なぜ外国人は日本の不動産を自由に買える?「安全保障より私権」でいいのか

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外国人にも人気がある東京のタワマン。写真はイメージ(写真:アフロ)

経済の長期低迷と為替の円安基調が相まって、“安いニッポン”という言葉がよく使われるようになった。それに伴い、よく話題に上るようになったのが、外国人が日本の不動産を“爆買い”する動きだ。ツイッター上で「May_Roma」(めいろま)として鋭いツイートを続ける元・国連専⾨機関職員の⾕本真由美氏が明かす日本の実態とは。

(*)本稿は『激安ニッポン』(⾕本真由美、マガジンハウス)の一部を抜粋・再編集したものです。

家も土地も“無制限に”買い放題

 先進国も発展途上国も海外の不動産を求めていますが、それではなぜ、数ある国の中で日本の不動産を買うのでしょうか。彼らが日本の不動産を買う理由の一つは、規制が他の国に比べてかなり緩いことです。日本では基本的に、外国人が不動産を売買することや所有することに関して禁止事項がほとんどなく、日本人と同じように売り買いができます。

 なぜ、そうなっているかというと、日本は土地や建物の売買・所有に関しては自由主義の立場を取ってきたからです。売買も所有も自由にしておけば、日本の土地や建物に投資したい外国人も活発に取引を行ってくれます。

 たとえば、外国企業が日本に工場やショッピングモールをつくったり、外国人が投資用にマンションを購入したりしてくれれば、日本経済にとってはメリットがあります。


日本を代表するスキーリゾート、北海道ニセコも、外国企業や外国人による不動産投資が活発な土地の一つだ(写真:AP/アフロ)

 日本は1994年に「GATS(General Agreement on Trade in Services:サービス貿易に関する一般協定)」という国際協定に参加しています。これは「世界貿易機関を設立するマラケッシュ協定(WTO協定)」の一部で、簡単に言うと、参加国では規制を少なくし、自由に取引をできるようにしましょうという決まりです。

 この協定では「日本人と外国人の待遇に格差を設けてはならない」となっています。協定を結んだときに日本政府が土地と建物には不適用とすればよかったのですが、外国からお金を集めることを優先したのでそうはしなかったのです。

 なので日本では、他の国のように外国人が土地や建物を買う場合、

  • 国籍や永住権を持っているか?
  • 日本に実際に住んでいるか?
  • 日本で実際にビジネスをやっているか?
  • などといった条件がないわけです。

     外国人が日本で不動産を買うときには、日本人が買うときと同様に登記します。また、所有権の期限はなく、売買・贈与・相続も可能です。所得税や固定資産税といった税金も日本人と同じです。

    イギリスでは一部を除き、借地権を取引する

     一方で海外の場合は、日本のように自由ではありません。

     中国をはじめとした多くのアジア諸国では、外国人だけではなく、その国の人も土地を所有することができません。

     これは他の国でも同じです。

     たとえばイギリスだと、一部の土地や建物を除いてすべて王室・貴族が所有しているので、基本的には借地権を取引することになります。

     イギリス人も外国人も平等に借地権の取引を行うことになっていて、借地権は数年程度から999年契約などと大きな幅があります。10年程度の短い借地権だと、不動産価格はかなり下がります。

     また、東南アジア諸国では、外国人が不動産を取得することはできるものの、以下のような規制があります。

    • 外国人価格で買わなければならない
    • 新築のみ買うことができる
    • マンションの外国人の部屋保有割合を規制している
    • 現地の国籍を持つ人と法人をつくって、共同所有でなければならない

     こういった規制に比べると、日本の外国人に対する不動産所有は実にオープンで自由なのです。

    「日本の無人島」を買った中国人

     実際に、日本の土地を外国人が買ったことが話題になることも増えてきています。2023年2月、中国人の女性が沖縄本島の北に位置する無人島「屋那覇島(やなはじま)」を3年前に購入していたことを明かし、海岸で遊んだり、森の中を歩き回ったりする様子をSNSで公開しました。この女性は山東省出身の34歳で、彼女の家は不動産業と金融業を営んでいるそうです。中国メディアの取材に対し、親族の会社名義で島の5割程度の土地を購入したと説明しています。


    中国人の女性による購入が話題になった沖縄・屋那覇島(画像:共同)

     女性は「美しい景色を共有するために投稿した」とのことですが、沖縄の離島という性質上、どうしても領土問題・安全保障問題を想起させます。彼女のSNSには、「中国の領土にできますね」「中国軍が行くには便利な場所ですか?」といったコメントもつきました。

     そうした懸念を受けて、官房長官が記者会見で「法律には違反していない」としたうえで、「動向を注視する」と発言しました。

     沖縄のような安全保障上の重要な地域でさえ、外国人が買えてしまうのですから、都内のタワーマンションなどはより簡単に購入できてしまうでしょう。
     しかし、ここに来てやっと日本政府は重い腰を上げ、外国人による土地の購入と所有に関して規制を設け始めました。

    ついに外国人所有の規制がつくられた

     2021年6月には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」という法律が成立しています。

     この法律では、自衛隊の基地や原子力発電所といった重要な施設、離島など国境に近い場所の土地を買う人に対して、国が名前や国籍を調査できるというものです。購入者だけではなく借りる人の名前や国籍を調べることも可能です。

     特に重要な地域は「特別注視区域」と呼ばれていて、買う人の名前や国籍などを事前に届け出なければなりません。

     現在規制されているのは自衛隊関係の施設周辺など500カ所以上です。意外と数が多いので驚くのではないでしょうか。

     規制地域で日本の安全保障を犯すような行為があった場合は、国が土地や建物の利用を中止できます。安全保障を犯すような行為というのは、たとえばスパイ行為とか破壊行為、水道や電線を壊す、道路を封鎖する、デモ活動、妨害電波を出すといったものですが、判断は国に委ねられています。

     また、虚偽を申し出ることや届け出の通りに土地を使わないことも禁止されています。禁止事項を破った場合、2年以下の懲役や200万円以上の罰金が課せられます。

    「外国人に土地を買わせるべき」だと主張する人たち

     日本政府は、この規制を安全保障に対する脅威に対抗するために実施しています。端的に言うと、近年日本の土地を買いあさっている中国に対する対抗策です。

     ところが、この規制もかなり問題があり、外国人の土地の取得自体を完全に禁止しているわけではないわけです。

     条文をよく読むとわかりますが、あくまで規制対象地域を購入しようとする外国人に対して調査を行う、使用禁止の命令を出すことができる、場合によっては国が買い上げを行うことが定義されているので、外国人に対して土地を売ることを禁止してはいません。

     一方で、この法律に対して、立憲民主党や日本共産党、弁護士会などが「私権を制限する」という理由で反対してきましたが、海外の先進国は類似する法律があることが多いので、このような法律を施行するのはごく当たり前のことです。反対する人々は日本の安全保障よりも「私権を制限する」というよくわからない理由を優先しています。

     つまり、彼らは、日本に安全保障上の危機が及ぶ可能性があっても、外国人が自由に土地を売買することを許しましょうということを言っているわけです。


    激安ニッポン』(⾕本真由美、マガジンハウス)