「親が亡くなると銀行に行け」は本当か。口座凍結の実際を元銀行員が解説銀行口座が凍結されると入出金や引き落としができなくなる

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内閣府が公表した「令和5年版高齢社会白書」によると、令和52(2070)年には、2.6人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上になると推計されます。

出所:内閣府「令和5年版高齢社会白書」

両親が高齢になると、そろそろ知っておきたいのが銀行での相続手続きについてです。
中には、「亡くなるとすぐに銀行口座が凍結される」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。

この記事では、死亡後に銀行口座が凍結されるタイミングやその影響について、元銀行員の筆者が体験談を交えながら解説します。
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親が亡くなってから銀行口座が凍結されるタイミングはいつ?

預金者の死亡によって銀行口座が凍結されるタイミングは、「銀行が死亡の事実を知ったとき」です。

とはいえ、病院や役所から銀行へ死亡の事実が提供されるわけではありません。

では、銀行はどのようにして預金者が亡くなったことを知るのでしょうか。

具体的なケースを見ていきましょう。

●遺族が銀行に届け出たとき

最も多いのが、遺族が銀行に死亡の事実を届け出たタイミングです。

銀行側は、口座番号や生年月日などのヒアリングによって預金者を特定したうえで、口座の凍結手続きを行います。

届け出る方法は銀行によって異なりますが、一般的には窓口への来店や電話連絡にて行います。

メガバンクのように顧客が多い場合については、Webサイトの専用フォームにて届け出を受け付けるケースもあるようです。

●新聞などのメディアで訃報が確認できたとき

銀行は、新聞のお悔やみ欄で訃報を知ることもあります。

この場合は、遺族からの届け出がなくても凍結手続きを行いますので、遺族にとっては「いつの間にか口座が凍結されていた」と感じることも珍しくありません。

また、著名人など訃報がメディアで取り扱われた場合も凍結手続きを行います。

●銀行の役職員が葬儀に参列したとき

取引先の役員や大口預金先など銀行とのつながりが深かった場合は、銀行の役職員が葬儀に参列することもあります。

筆者も銀行員時代はお客さまの葬儀に何度も参列しましたが、その場合は必ず凍結手続きを行っていました。

銀行は葬儀に参列することで当然死亡の事実を確認していますので、遺族からの届け出がなくても凍結手続きを行います。

銀行口座が凍結されると入出金や引き落としができなくなる

銀行口座が凍結されると、入出金だけでなく口座振替による引き落としもできなくなります。

公共料金やクレジットカードの利用代金、家賃などの引き落としも全てエラーとなりますので、引き落としができないと困るようなものは事前に他の家族の口座へ変更しておくのもひとつの方法です。

●「預貯金の払い戻し制度」を使うことも可能

銀行口座が凍結されると出金できなくなりますが、中には「葬儀代や病院への支払いを親の口座から行いたい」、「遺された家族の当面の生活費を引き出したい」というケースもあるかもしれません。
その場合は、「預貯金の払い戻し制度」を利用しましょう。

預貯金の払い戻し制度とは2019年7月1日から施行された制度で、遺産分割が終わる前でも預貯金の払い戻しができるものです。

出所:法務省「相続に関するルールが大きく変わります」

ただし、払い戻しができる金額は下記の通り定められています。

相続開始時の預金額 × 1/3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分

また、1つの金融機関から払い戻せる金額は、150万円が上限です。

金融機関によって手続きの流れが異なりますので、くわしくは利用している金融機関へたずねてみましょう。

相続トラブルへの発展に注意

先ほど紹介した預貯金の払い戻し制度は大変便利な制度ですが、遺族間で相続トラブルとならないように配慮することが大切です。

最高裁判所の統計によると、2021年に遺産相続に関して全国の家庭裁判所が取り扱った調停件数は1万3447件となっており、決して珍しいトラブルではありません。

遺産分割の前に預金を払い戻すときは、「どれくらいの金額を引き出すのか」、「引き出したお金は何に使うのか」といったことを必ず相続人全員で確認してください。

亡くなったあとの支払いについて家族間で話し合っておこう

親が亡くなったときは銀行だけでなく、保険会社や年金事務所、役所などさまざまな場所での手続きが発生します。

そのバタバタとしたときに「口座が凍結されてお金が引き出せない」となると、さらに手続きが増えてしまうことも考えられます。

葬儀代や病院への支払いなどで困ることのないよう、亡くなったあとの支払いについては事前に家族間でしっかりと話し合っておきましょう。

参考資料

執筆者

椿 慧理

椿 慧理

元銀行員/金融ライター

兵庫県出身。立命館アジア太平洋大学卒業後、入行した銀行で10年間勤務。個人・法人営業として投資信託、保険、仕組債、外貨預金等の提案・販売を務める。現在は銀行での経験を活かし、金融専門ライターとして活動中。
保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士1種外務員資格内部管理責任者