70代夫「僕が死んでも苦労させないから」→“生命保険金2,000万円”を受け取った妻、老後安泰のはずが…三回忌後〈税務調査〉に戦慄のワケ【FP1級が解説】

相続税の節税対策として有効な「生命保険」。しかし、契約内容によってはあとから突然、税務調査が入るケースもあると、FP1級の川淵ゆかり氏はいいます。本記事では、AさんとBさんの事例とともに、相続税対策としての生命保険について解説します。

image
(※写真はイメージです/PIXTA)

相続対策ができる「生命保険」

生命保険は相続税の節税対策として、とても有利な金融商品になります。死亡時に受け取る生命保険金は、相続税の基礎控除額とは別に「500万円×法定相続人の人数分」の非課税限度額が設定されているのです。

たとえば、死亡保険金が2,000万円の生命保険に被相続人が加入していた場合、相続人が3人だとすると、

500万円×3人=1,500万円

の非課税枠が使えることになります。つまり、

2,000万円-1,500万円(500万円×3人)=500万円

のみが、課税対象額になります。

同じ2,000万円でも…「生命保険金」と「タンス預金」で節税効果を比較

AさんとBさんはともに70代の男性です。それぞれ同じくらいの財産を持ち、同じように奥さんと成人したお子さん2人を持つご家庭でした。Aさんは2,000万円をタンス預金とし、Bさんは財産のうちの現金2,000万円で生命保険に加入していました。

そして、AさんもBさんも同じころに亡くなってしまいました。どちらも相続人は残された奥さんとお子さんたちの3人となります。それぞれの家庭の相続税はいくらになるのでしょうか。

1. Aさんの家庭の相続税(生命保険に加入しなかった場合)

Aさんは、2,000万円のタンス預金とほかに財産評価額が5,000万円の財産を残したとします。

財産評価額と相続税

・タンス預金:2,000万円

・そのほかの財産:5,000万円

→合計7,000万円

この場合の相続税額は、112万円です。

※配偶者の控除特例を適用して計算

1.Bさんの家庭の相続税(生命保険に加入していた場合)

Bさんは、2,000万円の生命保険(便宜上、保険金と保険料を同額としています)とほかに財産評価額が5,000万円の財産を残しました。

財産評価額と相続税

・生命保険(課税金額):500万円(2,000万円-1,500万円(500万円×3人))

・そのほかの財産:5,000万円

→合計5,500万円

※この場合の相続税額は、35万円です。

※配偶者の控除特例を適用して計算

このように同じ2,000万円の現金でも、生命保険に加入するか、そのまま持っているかによって相続税額は大きく変わってくるのです。

タンス預金をネコババ…税務調査で当然「脱税」がバレるAさんの息子たち

さて、きちんと相続税の申告をして納税をすませておけばよかったのですが、Aさんの長男はタンスの奥に隠されていた2,000万円を申告せずに弟と2人でわけ合って、それぞれ1,000万円ずつを自分たちの口座に入れてしまいました。

実際に行った申告と相続税額は次のとおりです。

財産評価額と相続税

・そのほかの財産:5,000万円

合計5,000万円

この場合の相続税額は、10万円です。

※配偶者の控除特例を適用して計算

このように相続税額は100万円以上も少なくなりました。

さて、父親が亡くなり2年も経とうとしたある秋の日、亡くなったBさんの家庭に突然税務調査が入ります。税務署は相続税の税務調査の際に被相続人(亡くなった人)だけでなく、相続人たちの口座も金融機関に照会をかけて調べる権利を持っています。

Aさんの死亡後に突然息子たちの口座に1,000万円もの現金が入金された事実は言い逃れできません。税務署は、どのように得られたものなのか突き止めるためにヒアリングや実地調査などさまざまな手段で事実を洗い出してくるため、脱税はバレてしまいます。

なお、相続税を脱税すると、加算税や延滞税が課せられるだけでなく、有罪となった場合には懲役や罰金が科せられるケースもあります。過去には、大阪国税局の告発でタンス預金がばれて約3億2,000万円の追徴課税が発生した事例もありました。

きちんと申告していたはずのBさんの家庭も…まさかの税務調査

一方、三回忌を過ぎたころのAさんの家庭にも税務調査が入ります。Aさんの家庭は真面目に申告していたため、なにも問題はないだろうと思っていましたが、とんでもない事実が発覚します。

Bさんが亡くなったことで生命保険金2,000万円は受取人であるご長男が受け取ったのですが、この保険の契約者はBさんではなく、Bさんの奥さんになってしまっていたために、相続税ではなく贈与税の対象ではないか、と疑われたのです。

保険金受取人が死亡保険金を受け取った場合には、被保険者・契約者(保険料の負担者)・保険金受取人が誰であるかにより、所得税、相続税、贈与税と、税金の種類が変わってきてしまいます。もし、贈与税とみなされてしまうと、納税額は585万5,000円に跳ね上がってしまいます。

※	国税庁のHPより引用 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm

[図表]死亡保険金の課税関係※ 国税庁のHPより引用
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm

なお、税務上の取り扱いでは、保険料支払いのときの贈与とはならず、保険金が支払われる時点で一度に贈与されたとみなされますので注意が必要です。

数十年前の保険の契約時、当時忙しかったAさんの代わりに保険外交員と打ち合わせをしたAさんの奥さんが間違って契約者となってしまったようです。

奥さんは結婚して以来専業主婦だったために保険料の負担はできない状況でしたし、当時の通帳を探し出して保険料の実際の負担者はBさんであることを証明するために税務調査ではかなり苦労したようです。専業主婦として自分を支えてきてくれた妻を自分の亡きあと苦労させたくない、というBさんの想いからは大きく外れた結果となってしまいました。

なお、保険の契約者と実際の保険料の負担者が違うことはよくあります。前述のとおり税務署は金融機関に照会をかけて調べる権利を持っています。保険証券の契約状況を見ると「所得税」や「相続税」の課税対象に見えても、保険料の引き落としが別人の口座だった等の場合は税金の高い「贈与税」になってしまうケースもあるため注意が必要です。

前出の国税庁のHPの「死亡保険金の課税関係の表」も、「契約者」ではなく「保険料の負担者」となっていることから、実際に保険料を払っている人が誰なのかということが税務調査では重視されます。

筆者は、相談者の方から保険証券を拝見する機会がよくありますが、親御さんが保険に加入する際に、「お子さんのために」と保険料の負担もなさり、贈与税の対象になっているケースがけっこう多いものです。

人口減少が今後も続く日本では税収も減っていく懸念もあり、税務調査が厳しくなっていくことも十分予想できます。一度、保険証券を確認して、保険金を受け取ったときにどの税金の対象になるかを確認しておきましょう。被保険者以外の契約者や保険料の引き落とし口座、受取人は変更することができますので、早めに保険会社にご相談ください。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表