実は酷評だった名作映画とは…? アメリカで大爆死・日本で大ヒットした映画5選。本国で大コケも日本人に愛された作品たち

日本人にもなじみ深い、アメリカやイギリスなど欧米各国の映画作品たち。日本で有名なあのヒット映画のなかには、意外にも製作国では敬遠されたり興行成績が全然振るわなかったりした作品もあるようだ。今回は、なぜか海を越えて本国よりも日本人の心を鷲掴みにした、アメリカで大コケしたのに日本でヒットした作品を5本ご紹介する。

イギリスでヒンシュクを買うも日本では大ヒット

『小さな恋のメロディ』(1971)

出典:Amazon

上映時間:106分
原題:Melody
製作国:イギリス
監督:ワリス・フセイン
原作:アラン・パーカー
脚本:アラン・パーカー
キャスト:マーク・レスター、トレイシー・ハイド、ジャック・ワイルド、シーラ・スティーフェル

【作品内容】

ロンドンの公立学校に通いながらも、厳格すぎる教師たちや過干渉な親に疑問を持ちながら、それらに大人しく従いながら生きる少年のダニー・ラティマー(マーク・レスター)は、母親に言い含められて少年軍に入隊させられる。

そこで、同じクラスの悪ガキ、トム・オーンショー(ジャック・ワイルド)と友達になる。ある日、女子のダンスを覗いていたオーンショーはダニーも誘うが、そこにいたメロディ・パーキンス(トレイシー・ハイド)という少女にダニーは一目惚れするのだが…。

【注目ポイント】

image

映画『小さな恋のメロディ』(左からトレイシー・ハイド、ジャック・ワイルド、マーク・レスター)【Getty Images】

主人公ダニーと親友オーンショーの友情も描きつつ、ダニーとメロディの初々しい初恋の様子がキレイに描かれている同作。

ダニーとメロディが「大人になるまで待てないから、今すぐ結婚する」と宣言するのは、11歳という大人と子どもの中間を漂う思春期ならではの極論でもある。

仲直りしたオーンショーが神父役になってダニーとメロディの結婚式を仕切ったり、押し寄せてきた教師やダニーの母親に反撃をするシーンは、何年経とうとも、心をくすぐるものがあるストーリーだ。

しかしこの作品、製作国のイギリスや、先行して公開されたアメリカではヒットしなかったどころか、特にイギリスでは非難の対象にされた。

本作のメインテーマが“大人への反抗”であり、さらに中産階級の家に育った主人公が、労働者階級の娘と恋に落ち、さらに労働者階級の出身の親友の手を借りて、この“結婚作戦”を成功させるという設定が、当時のイギリス人には、到底受け入れられなかったのだろうか。

一方で、日本では大ヒットし、未だに根強い人気がある。『小さな恋のメロディ』という邦題も、原題のテイストを壊すことなく、さらにロマンティックさを増幅させたような、見事なタイトルだ。

作中に使われている曲は全てイギリス出身のバンド、ビー・ジーズ(Bee Gees)のもので占められている。サウンドトラック版は日本と、同じくヒットした南米でのみ販売された。

日本では幾度となくリバイバル上映され、2022年には「公開50周年イベント」が行われているほど、その人気は衰えを知らない。

アメリカ的にNGだった有名アクションシリーズ第一作

『ランボー』(1982)

出典:Amazon

上映時間:97分
原題:First Blood
製作国:アメリカ
監督:テッド・コッチェフ
原作:ディヴィッド・マレル
脚本:マイケル・コゾル、ウィリアム・サックハイム、シルベスター・スタローン
キャスト:シルベスター・スタローン、リチャード・クレンナ、ブライアン・デネヒー、ジャック・スターレット、ビル・マッキニー、ジャック・スターレット

【作品内容】

ベトナム戦争の帰還兵であるランボー(シルベスター・スタローン)は、戦友を訪ねてワシントン州の田舎町を訪れる。そこでよそ者とみなされた彼は、高圧的な保安官らに連行される。

取り調べ中に嫌がらせや暴行を受けた彼は、戦時下での拷問がフラッシュバックし保安官らに反撃して打ち倒し、その場から逃亡。山中へと逃げ込み、警察との攻防戦を開始する。

【注目ポイント】

映画『ランボー』主演のシルベスター・スタローン

映画『ランボー』主演のシルベスター・スタローン【Getty Images】

ディヴィッド・マレルの『一人だけの軍隊』を原作に、シルベスター・スタローンが脚本と主演を務め、37年の月日を経て最終章となる『ランボー ラスト・ブラッド』(2019)まで、実に5作もの続編が製作された『ランボー』シリーズ第1作。

反戦ムード一色のベトナム戦争後のアメリカを舞台に、社会から孤立したベトナム帰還兵ランボーの苦悩と孤独な戦いを描き、スタローンは本作の成功により、『ロッキー』シリーズと合わせ、アクションスターとしての地位を確立した。

しかし、当時のアメリカ社会では、ベトナム戦争からの帰還兵への偏見が強く残り、帰国後、仲間が死んでいたことを知らされた挙げ句、社会から疎外され、行き場を失った主人公が、母国アメリカの警察官を殺害するというストーリーが嫌悪の対象とされ、ヒットすることはなかった。

さらに、原題の『First Blood』には、“先に血を流させた者”が転じて「先制攻撃」という意味が込められており、ベトナム帰還兵の苦しみやアメリカの闇が描かれていることで、ベトナム戦争において事実上、敗走を余儀なくされたというアメリカ人全てが抱えるトラウマを思い出させるような描写も敬遠された一因だ。

その教訓からか、続編では、原題も『Rambo』に変え、その怒りの標的は、海外の紛争地に向くことになり、アフガニスタン、ミャンマー(ビルマ時代も含む)、メキシコを、舞台を変えながら内容も変化していき、本国アメリカでも受け入れられ、『ランボー』シリーズは、徐々にヒット作となっていく。

主演のスタローンは、ほぼノースタントで演じ、その生々しい戦闘シーンや人種差別の描写に関する批判を受けながらも、第1作から37年ものロングランのシリーズを生み出した。

ゴールデンラズベリー賞にノミネートされたダメダメ映画

『パールハーバー』(2001)

出典:Amazon

上映時間:183分
原題:Pearl Harbor
製作国:アメリカ
監督:マイケル・ベイ
脚本:ランダル・ウォレス
キャスト:ベン・アフレック、ジョシュ・ハートネット、ケイト・ベッキンセール、キューバ・グッディング・Jr.、トム・サイズモア、ジョン・ボイト

【作品内容】

1941年の日本軍による真珠湾攻撃(パールハーバー・アタック)を背景に、アメリカ陸軍航空隊に所属する2人のパイロットと看護婦との愛と友情の物語。

固い絆で結ばれた若者レイフ・マコーレー(ベン・アフレック)とダニー・ウォーカー(ジョシュ・ハートネット)。レイフは恋人イヴリン・ジョンソン(ケイト・ベッキンセイル)をダニーに託し、ヨーロッパの戦地へと向かう。

1941年12月7日早朝、宣戦布告もなく、日本軍の真珠湾攻撃が始まる。レイフとダニーは、戦闘機に乗り込むと、必死に自軍を守るために戦ったが、基地の損害は甚大だった…。

【注目ポイント】

パール・ハーバー

映画『パール・ハーバー』(左から)ベン・アフレック、ケイト・ベッキンセール【Getty Images】

「パールハーバー」と聞いて、戦争映画と思いきや、その内容はコテコテの恋愛映画だ。恋人が死んだと思って、その親友といい仲になったと思っていたら実は生きていたなどという、あまりにベタ過ぎる設定。そこに真珠湾攻撃の悲劇を重ねる必然性が全く見いだせない。

真珠湾攻撃のシーンは、ハリウッド映画らしく迫力満点だが、あまりにも日本人を馬鹿にしたような滑稽な描写には腹立たしさすら覚える。

こうした映画にリアリティーを求めるのは無粋ではあるが、日本人を適当に描きすぎである、という点は否めない。20世紀に見られたような古臭い日本人像であり、雑すぎるのだ。

真にアメリカ側の視点の真珠湾攻撃を描きたいのであれば、日本側もしっかりと描くべきではないだろうか。現に、一つの戦場をアメリカ側と日本側双方の視点から描き分けた『父親たちの星条旗』(2005)、『硫黄島からの手紙』(2006)という傑作が存在するではないか。

本作は、興行収入では、製作国のアメリカ(約63億円)以上に、日本でヒットした(約69億円)作品ではあるものの、その評価は決して高くなく、同年のゴールデンラズベリー賞(最低映画賞)にノミネートされた。

しかし、ステレオタイプな日本人像を描いた本作がアメリカよりも日本でヒットするとは何たる皮肉。2000年代初頭は、まだまだ「全米が泣いた」と盛大に宣伝をすれば、とりあえずハリウッド映画がヒットする時代だったのだろう。

9.11を機に再評価されたブラピ主演作

『ファイト・クラブ』(1999)

出典:Amazon

上映時間:139分
原題:Fight Club
製作国:アメリカ
監督:デビッド・フィンチャー
原作:チャック・パラニューク
脚本:ジム・ウールス
キャスト:ブラッド・ピット、エドワード・ノートン、ヘレナ・ボナム・カーター、ミート・ローフ、ジャレッド・レト、デビッド・アンドリュース

【作品内容】

鬼才デビッド・フィンチャーを監督に、ブラッド・ピットを主演に迎え、殴り合いのクラブ“ファイト・クラブ”を創設した青年たちの奇妙な関係を描きながら、文明社会の病巣を暴き出すことで、文明社会の病巣を暴き出すセンセーショナルな人間ドラマ。

自動車会社に勤務し、全米を飛び回ってリコールの調査を担当するエグゼクティブでありながらも不眠症に悩む青年ジャック(エドワード・ノートン)は、精神科医の勧めで、睾丸ガン患者の集いに参加する。

そこで出会う謎の女性マーラ・シンガー(ヘレナ・ボナム・カーター)と知り合うが、不眠症は悪化してしまう…。

【注目ポイント】

ブラッド・ピット

ブラッド・ピット【Getty Images】

あまりにも暴力的な描写が非難の対象とされ、“マッチョ・ポルノ”と揶揄された上に、アメリカ本国での興行収入はわずか3700万ドル(約53億円)で、製作費も回収できない事態に。その結果、20世紀フォックスの重役が解雇されるハメになった。ちなみに、ハリウッドにおけるヒットの指標は1億ドル(約110億円)である。

一方で、日本では興行収入約20億円のヒットを記録。日本におけるヒットの指標は10億円であることを鑑みると、素晴らしい成績だと言えるだろう。

ブラピ人気を証明した形だが、その評判は芳しいものではなかった。しかし本作が再評価される事件が起こる。2001年9月11日の同時多発テロ事件だ。

本作は資本主義社会を皮肉った、哲学的作品だが、反資本主義、そして崩れ落ちていく金融関係のビルといった現実は、本作とオーバーラップするものだ。当初、テロ実行犯として、本作に影響を受けた者の犯行も視野に入れられていたほどだ。

内容は複雑にして難解だが、その事実だけで、いかに本作が先鋭的であったかを示しているといえよう。

コロナ禍が祟ってアメリカで低迷

『TENET テネット』(2020)

出典:Amazon

上映時間:150分
原題:Tenet
製作国:アメリカ
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
キャスト:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、アーロン・テイラー=ジョンソン、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナー

【作品内容】

CIA工作員の“名もなき男”(ジョン・デヴィッド・ワシントンジョン・デヴィッド・ワシントン)は、とある研究室で、弾痕から拳銃の中へ逆行する弾丸を見せられ、“時間を逆行させる”未来の装置が存在し、その装置を使って第3次世界大戦を起こそうとしているテロ集団がいることを知る。

彼は協力者ニール(ロバート・パティンソン)と組み、この弾丸を売った人物を追ってインドのムンバイへ飛ぶ。これらの陰謀の陰では、未来人と共謀する武器商人のアンドレイ・セイター(ケネス・ブラナー)がいた。

“名もなき男”とニールは世界滅亡の陰謀を阻止すべく力を合わせる。

【注目ポイント】

クリストファー・ノーラン監督

クリストファー・ノーラン監督【Getty Images】

2億2500万ドル(約313億円)もの製作費を投じ、本物の飛行機(ボーイング747)を買い上げた上で、実際に激突させるなど、脅威の大スケール描いた極限のタイムサスペンス超大作。2021年アカデミー賞では視覚効果賞を受賞した。

SF大作を数多く手掛けながらも、特撮を多用し極力、CGの使用を避け、デジカメではなくフィルム撮影にこだわりを持つ一方で、いち早くIMAXカメラを導入するなど、独特の感性を持ち合わせるノーラン。

『007』シリーズのファンでもあり、「いつかはボンド映画を監督したい」と語る彼にとって初となるスパイ映画だったが、本国アメリカでは、新型コロナウィルスの影響をモロに受け、興行収入は公開5週間で4500万ドル(約63億8000万円)と低迷。

一方で、欧州や中東、日本では大ヒットを記録し、結果的には、日本での興行収入が20億円を突破し、全世界での興行収入も約3億6000万ドル(約526億円)を記録した。

新型コロナに苦しむ映画業界に、極上のスペクタクル作を届け、改めて映画の素晴らしさを示した作品となった。