【ガソリン高騰時代のクルマ選び】トヨタ「プリウス」、ホンダ「フィットRS」「ヴェゼル」の燃費をチェック

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レギュラーガソリン1リットル当たり193円を示すガソリンスタンド(8月16日。時事通信フォト)

 ガソリン代が高騰し、レギュラーガソリン1リットルあたりの全国平均価格が180円を超えた(8月中旬時点)。円安や原油価格の高騰に対して、石油元売り会社への補助金打ち切りも取り沙汰され、さらなる価格上昇も懸念される。連載「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。今回は自動車ライター・佐藤篤司氏が「ガソリン高騰」時の「燃費の味方」となるクルマ選びについて解説する。

プリウスのPHEVとHEVは?

 今回は「クルマ選び」という観点で、ガソリン高騰への防衛策を考えてみます。

「燃費の味方」といえば、トヨタ・プリウスの「ハイブリッドモデル(HEV)」と、充電ができる「PHEVモデル」の2台です。PHEVについては、バッテリーの電力だけで走行できるEVモードで、カタログ値では19インチタイヤ・ホイール装着モデルは87km(WLTCモード)ですが、実際にはエアコンもフル稼働で約52km走行できました。往復50km以内の通勤や買い物での日常利用であれば、ガソリンはほとんど消費せずに走れます。

 一方で自宅での充電を「新電力料金目安単価」でみると、現在は約31円/kWh(税込)。プリウスのPHEVを満充電にするには普通充電(200V/16A)で約4時間30分が必要になり、メーカー公表値ではゼロから充電した場合には約427円/回となっています。最近は電気料金も上昇していますが、50km少々走行するだけであれば、ガソリン代は2.4リットルと同額で走れることになります(180円/lで計算)。結果としてPHEVはEVモードを使い切り、その後は普通充電をせずに、一般的なハイブリッドとして走り、トータルで233.9kmを走行。燃費は「23.4km/l」でした。

「フィットRS」「ヴェゼル」の燃費をチェック

スポーティな走りと省燃費を達成して充電できるPHEVモデルは「23.4km/l」を実現している

スポーティな走りと省燃費を達成して充電できるPHEVモデルは「23.4km/l」を実現している

平均燃費が「23.4km/l」と表示されている

平均燃費が「23.4km/l」と表示されている

4WDのHEVプリウスも燃費は上々

4WDのHEVプリウスも燃費は上々

FFであればさらによい燃費も狙えそうだ

FFであればさらによい燃費も狙えそうだ

 一方のHEVモデルは4WD仕様で、ハイブリッドとしてトータル走行は433.0km、その燃費は「23.3km/l」でした。4WDとFFの違いや、テストコースの違いなど、条件は一定ではありませんが、PHEVとHEVの大きな差が無いという結果でした。

 ここでPHEVの名誉のために言えば、日常的な短距離走行であれば排ガスを出さないゼロエミッションで走ることができ(実際は、エンジンが稼働する場合があります)、一充電辺りの走行距離はテスト走行という使い方でなければもっと稼げたと思います。なによりも感心したのは、PEHVもHEVも特別なエコランをせず、むしろスポーティな走りが自慢という今回の新型の特色を楽しむような走りをした上で、この燃費が出せたことには感心しました。

ホンダのHEVは?

 さて、次はホンダの「フィットRS」と、SUVの「ヴェゼル」の燃費にも注目し、試してみます。どちらも「e:HEV」というホンダ独自のHEVシステムを搭載しています。

 実は昨年、ロングドライブでノーマル仕様「フィット」を使用したのですが、その際の燃費が30km/lを超えたのです。ハイブリッドモデルが得意とする一般路での走行が多く、苦手な高速走行が全行程の2割程度とは言え、30km/lをクリアするのは凄いと思いました。以来、ホンダの走りらしい性能を持ちながら、燃費もいいという「フィットRS」と「ヴェゼル」を試したいと思っていました。

 その結果ですが「フィットRS」は25.7km/l、SUVの「ヴェゼル」は274.1km走行し、燃費は24.2km/lを実現してくれました。「ホンダのe:HEV、なかなかやるな」という感想でした。もちろんエコランをすればどちらももっと燃費は向上できたと思います。

「e:HEV」というハイブリッドシステムを搭載した、走りが自慢の「フィットRS」でも25km/lを越える燃費。ノーマル車では30km/lを超えた経験も

「e:HEV」というハイブリッドシステムを搭載した、走りが自慢の「フィットRS」でも25km/lを越える燃費。ノーマル車では30km/lを超えた経験も

「ホンダ・ヴェゼル」の「e:HEV」システム搭載モデル

「ホンダ・ヴェゼル」の「e:HEV」システム搭載モデル

燃費は「24.2km/l」を達成した

燃費は「24.2km/l」を達成した

BEVの充電インフラと輸入車の存在感

 ガソリン代が高騰したなら「BEV(バッテリーEV)にすればいい」という意見もあります。たしかに、BEVの方が総じて走行にかかる金額は低く抑えられるようです。

 それでは「1日30㎞、月間走行距離900㎞」の場合の充電費用を、軽自動車BEVの日産「サクラ」で試算してみましょう。

 その前提条件は
・充電回数:4日に1回充電として、月に7回とします。
・充電時間:1回6時間
・1時間あたりの充電量:2.9kWh
・電気代:30円/kWh
とします。

 すると1回6時間の電気代は「2.9kWh ×30円×6時間=522円」となります。そして「月間の自宅充電費用」は「1回522円×7回=3654円」です。外出で充電が必要な場合に備えてZESP3(日産ゼロ・エミッションサポートプログラム3)の「都度課金制シンプルプラン」で月額基本料金「550円(税込)/月」に加入。するとサクラの月額の充電費用は「3654円+ZESP3シンプル550円=4204円」となります(※試算は「日産の電気自動車総合サイト」を参考)。

 次に、この月額電気料金をガソリン代の180円/lで割ると、約「23.4l」の給油が可能になります。この給油量で、サクラと同クラスのガソリンエンジン車、日産「ディズ・ハイウェイウースターGターボ」なら、月にどれぐらい走れるでしょうか? 計算すると「23.4l×21.5km/l=503.1km」となります。サクラの方が400kmほど長く走れる計算になります。

 ただし、これは家庭での充電を主体としたプランの場合です。ロングドライブなどで急速充電を行うとこの限りではありません。たとえば「プレミアム10」というプランは急速充電10回無料(100分相当)ですが、その月額基本料金は「4400円」。これで計算するとガソリン車の方が60kmほど長く走れることになります。

 また、9月1日より日産EVのユーザー専用のサービス「ZESP3」がリニューアルされます。この充電プランの変更によって、これまで普通充電は実質魅了でしたが「1分単位で課金」され、実質的な値上げになると思います。

 さらに充電の課金が「充電容量」ではなく「時間単位」という点も問題。結果的に時間がかからないほど、充電料金が安くなるわけで、必然的に「50kWhよりも速く充電ができる90kWh、あるいはそれより早い100kWh以上の急速充電施設の奪い合い」になる可能性があります。もちろんこうした変更は日産だけではないので、各社の充電サービスをチェックする必要があります。

 また急速充電の一充電にかかる時間は30分かかります。ここでコーヒーブレイクというのも悪くないですが、この時間や飲み物代などを「もったいない」と考える人にとっては、BEVはまだ現実的ではないかもしれません。

 こうして見ると、クルマ選びにはこれまで以上に「燃費」や「電費」が大きな意味を持ってきます。カタログの「WLTCモード」の70%が、実質的燃費(電費)と考え、比較検討してみてください。最近では輸入車のルノー・アルカナE-TECHエンジニアードの燃費の良さや、VWのBEV、ID.4の使い勝手の良さにも感心しました。

 こうした燃費や電費の良いクルマを選ぶだけでなく、「急アクセルを控え」、「無駄な荷物を降ろし」、「車間距離は2秒間(前のクルマが目印を通過した2秒後に自分が通過する)」といった「優しい運転」を心がけることも、省燃費にかなり効果あります。また近隣の地域のガソリン価格をチェックし、安いエリアで満タン給油する、というのもよく使う手ではあります。ただ、これもわざわざ出掛けていくだけの効果があるかどうか、そのバランスを考えて判断してください。こうした燃料代の節約につながる努力は、今後もしばらく必要になるでしょう。

 それにしてもレギュラー200円/lを超えたら、果たして政治はどんな対策をとるのでしょうか。頼むから政争の具にして付け焼き刃な政策だけはとらないよう願います。

【プロフィール】
佐藤篤司(さとう・あつし)/男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

日産サクラを普通充電だけで使用するとかなりの節約になる。問題になるのはロングドライブでの充電回数と充電料金だ

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ルノー・アルカナ E-TECHエンジニアードは日本車並みの「26.7km/l」を達成(コンピュータの数値)。中にはメディア対抗の燃費競争で29km/lを超えたチームもあった