夫が死んだらすぐ「離婚」一体ナゼ…日本で「死後離婚」が増えていた「シンプルな理由」

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いま日本はどんな国なのか、私たちはどんな時代を生きているのか。

日本という国や日本人の謎や難題に迫る新書『日本の死角』が発売即6刷となり、普段本を読まない人も手に取り始めている。

意外と知らない日本の論点とは?

「死後離婚」という現象

配偶者の死後に離婚する人がいることをご存知だろうか?

話題書『日本の死角』では、認定NPO法人エンディングセンター理事長・井上治代氏による「日本で死後離婚と夫婦別墓が増えた理由」という論考でそのテーマを深く掘り下げている。一部を紹介したい。

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私は長年、葬送分野をフィールドとしてきた。死や葬送をファインダーにして見えてくる家族の変化にはとても興味をそそられる。

その一つが「死後離婚」という現象だ。そこからは戦後社会の変化が如実に見えてきて、実に面白い。

ここ数年のマスコミ報道を見ると「死後離婚」とは、配偶者の死後に、「姻族関係終了届」を出すことと定義しているものが多い。

これは先行文献を踏まえなければならない私のような研究者から言わせてもらうと、近年顕著になってきた現象だけを捉えているに過ぎない。

そもそも「離婚」という言葉は、夫と妻の関係性を表わすものであって、「姻族関係終了届」のように、配偶者の死後に、自身と姻族(配偶者の父母兄弟姉妹)との関係を絶つことだけに「離婚」の語を使うのは適当であるとは思えない。

言葉は生きものだから社会によって変化する面もあるが、「死後離婚」の語は以前からあり、夫婦が死後に墓を別々にする現象、特に妻が夫や夫の親族と同じ墓に入ることを拒否し夫と別墓にする現象を、私が「死後離婚」と呼んだことに端を発している。

私は1989~1990年に意識調査を実施し、「夫と別墓」を希望する妻たちが3割以上いることを確認した。これは当時『朝日ジャーナル』(1989年9月29日号91頁)で紹介され話題を呼んだ。また拙著『現代お墓事情』(1990年、創元社)でも紹介した。
その後、死後離婚をした人たちのインタビュー記事を『墓をめぐる家族論』(2000年、平凡社新書、第一章「死後離婚」)で取り上げている。

その語は、「post-mortem divorce」(死後離婚)として海外にも紹介された。たとえば「The Daily Telegraph」が2003年2月22日に、「Divorce beyond the grave for Japanese wives」というタイトルで取り上げた。また「Word Spy」というサイトに単語や意味、出典などが紹介されている。

生きているうちは離婚せず、死んでから縁を切る死後離婚が、日本的な現象だとして注目された。

妻による家意識からの離脱

1990年代は、妻による「家からの自由」を求めた死後離婚が多かった。

戦前の明治民法では「妻は婚姻に因りて夫の家に入る」(第788条)と定められていた。戦後、個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいた憲法やそれに基づく民法が制定されたとはいえ、旧法時代の家意識はそうすぐになくなりはしなかった。

女性は結婚すると戦前の家制度さながら、夫側の「ウチの嫁」として扱われ、親戚が集まれば台所に立ちっぱなし、夫および舅姑・小姑に小間使いのように使われ、個として尊重されない人たちも多かった。

時代の過渡期にあって、若者世代から「友だち夫婦」のような新しい関係性が進行する中で、自我を抑えられた生活を強いられた妻たちが、それに耐えられなくなって、行動を起こした。

ある女性は我が子を背負って自殺しようとした。そのとき脳裏に浮かんだのは「いま死んだら、あの人たちと一緒のお墓に入れられてしまう」と。それが自殺を留まった理由だ。「死んでまで一緒はいや」と、夫および夫の家からの自由と、自分らしく生きるために、一人で入るお墓を買った。

おりしも「無縁墳墓の増加」がニュースになり始め、仏教寺院から継承者を必要としない「永代供養墓」が出始めた時であった。

近藤美智子さん(58歳・仮名)は、きっぱりと言った。

「これができた私って、生きられるな、と思った」

何かをふっ切ったように語る美智子さんが実行したこと、それは自分の墓を買ったこと。それも夫や子どもたちとは別に入る墓なのだ。長いこと夫側の親族に悩まされた末、自身が働きに出て得たお金を、夫に内緒で貯め、1992年に自分の墓を買った。

一人で入る墓を買ったというと悲壮感漂う話のように思われがちだが、そうではない。本人にとっては、お赤飯でも炊いて祝いたいぐらい前向きな話なのである。

つまり旧態依然とした家意識をもつ親族や、それに同調する夫と縁を切り、自我を解放する手段を自分で勝ち取ったからだ。

つづく「なぜ若者は結婚しない・できないのか…大人が意外と知らない『2つの理由』」では、家族はコスパが悪いため、コスパで考えると結婚しない方がいいと考える人がいるという現実をわかりやすく分析する。