失神、転倒のリスクがあります」(森氏)

冷水は足など心臓に遠いところからかけていき、徐々に慣らしていこう。

飲酒後や満腹時のサウナも危険だ。

「汗をかいてもアルコールは抜けないうえ、水分が吸収されづらく、脱水症状に陥る可能性があります。またサウナに入ると血液が腸管から皮膚のほうに集まり、消化不良が起こります」(加藤氏)

「低温サウナ」という手段も

高血圧や糖尿病、心筋梗塞などの既往歴がある人は、主治医と相談のうえで入ったほうがいい。しかし、高齢になると誰もが何かしらの持病があるもの。そんな人たちにおすすめしたいのが、低温サウナだ。室温が60℃前後に保たれたサウナのことで、この低温サウナを利用した「和温療法」は、保険適用もされている。

医療機関で行われる和温療法は、室温が60℃で保たれた乾式の遠赤外線サウナで15分間全身を温めた後、ソファに横たわり全身を毛布で包んで保温した状態で30分間安静に過ごし、水分を補給するという治療法だ。

和温療法研究所所長の忠和医師が説明する。

「和温療法は、重症心不全などで、運動ができない患者さんも、気持ちよく体を温めるだけで血流量を増やし、体調を改善できる画期的な治療法です」

高齢で、高温のサウナは体への負担が心配だという人は、低温サウナで和温療法を真似るとよい。大型の温浴施設であれば、60℃程度のサウナが設置されているところは多い。サウナ室を出たら、水風呂には入らず、タオルや毛布、バスローブなどを使い、しっかり保温する。自己流でも効果は十分だ。

紀元前5世紀、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスが著した『歴史』にも登場するサウナは、古くて新しい予防医療なのだ。

「週刊現代」2023111118日合併号より