もはや「財閥」、トヨタグループ――世界や新聞・テレビからバッシングを受ける中で王道を歩む「永久保有銘柄」

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トヨタはやはりすごい

10月25日時点の日本経済新聞のデータによれば、トップのトヨタ自動車の時価総額43兆円強に対して、2位のソニーが16兆円弱であるから、3倍近くであり、圧倒的存在だといえよう。

日本の2022年のGDP546兆円、2022年度の税収71兆円と比べても、その存在感の大きさがわかると思う。

しかも、トヨタグループ企業は17社(トヨタ通商HP)である。トヨタ自動車のルーツであるトヨタ自動織機など、読者になじみがある会社が多いはずだ。

■トヨタグループ17社

トヨタ通商HPより

豊田自動織機は、1926年に豊田佐吉が発明したG型自動織機を製造するため、愛知県碧海郡刈谷町に、株式会社豊田自動織機製作所として設立された。

もう間もなく誕生から100年を迎えるわけだ。しかし、江戸期の越後屋にルーツを持つ三井財閥や、蘇我理右衛門が南蛮人に原理を聞き開発した「南蛮吹き」に遡る住友財閥などから比べると、その歴史は新しいと言える。

1945年の敗戦の結果、財閥解体指令が出され戦前からの財閥は危機に陥った。しかし、1951年の財閥解体に関する諸法令の廃止以降再び力を盛り返し、現在でも大きな力を持っている。

ただ、戦前と比べれば、財閥内での企業の結合は緩やかである。そのような「緩やかな財閥」という基準で考えれば、トヨタグループは「トヨタ財閥」と呼んでも構わない域に到達しているように感じる。

まず、豊田通商がトヨタ自動車の商社から、五大総合商社に引けをとらない存在に発展したことがあげられる。

また、豊田中央研究所が人工光合成分野で世界の最先端を走っている。さらに、デンソーが我々になじみ深いQRコードを開発したりなど、「自動車」から離れた多様な分野で活躍を始めている。

元々、トヨタ自動車は自動織機メーカーからの大転換を成し遂げているのだ。したがって、トヨタグループが「自動車メーカーのグループ」から「総合財閥」へと変貌を遂げる可能性はかなり高いと考える。

トヨタ生産方式が世界を席巻している

このようにトヨタグループが大発展した理由には色々あるが、「トヨタ精神」の根幹ともいえる「TPS」(トヨタ生産方式)と「現地現物」の二つに注目したい。

まず、トヨタ生産方式(TPS)の源流は、2021年9月21日公開「ポスト・コロナの仕事の現場-ホワイトカラーも『製造業化』の時代に」2ページ目「『科学的管理法』が生産性を50倍にした」で述べたテイラーの科学的管理法にある。

このテイラーの科学的管理法以前の世界では「科学的データ」など全く存在せず(誰も収集しようとしなかった)、各自がそれぞれの考え方でばらばらに作業を行い、作業効率も一定しなかった。

そこに、「ストップウォッチで作業時間を計測するなどして作業内容を分析したうえで、もっとも効率の良い方法を選択する」という現代では当たり前ともいえる手法を投入したのがフレデリック・テイラーなのである。

ピータ―・ドラッカーによれば、この「科学的管理法」の導入によって、生産性が50倍になったとのことだ。そして、少なくとも現在の先進国の工場でこのような「科学的管理法」を採用していないケースは少ない。当たり前すぎて、「当工場では『科学的管理法』を採用しています」とわざわざ言わないだけのことである。

そして、現在「科学的管理法」クラスの影響を世界に与えているのがトヨタ生産方式である。例えば、オートバイ用の(高級な)ヘルメットで有名なSHOEIは、トヨタ生産方式を採用していることを明言している。

世界中のレーサーが愛用する優れたヘルメットの生産においても、トヨタ生産方式が活躍しているのだ。

もちろん、明言していなくても、日本のメーカーのほとんどは、トヨタ生産方式の影響を受けていると言っても過言ではない。

さらに、海外企業にも大きな影響を与えている。日経XTECH 2019年10月10日「ナイキもグーグルもトヨタ経営を研究し尽くしている」冒頭で述べられているように、「リーン(生産方式)」と呼んでいるだけで、実態はトヨタ生産方式なのである。

トヨタ生産方式はすべての産業に適用できる

このように世界に広がるトヨタ生産方式だが、その適用範囲は、製造業だけに限られるわけではない。

例えば、2003年のりそなショックの際に、白羽の矢を立てられ会長に就任。経営改革の先頭に立った細谷英二氏が、花王を始めとするメーカーの優れた手法を取り入れて、生産性を向上したことは有名だ。

実際、現在では数ある銀行の中でもりそな銀行の生産性の高さは有名であり、2021年3月15日公開「みずほが落ちて、りそなが浮上…『メガバンク勢力図』がいよいよ変わるかもしれない」という結果に結びついている。

よく日本企業の生産性が低いと言われる。確かに全体としてみればその通りなのだが、日本のメーカーの生産性の高さは世界でも群を抜いている。つまり、「日本企業は生産性が低い」と批判する新聞、テレビなどのメディアを含む非製造業が、製造業の足を引っ張っているのだ。例えば、2020年5月29日「在宅勤務は日本のホワイトカラーの『絶望的低生産性』を改善するか」を参照いただきたい。

このように、生産性が高い日本メーカーの手法、特にその中でも最高水準と言えるトヨタ生産方式を「非製造業」に導入する意味は大きい。

例えば、有名なジャストインタイムは、在庫という「物」を管理するのと同時に、「在庫情報」というソフトもコントロールしているのである。「情報」のコントロールは、すべての産業において必要といってよいから、トヨタ生産方式の適用範囲が広いのも当然である。

豊田通商の「トヨタ生産方式」

豊田通商の起源は、トヨタ車の販売金融を行う「トヨタ金融株式会社」が1936年に創立された時に遡る。長年、「トヨタ自動車の商社」というイメージが強かったのだが、2000年に加商と合併するとともにトーメンと資本業務提携を行ったあたりから、総合商社としての色彩が強まる。2016年にはフランス最大の商社CFAOを子会社化している。

そして、現在売上高においては、丸紅や住友商事を抑えて堂々の総合商社第4位(業界動向サーチ「総合商社業界 売上高ランキング」)である。

もちろん、トーメンや加商、さらにはCFAOのビジネスを吸収した側面は大きい。だが、世の中を見渡せば吸収・合併の失敗例には事欠かない。だが、豊田通商は合併・吸収によって企業規模が拡大しても、トヨタ生産方式のオペレーションを応用し、合理的な運営を行っている。

そして、Response 2009年6月1日「豊田通商、トヨタ生産システムを伝道するトピックスを買収」にあるように、トヨタ生産方式の「伝道者」でもある。

川上から、川下までまさに「すべての産業」を取り込む総合商社という業態での、トヨタ生産方式の活躍ぶりが、その応用範囲の広さを示しているといえよう。

「なぜなぜ分析」が正しい判断へ導く

トヨタグループを成長させたもう一つの牽引車が「現地現物」である。「役員室の快適なソファーで、机上の空論によって判断を下すのではなく、工場や販売店などで『現場』や『現物』をきちんと確かめてから決断せよ」ということである。

しかし、それだけではない。世間ではあまり知られていないが、現地現物と「なぜなぜ分析」(参照:Infinity-Agent Lab「【図解】なぜなぜ分析とは?手順や注意点・NGパターンも解説!」)が融合することによって最大限の効果を発揮するのだ。

この「なぜなぜ分析」は、物事の表面的な原因では無く、「本質的な原因」にまでさかのぼって考える点に特徴がある。

例えば、ネジの不良品が発生した表面的原因が工作機械の不具合にあったとしよう。それだけにとどまらず、「その工作機械の不具合はなぜ起こったのか」「事前に把握できなかったのか」と追及し、さらにその機械の不具合はメンテナンスが不十分であったことが原因であったとする。するとさらに、メンテナンスが不十分であった原因を探るというように「本質的原因」を常に追究し、「表面では無く根本を『カイゼン』」するのだ。

製品開発のなぜなぜ分析

この「現地現物」をベースに「なぜなぜ分析」を行うという戦略は、製品開発にも生かされている。

世間が次世代自動車としてEVや燃料電池車をもてはやす中で、ハイブリッドという「本質に遡った改革」を行うことができたのがその成果である。

また、「レクサス」の大成功もその一つである。トヨタが世界ナンバーワンの自動車メーカーになってしまった現在ではわかりにくい。しかし、当時のトヨタ自動車のブランド力で言えば「ダイハツやスズキが、ポルシェやベンツのような高級車を発売」するようなものであったのだ。

この成功の裏には、「レクサスの販売店でトヨタの名前を一切出さない」、あるいは「米国で先行販売し、ブランド力をつけてから逆輸入する」などの大胆な戦略があった。このような大胆な戦略を実行できたのも、現地現物を実践し「なぜなぜ分析」を繰り返し行ったという自信があったからといえる。

直近では、「EVでトヨタが出遅れている」とのメディアによるバッシングがあったが、トヨタ自動車HP 10月12日「出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始」でも述べられているように圧倒的高性能(と予想される)全固体電池の開発でそれを吹き飛ばした。

もともと、トヨタは「既存のバッテリーの性能ではEVは普及しないという本質」がわかっていたため、あえて緒戦に積極的に参加しなかっただけである。

デンソーも「豊田中央研究所」もすごいぞ!

QRコードを開発したのはデンソーである。詳しくは特許庁「『QRコード』(株)デンソーウェーブ」を参照いただきたい。

現在のような使い方は想定していなかったとのことだが、優れた技術(製品)の応用範囲が広いことの証明である。

また、10月19日公開「日本がエネルギー大国になる日~人工光合成と藻類バイオマスに期待」6ページ目「人工光合成と水素に注目」で解説した「SOEC」(固体酸化物形電解セル)という、高温で水の電気分解を行うシステムも有望であると考えている。

そして、同記事で紹介した豊田中央研究所の人工光合成もかなり期待できる。これらの技術が実用化されれば、原油や天然ガスのように地中で採掘するのでは無く、「工場で生産するエネルギー」が主流になるかもしれない。その場合、トヨタグループは「巨大エネルギー企業グループ」にもなりえる。

トヨタグループの今後の発展を注視したい。