マイホームが破格の550万円!「3Dプリンター住宅」は庶民を救うのか?

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写真はイメージです Photo:PIXTA

現在の住宅価格の高騰は、庶民のマイホームの夢をくじけさせる。そんな中、安価な3Dプリンター住宅の実現化が進んでいる。近未来を感じるイノベーションに胸がときめく一方、住むにあたって現実的な選択肢となり得るのだろうか。(フリーライター 武藤弘樹)

「車を買う値段で家を買える」

 3Dプリンターで出力した1LDKの戸建て住宅が登場し、そのお値段が550万円ということで、注目を集めている。手掛けているのはセレンディクスという兵庫県西宮市の国内住宅メーカーだ。

 近年は住宅価格高騰の渦中にあって、とりわけマンションの値上がりが顕著だが、首都圏では新築戸建ての価格も2020年から2022年にかけて20%ほど上昇していて、かなりの勢いがある。

 ある程度稼ぎがない限り、持ち家が手に入りにくくなってきているこの状況で、戸建て住宅をリーズナブルに、上記メーカーの言葉を借りるなら「車を買う値段で家を買える」とすれば、それは多くの人にとって選択肢が増えるということである。タイムリーにも、ついに一等地に新築戸建てを手にした稼ぎの良い妹を眺めるいまだ賃貸暮らしの筆者などは、「3Dプリンター住宅、悪くない…!」思うわけである。

 3Dプリンター住宅が現実的な選択肢かを、我が身に迫る生々しさをもって比較的真剣に検討してみたい。

頑丈らしい3Dプリンター住宅

 まず、3Dプリンターが古今東西でイノベーション無双を行っていて、食用培養肉や移植手術用の骨の出力までするという話を聞き、すべてがまだ実用化の段階に至っているわけではないにしろ、かつての近未来がついに「現在」へと迫りつつあるのだと感慨深い。

 3Dプリンター住宅は、業務用3Dプリンターを使って造るらしく、筆者は、その響きから、さも未来感あふれるデザインで中空にレーザーをビーッと照射してみるみるうちに住宅を描画していくようなSF映画的絵づらを想像していたが、もう少しなじみのある「鉄でできた機械」というたたずまいで安心した(参考)。

 アームの先端から下にコンクリートをニューッと垂らして、ソフトクリームのようにそれを上へと重ねて壁にするのである。そしていくつかのパーツを現場に持っていって組み合わせて完成となるのだが、今回のセレンディクスの戸建て住宅は最短2日でできるというのが驚きである。

 同社から発表された「フジツボモデル」というタイプは広さ50平方メートル、鉄骨とコンクリートでできていて、水回りも完備。建築基準法に準拠し、耐震性・断熱性も申し分ないとのことで550万円となる。

 また、同社からはグランピング(※)などの展開に向けた10平方メートル・330万円の「スフィアモデル」がすでにリリースされていて、今後100平方メートルのモデルの発表を予定しているそうである。(※)豪華(グラマラス)なキャンプ、を意味する造語。

 早速問い合わせが殺到しているようで、すぐ動かせる金、および新しいテクノロジーに真っ先に踏み入っていく勇気のない筆者はその様子を見守るのみだが、やはり「新築戸建てのマイホーム」という選択肢には、前を向かせてくれる希望の光があり、問い合わせに動いている人たちがまぶしく感じられる。

 しかもポイントはその廉価性であり、よりカジュアルに新築戸建てが購入できるようになれば、従来より選択肢が増えて社会のワクワク度も増すに相違ない。

 話題の「フジツボモデル」は、外壁がいかにも「コンクリートを3Dプリンターでネリネリ出して重ねていきました」という特徴的なルックスになっていて、この点好き嫌いが分かれそうだ。しかし、コンクリートの積層痕は3Dプリンター出力によるものだということを示すためにあえて残していて、あとを残さずなめらかに仕上げる技術もあるとのことである。

プレハブなど、他の選択肢と比べてみる

 世界に目を向けると、3Dプリンター住宅は数年前から実用化されていて、たとえばアメリカでは各地で10~100軒規模の3Dプリンター住宅の販売が開始もしくは開始予定である。業界のパイオニアである「ICON」という企業がカリフォルニア州のコーチェラやテキサス州のジョージタウンに造った3Dプリンター住宅(参考)はスタイリッシュでとてもきれいだが、価格はそこそこしていて、後者の物件であれば約140~195平方メートルで47.5万~59万ドル(約7000万~8700万円)という設定である。

 住宅は世界的に、材料費の高騰から値上がりしていて、特に近年のウッドショックで木材が高くなっている。セレンディクスのフジツボモデルが世界的に注目されたのは、安さと、ウッドショックに左右されない価格の安定性であった。

 さて、本格的に検討を始めるのだが、では廉価で手に入る住宅として他の選択肢を、同じテーブルに並べて見比べてみたい。

 まずはプレハブである。プレハブも調べてみれば安いものから高級なものまでさまざまあって、高級なものほど断熱性、強度、防音効果などがしっかりしているのがわかる。試しにヨドコウというメーカーの30畳(約49平方メートル)で、340万円強と出た。納期は、販売しているサイトによってバラツキがあるが、1~3カ月後となっている。

 続いてユニットハウスはどうか。ユニットハウスとは、箱型のユニットをいくつか自由に連棟(連結)させて作ることができる家で、プレハブに比べて工期が大幅に短いという特徴もある。「ユニットハウス」で検索するといろいろな物件が出てきすぎてよくわからなくなってしまうのだが、その中にベーシックな箱型デザインで約50平方メートルの中古、約240万円(配送費諸々込みで約310万円)という物件を発見した。

 続いてトレーラーハウスである。一般の住宅と比べて特殊な点は、「トラックで牽引(けんいん)可能」「不動産ではないため、固定資産税、不動産取得税がかからない」などが挙げられる。「トラックで牽引」となるとやはり真っ先に無機質なコンテナのようなイメージが浮かんでくるが、材質には木造も鉄骨もあり、平屋も二階建てもある。さらに、ウッドデッキをつけることもできたりするらしい。トレーラーハウスという選択肢がなかなか酔狂なので、かなりおしゃれなものも多い。個人的には、「日常に退屈を感じたら――明日は違う土地へ――」という具合に、CMのキャッチコピーのようなあんばいで簡単に新生活が始められる気楽さというか、無軌道さを可能としてくれるところにおじさん的ロマンを覚える。

 これも値段やクオリティーはピンキリだが、安くて数百万円~、それなりにかっこいいものに住もうと思えば1000万円は超えそうである。ただし税金の面では有利なので、そこをどう捉えるかであろう。

地方の中古戸建ても魅力だが…

 最後に、基本に立ち返って「地方の中古戸建て」である。全国的に年々増えている空き家の数は今後もさらに増えていく見通しといわれ、地方では空き家の投げ売りが起きているような状況もある。ここのところマンション価格が高騰しすぎているのと、リモートワークの普及で、地方戸建てに目移りしていく可能性はある。リフォーム済みの家が数百万円で手に入る現状はどうあがいても垂涎(すいぜん)ものである。

 そうした空き家を利用して賃貸にする不動産ビジネスもあるようで、そういえば筆者が今住んでいるこの首都圏近郊の賃貸3LDKはまさしくそれなのではないかと思い当たり、自分がいつの間にか搾取される側に回っていることに気づいて慄然(りつぜん)としている。

 しかし、それはもう考えないことにして、たしかにこの家もリノベ済みではあるが建て付けは悪いし隙間から入った虫が頻繁に出るし、あと強い風が吹くとものすごいガタガタいうので、新築に比べれば分が悪い。

 さて、プレハブ、ユニットハウス、トレーラーハウス、地方中古戸建て、そして3Dプリンター住宅が出そろった。こうして諸条件を並べて見比べてみた結果、3Dプリンター住宅は極めて現実的な選択肢として検討することができた。セレンディクスの「フジツボハウス」は夫婦2人向けの1LDKとうたわれていて、我が家は子どもがいるので手狭になりそうだが、さらに大きいサイズのファミリー向けモデルがリリースされれば、いよいよ購入が視野に入る。あとは、筆者の場合でいうなら、「広くてボロい家」か「狭くなるけど最先端の家」、どちらを取るかという話になる。

 なお、3Dプリンター住宅業界はここ最近で日の出を迎えたような状況であり、今後生産体制やノウハウがさらに整っていけば、より低コストで供給が可能となる見通しとのことである。目を皿にして充血させ、成り行きを見守りたい。