物価高の元凶「円安」無策は人災か…収束なくして目玉政策「定額減税」の効果ほぼゼロ

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銀の植田和男総裁と鈴木俊一財務相=左)/(C)ロイター
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学者出身の総裁の采配に期待したが…(日銀・植田和男総裁)(C)共同通信社

「小泉元首相の郵政民営化くらいの覚悟でやる」──。「定額減税」について岸田首相は周囲にそう強い意欲を示してきたという。唐突に打ち出した所得税減税は、物価高の家計への影響を和らげるための目玉政策だが、肝心のインフレ退治は円安放置の無策が続く。物価高が収束に向かわなければ、1年限りの減税の効果はなきに等しい。
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 扶養家族含めて1人当たり所得税3万円、住民税1万円の定額減税は来年6月から実施。住民税非課税の低所得世帯向けの7万円給付は年内に開始する。
「家計を助ける効果はありますが、1回限りで継続性がない。インフレが続けば、すぐに国民の懐は苦しくなります。物価高の元凶は円安ですが、足元よりも進む恐れがあります。手を打つ必要がありますが、政府・日銀はお手上げのようです」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
■期待の「緩和修正」も焼け石に水
 足元は1ドル=150円の円安水準。円買い介入への警戒から膠着状態が続くが、仮に実施しても効果は小さく、一時的だ。そこで注目を集めているのは、30、31日の日銀の金融政策決定会合。これ以上の円安は容認できないとして、政府内の一部で金融緩和の修正に期待を寄せる声が上がっているのだ。

「逆に今回の会合で緩和を維持すれば、一気に円安が進むでしょう。では、緩和を修正した場合に期待通りに円安を止められるのか。日銀が少し金利を上げたところで、絶好調な米経済に歯が立たず、円安は解消されない可能性が高い。つまり、誰にも円安は止められないということです」(森岡英樹氏)
 26日に発表された7~9月期の米GDP(実質国内総生産)は、年率換算で前期比4.9%増だった。4~6月期の2.1%増から大幅アップだ。利上げでも衰えない個人消費が成長を引っ張った。米経済の強さが改めて示され、高金利が長期化するのは必至。植田総裁が満を持して、修正に踏み切ってもドルの優位は揺るがないとみられる。
 実際、7月会合で長期金利の上限を事実上1%に引き上げたが、円安は収まるどころか、わずか3カ月で10円近くも安くなっている。
 27日の衆院予算委員会で立憲民主党長妻昭議員は「異次元の金融緩和により、日米金利差がどんどん開いて円安が加速する。これは人災だ」と追及。岸田は「物価高の背景には世界的なエネルギー危機や食料危機で世界中の国々が物価高で苦しんでいる。それが基本だ」と円安から目をそらした。

 10月の東京都区部の消費者物価指数は前年同月比2.7%上昇。鈍化どころか、前月より伸び率が拡大した。雪印はバターなど12月1日から最大7%値上げすると発表。佐川急便は宅配便の基本運賃を来年4月に平均7%程度引き上げる。
「電気・ガスやガソリンの補助金、それに今回の定額減税はその場しのぎに過ぎない。本当の物価対策は、消費を盛り上げ、日本経済を好転させることで円を強くすることです。ただ、それは一朝一夕で実現するものではない。円安・物価高により生活苦は長く続くことになりそうです」(森岡英樹氏)