【山林相続の落とし穴】二束三文とは限らない…損する「山」とトクする「山」はここが違う!

山林は、代々林業を営んできた方やバブル景気などの不動産価格上昇時に投資目的で購入した方、近年のソロキャンプブームなどで購入した方など、さまざまな理由で購入されてきました。

しかし、山林は相続財産としてみた場合、トラブルの原因となるケースがあります。円滑な相続の妨げとなる恐れのある山林とは、一体どのようなものなのでしょうか。

相続の基本的な流れ

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基本的な相続の方法として、故人の財産・負債を相続人がすべて引き継ぐ『単純相続』と、何も引き継がない『相続放棄』を選ぶことになります。資産価値のある財産だけを相続したり、逆に一部の資産だけ相続放棄したりといったことはできません。

単純相続における相続人の範囲は遺言書の有無で変化します。遺言書がない場合は配偶者や子どもといった法定相続人が対象となり、遺言書がある場合は法定相続人以外の方にも財産を渡せます。

また、遺言書がある場合はどの相続人に何の財産を相続させるかを故人の意思で決めることができますが、遺言書がない場合は法定相続人間で法定相続割合に従い『誰に、どの財産を相続するか?』を協議することになります。

この財産を分ける際、すべて売却してしまい、その売却代金を相続人で分けるという方式であればある程度の公平性は担保されるため、相続関係でトラブルに至る可能性は低いといえます。

しかし、財産をそのままの形態で相続する場合、基本的に利用価値の高い資産――現預金や金融資産といった換金しやすい資産に人気が集中し、一方で逆に利用が難しかったり、管理に手間がかかる資産は敬遠されます。

相続する財産の協議が整わないと相続完了までに時間がかかったり、法定相続人の間で押し付け合いが始まったりといったデメリットが生じるようになります。このよく敬遠される相続財産の一つに「山林」があります。

相続時に落とし穴となる山林

山林は相続時に敬遠される傾向にあります。しかし、必ずしもすべての山林が敬遠されるわけではなく、「敬遠される山林」にはいくつかの特徴があります。

(1)残置物などで管理に多大なコストが必要

山林を含む土地は適切な管理が必要です。管理責任は所有者にあるため、管理が行き届かず土砂崩れや倒木などで他者の財産・身体を傷つけてしまうと、損害賠償を求められることがあります。

山林は、農具置き場などの建築物がある場合や、過去の植林が大木に育っている場合には伐採・間伐・枝打ちといった管理が必要になります。また崖などの斜面も多いため土砂崩れへの対策のほか、目の届かない場所も多いため不法投棄にも備える必要があります。

(2)複数の所有者による共有状態

山林の問題点は林業による収入が見込みにくい反面、管理が難しいことが挙げられます。例えば山林が複数の所有者で所有されている場合です。

一つの土地を複数の所有者で共有している場合、共有者単独で行える管理は原則として原状復帰のみで、形質を大きく変えるような管理・修繕を行う場合は、他の共有持分割合にもよりますが、他の共有者の合意が必要となります。

他の共有者も相続により財産が分割され共有者の人数が増えていたり、引っ越しなどによって連絡が取れなくなっていたりすると、管理・修繕に必要な協議が困難となってしまう恐れがあります。

(3)土地境界が未確定


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山林すべてを一人で所有しているということは少ないため、隣地の境界についても注意する必要があります。

境界はどこからどこまでが自分の土地かを明らかにするためのもので、土地を利用したり敷地内の管理を適正に行ったりするのに必須のものです。

山林の境界は公図や境界標のほか、尾根や木々の植生といった自然物を目印にしていることがありますが、いずれも正確性には難があります。

もし、境界が不明確のまま、山林を利用したり管理を行ってしまったりすると隣地トラブルに発展し、原状回復や損害賠償などを求められてしまうことになりかねません。

また、隣地境界が未確定のままだと売買にも影響が出る恐れもあります。こうした隣地トラブルを未然に防ぐためには境界を確定するしかなく、そのためには隣地所有者と境界確定についての協議を行う必要があります。ですが、隣地所有者も時間経過と共に相続が発生している場合があります。

土地の所有者情報は『不動産登記』で知ることができます。しかし、土地の登記は現状必須ではないため、相続が発生しても登記情報の変更が行われず、現所有者が不明の土地が多く発生しています。

所有者不明の土地は境界確定や利用が制限されるため、隣地所有者を見つける必要がありますが、登記簿が更新されていないと探偵などに依頼して現所有者を見つけることになります。

しかし相続などで所有権が細分化されていると、所有者の人数も増加してしまい、すべての人を見つけるのに多大な費用と労力を要します。

山林が相続で問題になったケース

山林が相続の問題となったケースについて、ファイナンシャルプランナーに寄せられたものを紹介したいと思います。

相談者の高田さん(仮名)は終活に備える資産家のご婦人(60代)で、すでに旦那様は鬼籍に入られていました。

相続財産としては、先祖代々の実家と農地と農機具に山林のほか預貯金があり、相談者の意向としては、現在家長として実際に農地を管理している息子さんに実家と農地・農機具を相続させ、遺留分を侵さない形で預貯金を他の法定相続人に渡したいとのことでした。

しかし、ここで問題になったのが山林でした。山林には先代が植林したスギやヒノキなどの原木が植えられていましたが、木材価格の下落によりこれらを伐採・運搬するとなると赤字になってしいます。

そのためそのままになっており、山林を相続すると固定資産税のほか、こうした立木の管理も必要になるため負担だけが目立つ相続財産となっていました。

また、山林を受け取ってしまうと他の相続財産が目減りしてしまう恐れもありました。幸い境界に関するトラブルもなかったため、利用予定がないのであれば相続発生前の売却を検討するよう提案したのですが、売却は困難となってしまいます。

このあと高田さんはどうなったのか、そして相続でトラブルに発展しないためにどうすればいいのか、後編記事『先祖代々の「山」が売れないけど“0円物件”にもしたくない…60代女性が決断した「山林相続」の解決策』で、詳しく解説していきます。