「死んでから他人に迷惑は…」墓じまいし別の墓や納骨堂に移す「改葬」10年で1・5倍

 札幌市東区の住民(53)はこの秋、旭川市にある先祖の墓を撤去し、敷地を返す「墓じまい」を決めた。両親は健在で母とは同居するが父は入院中。いつまで墓を守れるか分からない。自分は独身で、埼玉県に住む独り身の兄も北海道内に戻る予定はないため、いずれ墓を管理する親族もいなくなる。「死んでから他人に迷惑をかけるわけにいかない」。手頃な価格で見つけた永代供養付きの墓を早々に契約した。

 少子高齢化で、墓のあり方は大きく変容している。厚生労働省によると、墓じまいして、別の墓や納骨堂に移す「改葬」は2021年度に全国で約11万9000件に上り、この10年で1・5倍になった。道内では2倍以上になっており、道東の石材業者は「ここ7~8年は墓を建てるより、解体するのが仕事ですよ」と打ち明ける。墓を管理する親族がいなくなり、放置されたままの「無縁墓」も増加。札幌市では、20年度に市営霊園などの約4万7000基を調査したところ、9700基(21%)で「無縁化が疑われる」と判明した。

image樹木葬タイプの墓前で手を合わせる人たち(9月16日、三笠市の北海道中央霊園で)

 「地元との縁は自分が死ぬまでになってしまうが、これなら将来も安心かな」。彼岸前の9月中旬、遠軽町に住む契約社員の男性(69)は父親の遺骨を町営墓地から約200キロ離れた三笠市の民間霊園「北海道中央霊園」に移した。樹木葬タイプで、芝の上に手のひらサイズの墓標約3500基が並ぶ中から、自身と母親も入れるよう3人用を選んだ。

 先祖代々、遠軽町に住んでいたわけではない。三笠市にゆかりがあるわけでもないが、新千歳空港から車で約1時間なら関東地方に住む3人の子どもも来やすいのではと考えたという。

 同霊園では、全国でも珍しい無料の「送骨サービス」に注文が相次いでいる。14年に始めた取り組みで、遺骨を粘着テープなどで 梱包こんぽう し段ボールに入れて郵送。利用者の多くは遠方のため来られない高齢の遺族で、職員が複数の遺骨を一緒に埋葬する「合葬墓」などへの納骨まで行う。

 開始当初は年間10件ほどだったが、コロナ禍での移動制限などもあり、今や利用は年間約150件に上る。同霊園の武田寛理事長(61)は「核家族化や少子化で(墓の管理が)どうしようもなくなった人が増えた結果、価値観も多様化している」と話す。

 合葬墓は公営で整備する自治体も増えている。需要は想像をはるかに上回り、18年度に設置した苫小牧市では、50年かけていっぱいになる計画が、5年で容量の半数を超える約2700体分が埋まった。帯広市でも年間50件の想定が22年度は6倍の300件近くに達した。

 古里に帰って墓参りをする風習も過渡期を迎えている。幌加内町の公営墓地で8月下旬、岩見沢市の男性(75)らきょうだい4人が集まり、岩手県から入植してきた祖父、祖母や両親らが眠る墓の前で手を合わせた。

 幼い頃は、お盆になると親戚一同15人近くが集まった。役場近くの広場で開かれた盆踊りには、家族で踊りの輪に加わった。男性は「本当に楽しみだった。景色は今でも覚えている」と懐かしむ。

 だが、きょうだい4人の家族は今、誰も町内に住んでいない。長男である男性は車で往復5時間かけて通い続けてきたが、「2人の娘や孫の代に負担をかけられない」と札幌近郊の民間霊園で永代供養すると決めた。古里で最後となる墓参りを終え、男性は「さみしさはあるが、先祖も許してくれるだろう」とほっとした様子で話した。

 高齢化が進み、多くの人が亡くなる「多死社会」の到来で、人々の暮らしは変化を迫られている。

改葬9321件、北海道は全国2番目

 改葬の件数を都道府県別でみると、2021年度の北海道は9321件で東京都に次いで2番目に多かった。墓を管理する担い手が減っていることに加え、人口が集中する札幌市に地方から墓を移転させる傾向が強まっているとみられる。

 保健所別では、17年度からの5年間で増加率が大きいのは名寄保健所の3・3倍、深川保健所の2・9倍だった。管内の中心となる名寄市、深川市は道内平均より人口減少率が高い。

 名寄市は21年度、深川市は18年度に合葬墓を新設しており、市民の「受け皿」となった可能性がある。

 墓地行政に詳しい北海道大の上田裕文准教授(造園学)は「先祖に対して失礼と考える人がいるが、むしろ自分の代で責任を持とうとする 真摯しんし な行為で、その逆が無縁墓として表れる。生前に親らとコミュニケーションをとり、墓のあり方について考える人が増えてほしい」と話している。