トヨタ純利益過去最高の3.9兆円にみる、「次世代自動車」の本命とは? 日本を“エネルギー強国”にするための8策を提言する

エネルギー転換での出遅れは、トヨタだけでなく日本全体の問題だ。日本が化石燃料の省エネ・環境技術で世界トップに立っていることが、再生可能エネルギーへの転換を遅らせる要因になっている面もある。

トヨタに潜む長期課題

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2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

 トヨタ自動車は11月1日、中間決算を発表すると同時に、通期(2024年3月期)の連結純利益見通しを前期比61%増の3兆9500億円に上方修正した。2022年3月期の最高益(2兆8501億円)を1兆円以上、上回る見通しである。

 円安の追い風を受けているが、それだけではない。長年にわたって取り組んできた

・原価低減
・グローバル販売拡大の努力

が、円安の追い風を受けて実を結んだ形だ。

 文句なしの好業績を発表したトヨタだが、中長期の課題は道半ばである。特に、次世代自動車の最有力候補と考えられている電気自動車(EV)の販売台数で、

・テスラ(米)
・比亜迪(BYD、中国)

に大きく後れを取っていることが問題だ。

全固体電池、トヨタの成功が鍵

トヨタの連結純利益推移:2021年3月期~2024年3月期(会社予想)トヨタ決算資料より作成(画像:窪田真之)トヨタの連結純利益推移:2021年3月期~2024年3月期(会社予想)トヨタ決算資料より作成(画像:窪田真之)

 次世代自動車でトヨタが大逆転して世界トップに躍り出ることは可能だろうか。そこには、ふたつの可能性がある。

・燃料電池車(FCV、水素エネルギー車)が世界標準になればトヨタにも勝機がある
・トヨタが全固体電池EVの実用化にいち早く成功すればEVの勢力図が変わる

 トヨタは、FCV「MIRAI」の開発実用化で世界トップを走っている。ただし、

・生産コストが高い
・水素流通インフラがない

ことから、次世代自動車としてEVに対抗する存在とは見られていない。

 ただし将来、水素インフラの整備が進み、量産による低コスト化が進めば、EVを超える人気を得るポテンシャルはある。EVと比べて、

・燃料充填時間が短い
・大きなパワーを出せる

ことが、水素エネルギー車の魅力です。既存のガソリンステーションを水素ステーションとして活用することができるかが鍵となる。

 ただ、世界各国ともEVを次世代車と決めて注力しており、水素エネルギー車普及に積極的に取り組まない可能性がある。水素ステーションの整備が進まなければ、FCVの普及も進まない。次世代車はあくまでもEVで、FCVは大きなパワーが必要とされる大型トラックやバスなどで限定的に使われるだけかもしれない。

 それでは、トヨタはEVでテスラやBYDに近づくことはできるだろうか。命運をわけるのは、

「EV用全固体電池の開発成否」

だ。EVの致命的欠陥として充電時間が長いことがある。ガソリン車のように、日中短時間で燃料補填することができない。この欠点を補うものとして期待されているのが、トヨタが開発で先行するEV用全固体電池だ。

 開発に成功すれば、ガソリン車の給油と同様に、短時間で充電が可能になる。トヨタがいち早く実用化に成功すれば、短時間で大きなエネルギーを充填できるようになる全固体電池EVが、

「EVの世界標準」

になると考えられる。

 以上、トヨタ巻き返しにつながるふたつの可能性に期待されるものの、現時点では上記ふたつとも実現の可能性が高いとはいえない。現時点で、トヨタが新エネルギー車への転換で出遅れていることが、トヨタにとって重大なリスクなのだ。

送配電ネットワークの課題

送電線(画像:写真AC)送電線(画像:写真AC)

 エネルギー転換での出遅れは、トヨタだけでなく日本全体の問題だ。日本が化石燃料の省エネ・環境技術で世界トップに立っていることが、再生可能エネルギーへの転換を遅らせる要因になっている面もある。

 1970年代のオイルショックを省エネとコストカットで乗り越えて以降、日本は常に

「省エネ・環境技術」

で世界トップクラスの地位を維持してきた。ところが今、世界中の国々が取り組む「脱炭素・新エネルギーへの転換」では出遅れている。その根本原因として、ふたつの問題がある。

●送配電ネットワークが全国10電力会社に分断されている問題
 再生可能エネルギーは出力が不安定であるため、依存度が高まると、出力が急低下したときに大規模停電を起こすリスクが高まる。それを防ぐためには、再生エネ発電量の増減に合わせて機動的に発電量を増減できる調整電源が必要だ。現時点で、その役割を果たせるのはガス火力発電しかない。

 出力変動にともなう電力需給調整は、広域で行うほど効率的である。日本全国をひとつの送配電ネットワークに統合し、そのなかで需給調整すれば効率的な調整が可能だ。ところが、日本の送配電ネットワークは現在、10電力会社に細かく分断されていて、狭い地域内で需給調整しなければならない問題がある。

 そのため、需給変動に対応しきれない電力会社が、大きく増えたメガソーラーの電気の買い取りを拒否する問題が起こっている。買い取り拒否によってメガソーラーの収益は悪化し、日本全体で再生可能エネルギーへの転換を遅らせる要因となっている。

●再生可能エネルギーの環境問題、小規模事業者の増加
 持続可能なエネルギー循環社会を作るために進める自然エネルギーの活用だが、皮肉なことに、必ず環境問題に突き当たる。メガソーラーでは森林など環境破壊をめぐり近隣住民とのトラブルが絶えない。風力発電には、重低音公害の問題があり、洋上風力も漁業資源への影響が心配される。地熱発電は、温泉資源への影響を懸念する温泉業界から反対を受けている。

 自然エネルギーで発電する地域には過疎地が選ばれることが多いが、それでも人がまったく住んでいない場所はない。自然エネルギーの活用は、常に環境問題をクリアしながら進めることが求められる。

 その結果、日本の再生可能エネルギーには小規模事業者が多くなり、規模を生かしたコスト削減ができなくなっているのだ。

日本を“エネルギー強国”にする八策

再生可能エネルギーのイメージ(画像:写真AC)再生可能エネルギーのイメージ(画像:写真AC)

 出遅れを取り戻し、再生可能エネルギーで日本が世界をリードするために、筆者(窪田真之、ストラテジスト)は「日本をエネルギー強国にする八策」として、次の八つの政策が必要と考えている。

1.電力再編:送配電は全国2社に統合
2.太陽光・風力大規模化:居住地域と発電地域を分断
3.液化天然ガス(LNG)火力拡大(脱炭素第1段階):再生エネ拡大に必要な調整電源
4.原発の活用(脱炭素第1段階):安全基準順守
5.地熱発電拡大:三大地熱資源国のメリットを生かす
6.高温岩体発電の開発継続:成功すれば恒久電源となる可能性
7.水素流通インフラ構築(脱炭素第2段階):グリーン水素の世界的流通可能に
8.水素エネルギー循環確立(脱炭素第2段階):水素発電・水素製鉄実用化、水素エネルギー車普及へ

 上記八策のうち、喫緊の課題として重要な第1策「電力再編:送配電は全国2社に統合」について解説しよう。

 電力自由化は、既存の電力会社を

・発電
・電力小売り
・送電
・配電

の4事業に分割し、新規参入を進めることで完成したこととなっている。分割して競争を促進することだけを考えた自由化だったため、致命的な問題が残っているのだ。最大の問題は、送配電ネットワークを統合して

「電力需給の調整を効率化する視点」

がなかったことである。

 発電と電力小売りで競争を促進することは必要だった。ただし、送配電は逆に完全な独占状態をつくり出すことで電力供給の安定性と効率性を担保すべきだ。日本では東西で周波数が異なる問題があるので、取りあえず周波数の異なる東西2社に統合することを急ぐべきと提言する。

 電力自由化で参考にすべきは、通信の自由化だ。NTTを分割民営化して競争を促進したが、短距離通信網は東西NTTに独占させている。通信ネットワークと電力ネットワークでは、質的に異なる部分が多いが、ひとつ重要な共通点がある。それは、

「全国細切れのネットワークでは効率が悪い」

ことだ。

 通信を利用するビジネスでは、網の目のように張り巡らされたNTTの短距離固定通信網が生命線となる。この短距離網を利用しないことには、携帯電話もいかなるインターネットサービスも行うことができない。

 その短距離網は、NTT東日本とNTT西日本の2社に事実上、独占されている。短距離網の運営会社が、電力産業のように全国に10社もあったら、ネットワークの運営が極めて非効率になるからだ。そうならないように、旧電電公社の分割民営化の際に、短距離網の運営は2社に集約した。独占の弊害は生じていない。NTTは、短距離通信網を安価に利用開放する義務を負っているからだ。

 電力業界も同じ改革を早急に実施する必要がある。電力ネットワークは、周波数の異なる全国2社に統合されるべきである。そうすることで、電力ネットワークがより効率的に運用され、需給が安定し、再生可能エネルギーの導入が拡大するはずだ。