「ブドウを食べ愛犬が死亡」も…あなたの身近にある犬猫の命を左右する危険物

甘くておいしい旬のブドウ。食べたがる犬もいるが、あげるのはNG。死亡するリスクもある。

ペットと生きるために大切なこと36「身近な危険物」

著者

片川 優子 作家・獣医師

ブドウが美味しい季節になった。スーパーや産直に行くと、デラウェア、巨峰、シャインマスカットなど、さまざまな種類のブドウが並んでいる。

「甘くておいしいブドウですが、犬にとって有害だということを知らない方はかなりいます。生のブドウはもちろん、レーズンも危険。最悪の場合は死亡する危険性もあります」というのは、獣医師で作家の片川優子さんだ。

今回は、この時期に気をつけたいブドウ中毒を中心に、意外と知らないペットにとって身近にある危険なものについて解説いただく。


「犬が食べたがったから」「ダメと知らなかった」という理由であげてしまう人が多い「ブドウ」。

「美味しそうに食べるから」であげるのは絶対NG

このところ、動物病院に、「犬にブドウを食べさせてしまった」という飼い主がたてつづけにやってきている。どちらも飼い犬は一歳未満のパピーで、ブドウの危険性を知らずにあげてしまったという。「犬がおいしそうに食べるのでついついあげてしまった」というが、犬は自分がブドウを食べると危険なことはもちろん知らない。飼い主から甘くてジューシーな旬のフルーツをもらったら、食べてしまう。

ブドウによる犬の中毒が報告されるようになったのは2000年代初頭なので、以前から犬を飼っている人でも、ブドウ中毒を知らずに与えてしまっている可能性もある。中毒の原因となるブドウは、種類に限らず、生でも乾燥させたものでも、調理されたブドウでも中毒を起こすことがわかっている。

ブドウのなにが中毒を引き起こすか、原因はいまだ解明されておらず、いろいろな説があるが、近年では特異体質が原因ではないかと考えられている。中毒の発生に年齢、性別、犬種差はみられていないが、最悪の場合は腎臓に深刻なダメージを受け、死亡するケースもある


人間が食べているから犬に安全とは限らない。危険な食べ物があることを知ってほしい。

どれくらいを食べたら危険? 症状は?

ブドウ中毒の発生については、ブドウを摂取した犬のうち、約38%が嘔吐や下痢などの臨床症状を示したという報告(※1)や、6.7%が急性腎障害を発生したという報告(※2)がある。

中毒量は、1キログラムのレーズンを摂取しても無症状だった犬から、4〜5粒のブドウを摂取しただけで中毒になったダックスフンドまで、個体によってさまざまだ。ブドウの種類や大きさは関係ない。デラウェアだから大丈夫、数粒だから大丈夫、といったことはなく、どんな摂取量であっても中毒を起こし、死亡する可能性はあると言える。


ブドウだけでなく干しブドウもNG。干しブドウは加工されてパンやクッキー、アイスクリームなどにも入っているので注意して。

症状として最も多いのは、ブドウを食べてから24時間以内に嘔吐することだ。嘔吐の他に、下痢をしたり、食欲や元気がなくなったり、お腹が痛むこともある。また、ブドウ中毒で怖いのは急性腎障害だが、腎臓はダメージをおっても、見かけ上は症状が出てこないこともある。無症状だからといって油断は禁物だ。

腎臓は体の水分量を調節し、体内の毒物を体の外に尿として排出する役割を果たしている。その腎臓が傷つくと、毒物が体内に溜まってしまったり、おしっこが作れず、尿が少なくなったり全く作られなくなったりする。そこまで腎臓が障害された場合は、命の危険があるため、入院して集中治療を行う必要がある。

間違って食べさせてしまったら?

犬がブドウを食べたことがわかったら、すぐに動物病院へ行って吐かせた方が良い。通常犬は胃の中のものは4~6時間で腸に流れていくので、早めに催吐処置を行えば、ブドウが体内に吸収される前に体外に出すことが可能だ。夜に食べさせてしまった場合でも、夜間救急病院など、夜間にも開いている動物病院があれば行くべきだろう。


一見元気そうに見えても、食べてしまったのがわかったら動物病院の受診を! 急いで体外に出す必要があるので「様子をみる」ではなく、「急いで病院へ」の選択を。

食べてから時間が経ってしまっても、血液検査や画像検査で腎臓の状態をチェックしたほうがいいので、動物病院を受診した方が良い。ブドウを摂取してから24~48時間後には腎臓の数値が上がる可能性がある。入院下で静脈点滴を行う場合もあるので、なんとか都合をつけて病院に行くべきだ。

ちなみに腎臓の機能をチェックするために血液検査でクレアチニンという項目を調べるのだが、クレアチニンは腎臓の機能が75%低下しないと基準値より上がらないと言われている。血液検査で腎数値に異常があった場合は、相当腎臓がダメージを受けていると覚悟した方が良い。

ブドウ中毒が知られ始めた2005年の報告(※3)では、ブドウ中毒による死亡率は47%(安楽死35%を含む)だった。しかし2019年の報告(※4)では、急性腎障害を発生したのは6.7%(8頭)でそのうち死亡したのは1頭のみだった。これは、ブドウの毒性が広く知られるようになり、飼い主も早期に動物病院を受診するようになったからではないかと言われている。愛犬を守るために、とにかく犬にはブドウを食べさせない、食べてしまったらすぐに動物病院へ行く、という対策を徹底して欲しい。

ペットにとって危険なものはたくさんある

他に犬に中毒を起こすものとして、チョコレート、キシリトール、ネギなどは有名だろう。そのほか、人間の解熱剤としてよく使用されるアセトアミノフェンも犬にとっては有害だ。これは絶対守ってほしいのだが、犬が苦しそうにしているからといって、人間の薬を飲ませるのはやめたほうがいい。


チョコレートも犬が食べると危険。チョコレートそのものだけでなく、チョコレートが入っているお菓子も気を付けたい。食べ残しなどを犬が届くところに置かないことも大事。

人間のご飯を安易に与えるのも気をつけたい。猫は脂肪分に耐性が強く、高脂肪食を与えても消化器症状が出ることはほとんどないが、犬は高脂肪食で下痢や嘔吐、ひどい場合は急性膵炎になるリスクがあるので注意が必要だ。

忘れがちだが、匂いにも注意して欲しい。犬や猫は、私たち以上に鼻がいい。香水はもちろん、柔軟剤や住居用の洗剤でも具合が悪くなることがある。防臭・防水スプレーなども注意が必要だ。

また、以前『チューリップで死亡事故も…ペットの「不治の病」誤飲・誤食の危険性』という記事で書いたが、猫ではユリ中毒に注意したい。ユリは猫にとって猛毒であり、ユリが生けてある花瓶の水を飲んだり、花びらの一部を食べたりしただけでも、急性腎障害により死亡するリスクがある。花粉などを含めた植物全体が猫にとっては毒なのだ。

ユリだけでなく、ユリ科の植物なら中毒の可能性があり、今は花の交配も進み交雑種なども増えているため、ユリ科と知らずに家に持ち込んでしまうケースも多い。我が家では娘が花好きのため、時々生花を買うのだが、「絶対にユリ科でない花を購入する」「トイレなど猫が入らない場所に飾る」などを徹底している。


ユリの猫にとって禁忌。インスタ映えするなどの理由で安易に花といっしょに撮影するのも危険。愛猫家の多くは花を飾ることをあきらめていることが多い。

ただ以前、大きな花束をいただいた時には、複数の花で構成されていたので、ユリ科が紛れているリスクが高く、非常に扱いに困った。猫を飼っている方に花をプレゼントする場合は、ユリ科を避けたり、生花ではなくパッケージされたドライフラワーをあげたり、などの配慮があるとキャットオーナーとしては本当に嬉しい。

ペットを飼うときは命に責任を

犬や猫を飼育しようとしたとき、本を購入して読んで勉強する人は何割くらいいるのだろうか。

日々動物病院で診察をしていると、「毎年ワクチンを打つことを知らなかった」という方がいたり、知らずに有毒なものを与えてしまっていたり、犬と人との信頼関係がうまく築けず咬むようになってしまった犬をそのままにしていたり、人間の食べ物をあげるうちにそれしか食べなくなってしまいどんどん愛犬を太らせてしまったり……と、さまざまなオーナーに遭遇する。

ブドウの誤食も、「盗み食いされた」というよりも、「あげてはいけないことを知らなかった」といって来院することが多い。あげたあとでも、きちんと調べて来院しているだけまだましで、きっと実際は毒物だと知らずにあげてしまって、後日具合が悪くなったり、急に亡くなったり(しているように見える)といった犬や猫がそれなりの数いるのではないだろうか。


「盗み食い」よりも飼い主が知らずにあげているケースが多い。人間の食事は与えない、きちんと管理する、ペットにとって何が害があるかを学ぶことも必要だ。

人間の子供の場合、小さな頃は定期的に健診が行われたり、大きくなったら学校で義務教育を受けられたり、と、ある意味、第三者が客観的に子育てをチェックできるような仕組みがある。しかし、犬や猫などのペットは、今は「家族同然」という距離感でありながら、適正飼育がされているかをチェックしたり、適正な飼育法を指導するシステムは存在しない。どのように犬や猫を育てるかは、すべて飼い主にかかっている

だからこそ、飼い主は責任を持って勉強し、適切な方法で犬や猫を飼育して欲しい。犬や猫は私たちに大きな幸福を与えてくれる。その分だけ私たちは、犬や猫に幸福を与えられているだろうか。


単に「かわいい」だけでなく、命を預かっているということを忘れずに。適正に飼育ができるようにペットオーナー側も勉強することが必要だ。