「牛乳をよく飲む人、飲まない人」。がんのリスクに表れる違いとは?

身体に良いイメージがある牛乳・乳製品ですが、実は「摂取することでリスクが高くなる疾患と低くなる疾患がある」と、『健康になる技術 大全』の著者・林英恵さんは言います。それでは、健康でいるためにどのくらいの量を食べるのが適切なのでしょうか?
本稿では、ハーバード公衆衛生大学院の教授陣から「日本人のために書かれた最高の書」「世界で活躍するスペシャリストが書いた唯一無二の本」と激賞されている、最先端のエビデンスをもとに「健康に長生きする方法」を明かした本書から一部を抜粋・編集して、牛乳・乳製品の摂取と健康の関係についてご紹介します 。
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修

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牛乳・乳製品と病気の関係

牛乳と乳製品に特徴的なのは、病気の予防の観点で見ると、摂取している人ほどリスクが高くなる疾患、低くなる疾患が出てくることです。

脳卒中をはじめとする循環器系の疾患や総死亡率については、乳製品をとっている人ほどリスクが低いという報告もあります。日本では、40~59歳の男女を対象とした研究で、乳製品の摂取と脳卒中の発生率の減少と関連が見られました(*1)。

しかし、総合的に見て予防の効果が期待できるほどでもありません(*2-4)。糖尿病に関しては、乳製品、特にヨーグルトやチーズの摂取が多い人ほど、糖尿病のリスクが低いという関連が報告されています(*5)。日本人女性を対象にした研究でも、概ね似たような関係が見られています(*6)。

牛乳・乳製品とがんのリスク

一方で、牛乳・乳製品に関してネガティブな報告もあるのが悩ましいところです。例えば、欧米や日本を含むアジアの研究をまとめた論文によると、男性で乳製品全般(牛乳・チーズ・低脂肪牛乳)をとっている人ほど、前立腺がんのリスクが高い傾向が見られます。がんの研究に関してエビデンスをまとめているWCRF(World Cancer Research Fund)の報告書でも、同様です(*7)。

女性に関しては、牛乳・乳製品と卵巣がんのリスクについて、良くない可能性が指摘されています(*8,9)。しかし、エビデンスとしては強くなく、先ほどのWCRFの報告書によれば、まだ結論づけることができないレベルのようです(*7)。

欧米では、がんについて芳しくない結果が確認されているのですが(*9-12)、日本の研究では、逆の結果が出ています(*13)。この研究によると、男性の場合、全く飲まない人よりも月に1~2回牛乳を飲む人の方が、がんの死亡率が低いようです。また、女性に関しては、週に3~4回牛乳を飲む人において、同様の結果が得られました。

欧米と日本で相反する結果が出ていることに対して、欧米の場合、牛乳や乳製品の摂取量がとても高く、それらに含まれる脂質の負の影響や関連する食のパターンが現れやすいのではと考えられています(*13)。欧米人と比べて、日本人の乳製品の1人あたりの摂取量は、平均でアメリカ人の約3分の1と、低いです(*14)。そのため、日本人の場合は負の影響も受けない程度の摂取におさまっており、研究結果の違いが出るのではないかと思います(*13,15)。

牛乳・乳製品はどのくらい食べればいい?

大人に関しては、脳卒中や糖尿病など、牛乳や乳製品がプラスに働く可能性のあるものと、特定のがんなどマイナスに働く可能性があるものがあるため、どのくらいとるのが良いか、自分のリスクに応じて検討するのが理想です。

そういった計算は煩雑なのでここでは避けますが、食事バランスガイドで推奨される食事の通り(*16)、1日2回ほど、牛乳、チーズ、ヨーグルトのいずれかを摂取するというのが無難だと思います。

際立った負の影響も考えられないことから、選ぶのであれば、私は特にヨーグルトをお勧めしたいと思っています。ヨーグルトやチーズは、発酵のおかげで牛乳には含まれる乳糖が、少なくなっているので、アジア人に多い乳糖不耐症の影響も少ないと思います(牛乳を飲んでお腹をくだすようなことになりにくい)。

子どもに関しては、乳製品は貴重なたんぱく源です(*17)。ここでも大切なのは、様々な種類の乳製品から摂取することを心がけて、他のどんな食品と合わせるか気にするのが良いと思っています。

(本稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』より一部を抜粋・編集したものです)

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