サンマはどこに消えた?日本人が知るべき事実

 写真の光は、日本の漁船から撮影した、外国船の集魚灯です。光に集まる習性を利用してすくい獲るのが、サンマ棒受け漁です。想像がつかないかも知れませんが、公海上の狭い漁場で、日本漁船も含めた各国の漁船が、少なくなったサンマを狙って日々ひしめき合って操業しているのです。

強烈な集魚灯を使って公海で操業する外国のサンマ漁船(筆者提供)

大漁祈願で何とかならないサンマ漁

 かつて毎年8月末頃から1尾100円前後で、売り場を埋め尽くしていた秋の風物詩サンマ。しかしながら、その光景はすでにありません。「今年こそは!」と期待しても、すでに諦めている方は少なくないはずです。

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秋の風物詩のサンマ。今や売り場を埋め尽くす情景を見ることは少ない(筆者提供)

 価格がクロマグロの初セリ価格のようになったサンマ。恒例の初セリ、2023年1月5日の豊洲市場でのクロマグロ(1尾212キロ)の初セリ価格は、キロ17万円でした。一方で23年8月19日の札幌市場でのサンマ(1ケース・約3キロ)の初セリはキロ23万円と、クロマグロの初セリのキロ単価を超えています。

 共にご祝儀相場であり、極々例外な価格です。しかしサンマがクロマグロの価格を超えるなどというのは、数年前まではおよそ想像もつきませんでした。それだけ漁獲量が激減してしまい、サンマの価値が、大きく変わったということなのです。しかも、こうなった主要な原因は外国でも海水温上昇でもなく、資源管理が機能していないからであることは、これまで科学的根拠に基づいて何度も発信してきました

サンマはどこにいるのかご存知ですか?

 下のデータをご覧ください。左のデータは上から03年・13年・23年と10年ごとの資源調査のデータを表しています。円の大きさが資源量を表し、赤が1歳魚、青が0歳魚となっています。サンマの寿命は約2年。東から西へと回遊して来るイメージです。10年単位で見ても、資源が大幅に減少していることがわかります。

サンマの資源調査データと回遊を妨げているという暖水塊の関係
(出所)水産研究教育機構のデータを基に筆者作成写真を拡大

 日本に近い方から1区・2区・3区と別れています。左下の23年のデータでは1区にはほとんど資源が分布していないことがわかります。これは6~7月頃の調査データなので、実際には下図のように秋が深まるにつれ日本の排他的漁業水域(EEZ)に回遊してくるはずなのですが、ほとんどそうなっていません。

サンマの来遊予想 (出所)水産研究教育機構写真を拡大

 日本のサンマ漁は、EEZの外側の公海上での漁獲量が95%(21年)を占めています。分かり易く言えば、日本のEEZ内での漁獲はほぼなく、上図2区の公海上での漁で、ほぼ終了しているのです。公海上には、中国・台湾といった外国漁船が操業しています。

 外国船が洋上で凍結するのに対して、日本の漁船は漁港まで鮮魚で持ち帰ります。しかもその距離は片道1000キロメートル以上で、期間は3日程度。日本の漁船が往復と水揚げで1週間程度も費やす一方で、外国漁船は帰港することなく洋上で操業を続けます。これでは、物理的に獲り負けてしまうのも当然です。

 資源量が多ければ漁場が広範囲に広がるため、漁獲圧は緩和されます。しかしながら資源が少なければ、漁場は狭くなり、漁船は狭い漁場でひしめき合って獲り合います。これが、サンマ漁の実態で、資源がよくなるはずはありません。

 ここで上図右のデータを見てください。北海道と三陸沖に暖水塊があってサンマの回遊を妨げているというものです。しかしながら、そもそも漁場はこの暖水塊から遥か彼方の公海上です。報道などで日本に回遊する前に外国漁船が漁獲してしまうとお聞きになったことがあるかと思います。しかしすでに公海上の資源も激減し、遠くに行けばたくさん獲れるということではないのです。

資源管理になっていないサンマのTAC

 下のグラフは、サンマの漁獲可能量(TAC)と漁獲量の推移です。漁獲枠が減少していますが、それ以上に漁獲量が減少しています。

サンマのTACと漁獲量推移 (出所)水産庁資料を基に筆者作成

 こうしたTACと漁獲量の相関関係は、資源管理が機能している国々の魚種ではあり得ません。米国のスケトウダラや、ノルウェーサバなど、TACというのは、実際に漁獲できる数量よりもはるかに少なく設定されているのが、資源管理が機能している世界の常識です。

 サンマのTACを減らして資源管理強化で国際合意してきているといった類の報道がありますが、減らしたTAC自体が依然大きすぎるので、削減の効果は残念ながらないのです。それどころか、日本漁船も含めた各国の漁船がお互いに漁船が見える狭い漁場で我先にと、ひしめき合っているのです。科学的根拠に基づいた国別のTACを設定しなければ、資源崩壊は避けられません。

上がり続けるサンマの価格

 下のグラフをご覧ください。青の折れ線グラフが漁獲量で、赤の点線が魚価の推移を表しています。06年からのデータですが、キロ100円もしなかった魚価がキロ600円と大幅に上昇していることがわかります。大幅な魚価上昇の原因は、大幅な漁獲量の減少に他なりません。

サンマの漁獲量と魚価の推移 (出所)水産白書

 資源管理が機能していないために、資源が減っています。資源が減ることで漁場が遠くなり、消費者に届くまで鮮度面で時間がかかります。また、漁獲量が少ないために、従来は養殖のエサにしていた非食用のサイズまで、格上げして消費者向けに回すことになります。

 このため、価値が高くないサヨリのような小さくて細いサンマが高値で供給されています。さらに漁業者にとっては、単価が高くても数量が少ないために水揚げ金額が上がらずで、誰にとってもサンマ漁が負の連鎖に陥っているのです。

危惧されるサンマ漁業の未来

 下のグラフは、サンマの漁獲量推移を表しています。赤が日本、緑が台湾、青が中国です。2000年以前は約8割を占めていた日本の漁獲シェアが、22年になると2割を切ってしまいました。

サンマの漁獲量推移 (出所)水産研究教育機構

 資源管理を機能するために不可欠なのは、いまだに決まっていない科学的根拠に基づく国別のTACです。漁獲枠を国別に配分することは、将来にわたる国益が絡みます。このため合意は極めて難しいのです。さらに過去ではなく最近の漁獲実績を基にした話し合いになる可能性が高く、シェアが大きく減ったことは負の遺産となってしまいます。

 台湾や中国が漁獲実績を増やしてしまう前に、国別TACの設定交渉を始めるべきでしたが「時すでに遅し」です。これらの国々は、サンマの漁獲の為に漁船も配備・建造しており、容易に引き下がりません。獲っていた昔の話をしても、今の話が帰ってくるだけでしょう。

マイワシが原因ではない

 サンマやサバが獲れないのは、マイワシが多いからといった報道を聞いたことがあるかも知れません。下のグラフは、サンマとマイワシの漁獲推移をグラフにしたものです。マイワシ(オレンジの折れ線グラフ)の漁獲量が現在よりはるかに多かった1980年代には、たくさんのサンマも獲れていました。

サンマとマイワシの漁獲量推移 (出所)水産研究教育機構のデータを基に筆者作成

 仮にサンマが減った原因がマイワシであれば、サンマの漁獲量は今よりかなり少なかったはずです。マサバが減った原因がマイワシだという報道も聞いたことがあるかも知れませんが、これも同様に、1980年代にはマサバの漁獲量は潤沢でした。

 日本では、一般的に資源量に大きな変動を与える漁業や、中長期の漁獲量データをあまり考慮せずに、資源動向を評価する傾向があるようです。このため漁業という最大要因をあまり考慮せずに分析してしまうと、原因が海水温上昇などの環境要因に責任転嫁されやすく、現実と異なるおかしな分析結果となってしまいます。

 また、国連食糧農業機関(FAO)の「責任ある漁業のための行動規範」にある予防的アプローチはあまり考慮されていないとみられます。このためか、まるで埋蔵金があるような資源評価や、資源管理が機能している北欧では考えられない大きな漁獲枠が設定されてしまっています。

国際的な視点で見れば、誤った処方箋で薬(資源管理)を飲み続けてきた結果が出ています。それは、世界全体と非常に対照的な、現在の形で記録が残る1956年以降で400万トンを切り、過去最低を記録した昨年の生産量(386万トン)に他なりません。生産量は漁獲量と養殖量の合計です。

必要となってくる「大幅な漁獲制限」や「禁漁」という選択肢

 かつて1200万トンあった生産量は3分の1以下になりました。そして順位は下がり続け、21年には遂に世界10位からも滑り落ちました。世界三大漁場の一つである北西太平洋を漁場に持ち、かつて1970年代前半~1980年代後半にかけて、世界最大の漁獲量を誇って繁栄していた日本の漁業の姿はありません。この厳しい現実に目を背けてはいけません。

 筆者は、長年北欧をはじめとする資源管理を研究しており、世界の漁業関係者と交流があります。日本の資源管理や獲り切れないTACの設定などは、北欧の漁業関係者を始め絶対に陥ってはならないケースとして映っています。

 サンマが獲れなくなっている最大の原因は、科学的根拠に基づく国別TACがないために、資源管理が機能していないからです。国は漁業法改正で、20年12月より、数量管理に基づく資源管理に舵を切りました。しかしすでに取り返しがつかない段階に来ている魚種が数多くあります。

 年によって漁獲量が多少増えたりすることもあるでしょう。しかしながら、資源管理が機能していない状況下では、少し増えても日本漁船も含む各国が入り乱れて漁獲してしまいます。そして例外なく資源も漁獲量も減少していきます。

 いま必要なのは、サンマが減っている本当の原因を理解することです。そして将来の為に、禁漁も含めた大幅な漁獲制限が必要になっている現実に気付くべきではないでしょうか? サンマ資源が枯渇してしまえば、日本漁船や外国漁船もなくおしまいです。そして消費者も含め多くの人が困ることになります。