【ガソリン代「トリガー条項」見送り】なぜ減税ではなく補助金を選ぶのか?「国会論戦を避けたい」岸田政権の姑息な本音

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なぜ岸田政権は「トリガー条項」を発動しないのか?(時事通信フォト)

 ガソリン価格が15年ぶりに過去最高額を更新したが、緊急対策を打ち出した政府には「本気でやっているのか」と訝る声が後を絶たない。8月30日公表のレギュラーガソリン価格(全国平均)は15週連続値上げとなる185.6円に(1リットルあたり、以下同)。同日、岸田文雄首相は価格高騰への緊急対策を発表したが、価格高騰を抑える減税措置にあたる「トリガー条項発動」に踏み切る様子はない。

 岸田政権の緊急対策では9月末までの予定だった激変緩和措置(燃料油価格激変緩和補助金)を年末まで延長する一方、9月7日から補助を拡充すると発表。しかし、あくまで対策は「補助金のみ」で、税を軽減する「トリガー条項発動」については頬被りを決め込んでいるように見える。

 野党からは、国民民主党の玉木雄一郎代表が「ガソリンは税金の塊。取って配るよりもそもそも取ることを一旦停止するほうがわかりやすい」と訴え、日本維新の会からもガソリン減税を唱える声があがっているが、政府は一貫して「補助金のみ」の姿勢だ。8月30日の対策発表の会見でも岸田氏は「(発動直前に)買い控え等の流通の混乱」が生じかねない、という理由で減税案を退けている。

 だが、“税金の塊”ぶりは実に腹立たしい。なにしろ、1リットルに対しては石油税2.8円、ガソリン税(本則53.8円、うち上乗せの暫定税率25.1円)という二つの税に加えて、税込価格に消費税の10%が加わる。

 発動が期待された「トリガー条項」とは、ガソリン価格が160円を3か月連続で超えると、ガソリン税の上乗せ分の課税を止めて、減税する仕組みだ。2011年の東日本大震災の復興財源確保のための震災特例法で凍結されたが、「今こそ解除を」という声が拡がっている。

大事なことを国会が閉じている時期に決める

「政策コストが低くて明快なのは減税」と話すのは、元内閣官房参与で嘉悦大学教授の高橋洋一氏だ。

「負担軽減策としては、減税と補助金のいずれもあり得る。ただ、減税の場合は消費者だけにメリットがあるのに対して、補助金の場合はお金を交付される流通業界にもメリットが生じる」

 では二つの選択肢から、岸田政権が補助金を選ぶ背景に何があるのか。

まさに「税金の塊!」ガソリン1リットルあたりの小売価格の内訳

まさに「税金の塊!」ガソリン1リットルあたりの小売価格の内訳

「政府の財布からお金が出ていくのは同じですが、官僚にとっては業界への差配力が強まる補助金のほうが、逆に弱まる減税より好まれる。特に減税を嫌うのが財務官僚で、岸田政権はその言われるがままやっているのかなとは思います。(価格変動による混乱があるという)デメリットを政府は言いますが、それが理由なら、徐々に減税幅が拡がり、価格高騰が落ち着いたら縮小する、という経過措置の作り方で対応すればいいだけ」

 減税を選ばないことについて“別の動機”を疑うのは法政大学大学院の白鳥浩教授だ。

「確かに、減税をやるには法改正が必要で時間がかかるから、現段階において補助金で対応するのは現実的なやり方ではあります。ただ気になるのは、国会が閉じている間に場当たり的に決める岸田流の政策決定のスタイル。一度法律で決めたことは変えないし、国会が開いていない時に重要なことを決める。非常に問題が大きいと思います」

 ガソリン価格の問題に限らない。健康保険証を廃止してマイナカードと一体化する方針が激しく批判されても変わらないのは、法律に廃止期日が書き込まれていることが影響したとされる。また、防衛3文書の改定や福島第一原発の処理水放出を決めたのは、いずれも国会閉会中だった。「国会できちんと議論することを避けているように見える」(白鳥氏)わけだ。今回のガソリン補助金拡充も、政府の判断一つで国庫の紐を緩めた。

「ウクライナ危機は長期化しそうで、場当たり的に延長した期日である今年12月でガソリン価格が落ち着くとも思えません。それなら抜本的な対策のあり方を国会で議論して仕組みを見直すべき。さもなくば際限のない税金の垂れ流しになる」(白鳥氏)

 なぜ、そこまで国会を避けるのか――。

「最大の懸案である防衛費増額の財源として、政府は、本来は被災地復興のために上乗せしている復興特別所得税を転用しようとしています。ガソリン減税を巡る議論から、“震災復興のための税金”の使い途に注目が転じ、本格的な増税批判へと飛び火するのを恐れているのではないでしょうか」(白鳥氏)

 国民生活を軽視する岸田政権に、国民から厳しい目線が向けられるのは当然だろう。(了)