ソフトバンク孫正義会長が「10年以内に実現」と明言…“まるで人間”の人工知能「AGI」とは

image

(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年10月4日、ソフトバンクグループの孫正義会長が都内で行われたイベントにて「10年以内に実現する」と明言した「AGI」。我々の生活を豊かにしているAI(人工知能)がより進化し、すべての産業に影響を与えるようになると、いま米国を中心に注目が集まっています。そんなAGIの特徴や従来のAIとの違い、AGIが活用されうる具体的な分野について、株式会社GeNEE代表取締役社長の日向野卓也氏が解説します。

従来のAIに比べ“より人間に近い”「AGI」

AGI (Artificial Capable Intelligence;汎用人工知能)とはAI(Artificial Intelligence;人工知能)の一種で、人間が持っているような幅広い知識と学習能力が備わった人口知能のことを指します。

あらかじめプログラムされたデータから特定のタスクに対応する従来のAIとは異なり、さまざまなタスクを実行できる柔軟性があることが強みです。

AGIには、次の3つの特徴があります。

1.学習能力と適応能力が高い

AGIは、新しい情報を素早く学習する能力と、変化する環境に適応する能力を持っています。これにより、未体験の課題に対する効果的な解決策を迅速に生み出すことができるとされています。

2.汎用性が高い

AGIは、さまざまな分野のタスクを効果的に実行することができます。そのため、製造業から医療まで、どの業界でもその能力を活かすことができ、その分野特有の問題の解決や価値創出が可能です。

3.自律的思考と判断が可能

AGIは、人間と同じように、自分で考えて判断する能力があります。人の介入なしに迅速かつ効果的に仕事を進めることができるため、人間の労働時間を短縮することを可能にします。

AIとAGIはなにが違う?

従来のAIは特定のタスクに焦点を当てて設計されていますが、AGIは任意のタスクを理解し実行できる能力を持っています。AIはあらかじめ大量のデータと明確な指示が必要ですが、AGIは少ないデータからでも学習し、人間のように論理的に思考することができます。

つまり、AGIは複数のタスクを瞬時にさばいて、そのなかで得られた数少ない情報からでも解決策を見つけ、必要なことを実行できるのです。

ASIは「大学教授」、ACIは「専門家」、AGIは「主婦(主夫)」

AGIと似た概念に、ASI(Artificial Superintelligence;超人工知能)とACI(Artificial Capable Intelligence;特化型人工知能)があります。ASIは人間を超える知能を持ち、ACIは特定の分野で非常に高いパフォーマンスを発揮します。

それぞれの特性は、たとえるなら次のようになります。ASIは、“大学教授や研究者”のよう。蓄積された経験と知識から、現在の知識を超えた洞察やアドバイスを提供する能力を持ちます。ACIは、料理の達人やDIYのエキスパートといった“専門家や技術者”のよう。特定分野での高度な技術や知識を持ち、その領域での極めて高いパフォーマンスを発揮します。

対してAGIは、“家庭の主婦(または主夫)”のよう。日常のあらゆる場面でさまざまなタスクをこなす能力を持ちます。

AGIが持つ「3つ」の可能性

1.革新的なテクノロジーを生み出す

AGIは、人間では困難な問題や課題に対しても自分で判断し効果的に取り組むことができるため、革新的なテクノロジーを生み出す可能性があります。

たとえば、未解決の科学的な問題に対してAGIが新しい視点やアイデアを提供すれば、ブレイクスルーが起き、新しい発見や進歩をもたらすことができるでしょう。

2.既存の社会システムや産業に影響を与える

AGIがさらに進化すれば、世界中の社会や産業に大きな変化をもたらすかもしれません。

特に、日本のように少子高齢化によって労働力不足が深刻化している国では、AGIが多くの仕事やタスクをサポートすることで労働力が補填され、新しい仕事やビジネススタイルが形成される可能性があります。

3.業務品質の向上と効率化を叶える

人間なら誰しもミスをしてしまいますが、AGIがデータ分析や意思決定を迅速にサポートすることでヒューマンエラーを減らし、業務の効率化と品質向上を実現させることができます。

企業側は競争力を高めることができ、消費者側も安心・安全にサービスや商品を享受できるようになります。

治療法の提案、研究の“ひらめき”をサポート…AGIが叶える未来

AGIは、ヘルスケアや教育など、さまざまな分野で活用できるでしょう。

ヘルスケア分野での応用

診断支援や治療計画の提案、患者の健康管理、医療データ解析など、AGIはヘルスケア分野においてさまざまなタスクを担うことが可能です。

たとえば、ガンを患ったAさんがいた場合、AGIはまずAさんの病歴や現在の健康状態をチェックします。そして、ガンの種類と進行状況によってどのような治療が最適かを考え、化学療法や放射線療法といった具体的な治療方法を提案します。

さらに、その後も選択した治療がほんとうに効果があるかをリアルタイムで見守り、必要に応じて治療計画を調整します。

このように、個々の患者のニーズに合わせてカスタマイズされた最良のケアを提供することができるのです。

自動運転技術の進歩

自動運転技術は、AGIのおかげで大きく進歩しました。AGIは、難しい交通状況でも人間のように考え正しい判断ができるため、子どもが突然道路に飛び出したとしても、AGIはすぐにそれに気づいて、ブレーキをかけることができます。

また、判断能力が衰えた高齢者にとって、自動運転車は安心して移動できる助けとなります。さらに、AGIは学習能力があるため、逐一新しい交通ルールを習得させることができます。

教育分野でも、AGIは効果的に活用可能

教育と研究の支援

AGIは、教育や研究分野でも役立ちます。

たとえば、小学生の学習をサポートする場合、その子の得意科目、苦手な科目をきちんと把握し、それぞれの子どもに合わせて最適な学習プランを作って提供することができます。

また、研究の世界でも、大量のデータを迅速に解析し、研究者に新しい発見やアイデアを提供できるため、研究者のひらめきや難しい問題の解決策を見つけるサポートができます。

店舗や施設での顧客体験(CX)向上

店舗や施設でも、AGIを活用することで顧客体験(CX)を向上させることができます。

たとえば、アパレルショップにAさんという顧客が来た場合を考えてみましょう。Aさんが店に入ると、AGIがAさんの過去の購買履歴や好みを分析し、いま流行っているアイテムやAさんの好みに合いそうな新商品を提案します。

さらに、Aさんが特定のスタイルや色を好むことを知っていれば、それに合わせた服やアクセサリー、それに合わせたコーディネートの提案も行います。

こうすると、Aさんはより効率的に買い物を楽しむことができ、満足度が向上します。さらに、満足度を上げることで「またこのお店に来たい」とリピート率を上げ、店舗の売上率向上につながります。

このようにAGIは技術革新の新たな道を開き、社会や産業に多大な影響を与える可能性を持っています。AGIの進歩が、私たちの生活を根本から変えるかもしれません。

日向野 卓也

株式会社GeNEE

代表取締役社長